-カルマンとフェル-6P
うん。手入れされて艶々しているあの髪に、臭いナニカが命中して、怒らない人間はいないと思う。
「ヤーイ、ヤーイ、オレサマの腕前を思い知ったかガウ!」
だけど、フェルはカルマンの怒りに気づいていないっぽい。かなり怒っているであろうカルマンに向かって、さらに煽るような言葉を投げつけ、あろうことか、「お尻ペンペンガウ!」なんて言いながら、カルマンにちょっかいをかける始末。
でも、次の瞬間、カルマンは荒々しい息を吐き、獲物であるフェルの尻尾をガッと掴んだかと思うと、勢いよく窓の外へ放り投げた。
幸い窓は開けてたから、被害はなかったけど、フェルはかなりの距離を飛んでいく。
あー。これは絶対、戻ってくるの遅くなるパターンだ。まぁその間にカルマンも帰っているだろうし──うん。早く帰って欲しい……。
「えっと──」
そんなことを考えても、カルマンに対してかける言葉が浮かばない。下手なことを言って刺激すれば、僕まで半殺しにされかねない。
「どうした?」
僕が言葉に詰まっていると、まだ怒りが収まらない様子のカルマンが、声を低くしながら僕を睨みつける。
「えっ、いや……。なにもないです、ごめんなさい。と、とりあえずお風呂に行って洗い流そ、ね?」
僕はとっさに謝り、カルマンの腕を無理やり引っ張り風呂場へと案内する。
内心、家の洗髪剤であの艶々な髪を元通りにできるのか、とそんな不安が過ぎる。こんな状態じゃ無理……だよね……?