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肌色美少女とコンプライアンス(5)



「えー!高校生に生まれ変わってる!?アラフォーのおっさんだったのに!?」



「利修さま、落ち着いてください。仙人の転生は、人生で一番、肉体的に充実しはじめる時期を選んで行われるのが通例です。よって利修さまも15歳の体に転生されています。」


リコちゃんが説明してくれるのを上の空で聞きながら、両の手で椅子に座ったままの体を触ってみると確かに、以前の体とも違った体つきになっている。全体的にスマートになっているし、手も足も長くなっている。


スマートではあるが、がりがりというわけでもなく均整のとれた体系というのはこういうものかという感じである。



「・・・」


あまりのことに声も出ないのを落ち着いたと判断したのか、瑞姫さんが説明を再開する。


「ちょっとは落ち着いたかい?それでその、地球を守るって仕様の件だが・・・」


「そ、そうでしたね。高校生になって3人の伴侶を得る、で聞き間違えてないですか?」


「聞き間違えてない。正確な聞き取りだ。あと『ラブコメしてくる』という表現を使った。」


「・・・ラブコメですか。それはもっと適任者がいたんじゃないかと言いたくなります。」


正直、前世の記憶の限りでは、上場企業の大企業の社長・経営幹部に対して厳しい経営指導をしてきた経験ばかりであって、高校生の時には残念ながら一人の伴侶も得ていない。


というか、その後も結局死ぬまで伴侶にはめぐり合えていない。そんな奴にラブコメ主人公を務める資格があるのだろうか【注9】



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【注9】:そもそも公認会計士の使命は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することである。


ここにはラブコメ要素は微塵もない。そりゃそうだ。期待する奴さえ一人もいないだろう。

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そんなやつを狙って、ラブコメ異世界転生の使命を与えるってのは、プロジェクト側の魂魄の選定基準に大穴が開いているんじゃないかと疑いたくなる。


「というか僕はまだこの世界が、どういう世界なのかもよくわかってないんですが、高校ってのは僕の理解する高校、ラブコメってのも僕の理解するラブコメで会ってるんですかね?なんだか全然異世界転生感がなくなってきているんですけれども。」


「現在、利修さまが転生されてきた世界は、勇者や魔王が世界を支配しようと企んでいたり、モンスターを退治するとゴールドやケロ、コルが手に入る世界ではありません。文化、時間、地理、言語など、ほとんどの点では、利修さまが以前おられた世界と類似の点が相当多い世界観です。」


リコちゃんが状況を補足してくれる。


「まぁ、なんだ。私たちもこのプロジェクトにかかわって長い。転生者によって、この話をした時の反応はいろいろだが、今の反応は概ねこちらとしては安心の反応だよ。」


「え、そういうものですか。なぜに?」


「うーん、優先順位かな。その見た目を含むスペックで、前世の記憶や能力を残したまま高校に男性を放ったとき、思慮深く、常識的なふるまいに努めてくれて、プロジェクトのことをずっと覚えておいてくれる人かどうか、こっちの要望もちゃんと聞いてくれる人であるとか。いろいろ。」


「・・・なんとなく理解しました。苦労してるんですね。察しました。僕だってそういう風に自由に、できれば、ふるまいたい気持ちはありますが。多分、今のところ、自分の性格はそっちじゃないですね・・・」


「だろう?そういうことだ。それから、ここから大事な話になってくる。ここまでは大丈夫か?」


「いろいろありすぎて大丈夫じゃないですが、聞きます。」


「まず、最初に確認しておきたい。前世のキミ、あるいは当世の130代利修君には二つの選択肢がある。」


瑞姫さんは指2本を僕の目の前に突き出していったん呼吸を置いた。


「一つはこのまま使命を受け入れて利修としての人生を継続すること、もう一つは、使命をあきらめてこの世界から「永遠にさよなら」することだ。どうする?」


予想のついていた選択肢ではあった。ただ突然、永久退場の選択肢を示されてそちらを選択するやつもいないだろう。問題は、使命を受け入れた時の役割がどんなものかを把握する必要があるということだ。


「仮に使命を受け入れる場合、さっきの話のとおり、ラブコメして、3人の伴侶を得てくるという目的に進むことになるんでしょうけど、それができなかった時にはどうなるんですか?」


「・・・話が早くて助かる。端的に言えばその場合も、永遠にさよならだな。」


「その期限はいつまでですか?伴侶っていう定義ももうちょっと教えてほしいです。」


「結論からいえば、伴侶の定義はない。プロジェクトの術式行使に可能なパートナーとしての資質があり、すべての守秘やリスクを受け入れてくれるだけの信頼感を築いた相手ということだけは言っておく。期限は2年。」


「結構きつい条件に見えますね。プロジェクトのことをほかの人に知られたりする事にもペナルティがありますか?」


「察しがいいね。その場合も、ケースバイケースだが、最悪の場合は永遠にさよならだ。」


「予想はなんとなくしてましたけど、永遠にさよならが多いですね。2年に間に合わなかった場合にも当然、って事ですよね?」


「2年に間に合わないと、こちらが判断した場合、2年を待たずしてそのような措置をとる可能性がある。とりあえず最初の1カ月を試用期間として、そこで最初の判断を下す。」


