-変わった夢-7P
母さんは、必死に笑いを堪えながら、目に涙を浮かべ、言葉を詰まらせながらも、家庭用の魔水晶を僕に差し出してきた。
「これは?」
魔水晶を渡されても、どうすればいいのか判らない。
魔晶石は、もうこの世界に存在しない。廃れた能力の残り香みたいなモノ。
魔力が〜。なんて話も聞くけど、そんなものを持たない僕からすれば、ただの石ころにしか見えない。
僕は肩をすくめ、キョトリと首を傾げた。
「……どんな汚れも……落としてくれるらしいわよ」
笑いを堪えるのに必死で、母さんは説明している最中でも、僕と目を合わせようとしない。
そんな母さんの態度に不満を覚えながらも、感謝を伝え、魔水晶の先端を割る。
中から、無色透明の液体が溢れ出てきた。水のようにも見えるけど、その正体は判らない。僕は少し緊張しながら、それを顔に塗りそっと洗い流す。
どういう仕組みか全く判らない。だけど。水道水ではなかなか落ちなかった落書きが、見る見るうちに消えていく。
しかも洗い流したあとの肌は、まるで保湿されたようにツヤツヤになっていた。
「母さん、ありがとう! これどうするの?」
顔から落書きが消えると同時に、僕の怒りもスッと消え、心が平和を取り戻す。
心に余裕ができたからかな? 僕はさっきと正反対の穏やかな態度で、空になった魔水晶の欠片を母さんに手渡した。
「持っていても使い物にならないけど……」
母さんは魔水晶の欠片をしげしげと見つめ、少し悩む様子を見せる。この魔水晶は、一度使えばその効果は消えてしまう。だけど、リサイクルが可能だし、色や形状が唯一無二だから、コレクションとしても非常に人気が高い。
母さんは考えた末、
「リサイクルもできるし、持っておきましょう」
と、魔水晶の欠片を僕から受け取った。
そんなプチ事件が片付いたあと、僕は自室に戻らず、リビングで母さんの食事を心待ちにすることにした。