誾千代さん、異世界に転生す 〜 立花の誇りにかけて、無双クエスト始めるぞ 〜
────最期の時まで、夫とは会う事はなかったな。あれはあれで一角の将。いまは不遇をかこつも、慕うものも多い。父が認め我が惚れた彼奴ならば狸も人柄を認め、抑えておきたくなるに違いないから────
────はて、我は井戸に水を汲みに来たはずだが。ここはなんじゃ、牢獄か?
妙に匂うし……我の身体が縮んでおるではないか!
まあ良い、立花の誇りは泥にまみえ身体が幼くなろうとも汚されはせぬ。
「なんじゃ、これは。女──それも小娘ではないか」
「ですが七歳でこの数値ですよ」
なんだ小奴らは。南蛮人にしては締りのない身体じゃ。我を捕えてただで済まぬ事を見せてやろうぞ。
「ぐぎゃ!」
うむ。下卑た顎を蹴り上げるつもりが、縮んだ身体では珍妙な物を蹴るに留まったようじゃ。
「この小娘、ザッコ様に何て事を」
ドカッ!
側仕えの者には始めから、珍妙な物への前蹴りで黙らせた。
「賊徒共に立花の者は遅れを取らぬ」
どうやら怪しげな術で我を虜にしたようだが、猿だろうが狸だろうがこの身、好きにはさせぬ。
「ちと臭うが上反物のようじゃ。貰っておこう」
賊徒の割に着物は派手じゃ。傾奇者崩れかの。我を相手に丸腰なのは勇気を認めてやろう。
転がる二人の身包みを剥ぎ、使える物は貰う。我は側仕えが付けていた、南蛮物の指金を付けてみる。
「ほう、これは文字か!」
南蛮の物とも寺の物とも違う。我でも読めるから不思議な絡繰じゃ。
鍵も見つけた。我はむさい悪党二人を縛り付け口を塞ぎ、牢獄の鍵を締めた。
まずは情報集めじゃな。我は地下牢に閉じ込められておったようじゃ。
上への階段を登ると、眩しい陽の光に目が眩む。
「召喚者が逃げ出しているぞ!」
む、無法者の仲間がおったか。あの人数、無手では厳しいか。
「ふっ、我が名は誾千代なるぞ。立花の誇り、見せてくれるわ!」
立花の誇りこそ我が刃。得物なぞ無くとも、我の力に不足などない。
次々と湧いてくる蛮族共を殴り蹴り倒す。力が溢れるようじゃ。今ならあやつもこの腕一つで倒せそうじゃ。
それにはこの状況の把握が先決のようじゃの。
『クエスト達成おめでとうございます。立花誾千代は悪徳領主屋敷を制圧しました』
なんじゃ、この不快な音と文字は。指金からか?
南蛮人……いや、この文字は我の国の文字。
どうやら我は、クエストなるものに挑みこの地を制圧する事になりそうじゃった。
立花の誇りにかけて、我は必ずやこの地を制し、お前さんに挑みに行くから覚悟せよ!!
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
歴史物を書くつもりが、歴史上の人物の異世界転生になったのでハイファンにしてあります。千文字に収めるには、予備知識頼りになる歴史物は難しいですね。誾千代の言葉も緩くアレンジしています。
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