「例えば一人の女性と懇意になりすぎて、ほかの2名からの信頼を失った場合にも・・・?」


「ケースバイケースだが。」


瑞姫さんはそういって感情をおもてにあらわさず頷く。


こんな短期間で「永遠にさよなら」という単語を聞いた記憶はない。前世では、来週にはもうお前の席はないと思え!みたいな昭和じみた脅迫は社内外から何度も受けたことはあるから、それと対して違わないような、やっぱり全然重みが違うような気もする。


どっちにせよ、一度前世の人生は終わってしまっており、次の人生は爬虫類か、昆虫にでもなるんじゃないかと思っていたところ思いがけず人間というか仙人(?)に転生できたなら、それに乗らずにどうするって気はする。こんな時、ラノベやマンガの主人公なら、当然前に進む方を選ぶだろう。



「いいですよ。やります。2年以内にラブコメして、3人の伴侶を見つけて地球を守るプロジェクトに参加します。」



「本当か?」


「まぁ、さすが利修様!」


「この世界にもあるのか知りませんが、前世は信頼を重んじる公認会計士ですからね。やれるだけのことはやってみますよ。せっかくのチャンスなんで。」


なんとなくカッコいい感じで言ってしまったのは、ちょっと調子に乗りすぎた感もある。


「よかったなリコちゃん。詳細な労働時間の交渉や、金銭及び非金銭的報酬や、期限や罰則に関する条件交渉も全くなしで協力受諾してくれたのは過去初めてじゃないか?」


「はい、いつもその条件協議で弁護士先生を交えてすごい時間を掛けるのが常でしたからね。今回の利修さまは私たちにとって福音になりそうな予感がしてきました。」


・・・・ん?あれ?条件交渉とかある世界感なの?


期限とか罰則はテンプレ的には動かせないやつじゃないの?今は過酷なルール設定も知恵をしぼって上手に交渉する系とか、そういうのが最新のテンプレ?最近のラノベテンプレに乗り遅れてた?


「利修くん、これからはずっと利修くんと呼ぶぞ!ここからは私たちはパートナーだ。地球の平和を守るために一緒に頑張ろう。いやー、本当によかった!」


「利修さま。本当に、二つ返事で私たちの依頼を引き受けてくださってありがとうございます。おかげで私たちの仕事もだいぶやりやすくなると思います!」


「・・・あの、条件交渉って・・・」


「え・・・?」


「はい・・・?」


直前までの二人でハグしあって飛び上がって喜んでいるところから、凄い落差のある表情と目線に刺された。これ以上何かいうのはあきらめよう、と確信すべき強い視線。


「会計士なんだろ?信頼を重んじるんだろ?何か言ったのは気のせいだよな・・・?」


「は、はい。気のせいです。」


「よし、順番がだいぶおかしくなってしまったけど、ここからの第130代利修の生活のサポートをする移動型超高性能AIのリコちゃんを改めて紹介するよ。代々800年にわたって、キミたち歴代の利修を支えてきたプロジェクトRi Xiu の基幹システム「RICO」でもあり、その出張型端末を人型のボディに詰め込んだ、超コンパクト美少女ロボットが、今キミの目の前にいるリコちゃんということになる。以後よろしくな。」


「利修さま。改めましてお願いします。今後は、遠慮なく「リコちゃん」とお呼びください!」


「あぁ、よろしく・・・おねがいします。・・・リコちゃん。」


「はいっ!」


リコちゃん、ロボットだったのか。見た目でも全く分からないし、さっきまでのコミュニケーションにも全然不自然な処がなかった。というか利修って800年も続いてるのか?


「そういえば、サポートロボットのボディ外装は自由に変更可能なんだ。何年か前からキミの魂魄を転生候補として選択していた時から、深層意識を解析して好みのタイプに合わせておいたはずだから、好みのズレはないと思うけど、実は男性がよいとか、もっと私みたいな年上が好きっ!とかあるなら早めに教えてな。」


深層意識の解析で好みを分析とか言ったけど、ちょっと待って。この人達、どこまで何を知ってるんだろうか。急な冷汗が止まらない。


いや、別に悪いことは何もしてないのは神に、いや仙人に誓って間違いないのだが。あれとか、これとか、毎日生活のお供にしていた包容力抜群の妹モノのアレとか全部知ってたりするわけ?


「あ、そうだ。利修くんは『頼れる姉妹モノ』がこのみだったよな?一応リコちゃんもサポート役として、キミと一緒に高校に通う予定で、双子の姉ってことで法律上も登記されているから、そこんとこもよろしく!一緒に暮らして甘やかせてくれるサポートは出来上がってるからな。」


ここまで知られた相手に使命の条件交渉などしなくてよかったのではないかと別の安堵がこみあげてくる。いや、厳密にいうならば自分がこよなく愛したのは包容力のある妹モノであって頼れる姉妹モノではない。これは自分のすべてを知られてしまっていると解釈するべきなのか、たまたま用意ししてくれたステージが自分の好みに似通っていただけ、偶然という事なのだろうか。


こういうときは決まっている。知られていると想定して行動すべきである。僕は覚悟を決めてそれ以上の発言をやめた。


ともあれ、こうしてよくわからないまま、前世では公認会計士だった僕は、新しい人生を、高校生としてラブコメして、2年以内に3人の伴侶を見つけてくるという枷を課されて生きることになったのであった。


続く


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