九 騒動前夜1
割とライブ感で書いているので設定がガバガバになるかもです。いまのうち言っておきます。
「ここおかしくね?」っていうとこあったら指摘コメントをしていただいて構わないです
白銀の王は執務室で渋い顔でいた。なぜかというと宰相が原因だ。宰相は有栖との会話をしてからも、相も変わらず再考を促してきてた。王としての立場や、妃とするに値しないなどを連日王の執務室に来る毎に言ってきているのだ。
「どうしてもご再考いただけないでしょうか。人間を妃になどしてはいけません」
「お前もくどいな。私は再考などせん」
あまりにも多いので、返答は短く定型的なものになっていた。宰相とて再考する気のないことは、伝わっているはず。だが彼はそんなお構いなしに言い続けてきた。なにかある。白銀の王の直感がそう告げてきた。渋かった表情は険しくなっていく。先日に有栖と交わしていた言葉が頭をよぎる。数日経ったというのに、宰相は何も動きを見せてきていない。それがやけに不気味だった。
(何を考えているのか。いや、どう出てくるかだな)
そんなことを宰相と向かいながら、考えていた。お互いの間に沈黙の時が流れてゆく。部屋には二人しかいない。宰相とて長い付き合いだ。こんなことには慣れている。険しい表情で両者がいると不意に沈黙が破られた。
「陛下はおりますか?」
この国の軍事を司っているウィンディゴであった。入ってきた男は大袈裟に反応してみせる。
「おや?宰相殿もいらしていたのですか」
どことなくわざとらしい。宰相が居るのなど、最初からわかっていたのだろう。この筋骨隆々とした男は察しの悪い素振りをしているだけで、本来は目敏く機微を読むに長けている。それはこの部屋にいる者ならばわかっていた。だというのにこのような振る舞いをしているのは、この男が機微を読むのにも長けているということ。己を武人と称するのに、権謀術策にも通じる抜け目のない優秀な武官。多くの者から篤き信頼を得ているだけある。
執務室の机の前に並んでいる最も信頼されている二人。その仲は決して悪くない。
「ずいぶんとわざとらしいですね。何か言いたのなら言ってください」
「はは、お見通しですか」
偉丈夫はとぼけて角に手で触れていた。そんな男を宰相は横目で睨んでいる。それを見て観念したのか真剣な面持ちになり、話を切りだし始めていく。
「宰相殿は人間の娘についてどうするおつもりか」
宰相が人間の娘と交わした言葉を、どこかで耳にしたのか。それとも周囲にいた守備兵にでも聞いたのか。もしくは盗み聞きでもしていたのか。だが白銀の彼にはありがたかった。宰相に尋ねようとしていたことを先に訊いてくれたのだから。
「それが目的ですか」
「いかにも」
「あなたもあの人間の娘に肩入れするつもりですか」
その言葉は刺々しく、敵を見定めるためのもの。その言葉でウィンディゴは静かに笑う。含み笑いともいえたその様子を宰相は怪訝そうな顔で見つめている。
「なにかおかしいことでも」
「そのように断じる物言いをしなくても、と思いまして」
この偉丈夫はこの部屋の中でも年長者であり、白銀の王と宰相が幼い頃から王城に出仕していた。この男は他の二人が己の背丈の半分にも満たない頃から知っている。だからこそ、どこか親や兄のように、諭すがごとく言っていた。そんなお節介をするな、と宰相は睨みながら言いたげだ。
「では陛下もいますので、言わせてもらいます」
睨むのは無駄と悟ったのかベフデティは己が仕える王へ向かう。その姿は国の宰相に相応しく、たとえ王の前で意に反する事でも言ってみせるという強い意志があった。
「私は先日に陛下が妃にしたいと仰った、人間とある話をしました。そしてその人間は陛下の為ならば、なんでもやると言っていました」
宰相はやがてしたり顔へと変わっていく。
「ならばやってもらいましょう陛下の為にも」
まるでその文言を盾にした言い方。宰相は妃となる者を諸侯たちにお披露目してはどうかと言ってその場を後にした。宰相が出ていった部屋はしばらく人がいるのかわからないほど静かになる。外の話し声が微かに聞こえてくるぐらいには。
白銀の王にしてみればやはりであった。あのやり取りを弱みとして握ってくるのは、簡単に想像できていた。有栖の言い出したことであるが故に彼としてはそう易々と否定できるものではない。そして本人も一度決めたことは梃子でも動かないのも知っていた。ふと溜息をつきたくなってしまう。だがまだ部屋には己以外がいるとして気を引き締めよようとする。
「よいのですよ。今この部屋にはあなたと私しかおりません」
取り繕おうとした白銀の王にウィンディゴが気をきかす。この男は主の些細な変化にすら気づけるのだ。それはやはり幼い頃を知っているから。
「お前に隠し事などできんな」
「いえいえ陛下ほどでは」
大男の返答は謙遜した物言いだ。内心でいらぬお節介だとしながらも、どこかありがたくもあった。
「ベフデティの言いたいことは理解できる。だが私は有栖をそばに・・・」
そこまで言いかけて口をつぐむ。見方によっては年相応の若輩者に見えただろう。王として弱みを見せるの少なければ少ない方がいい。ともすればウィンディゴは王にとって信頼が置ける腹心の一人だといえる。武人でありながら政治に通ずるからこその重用。
「陛下は決して間違った選択をしておりませぬ」
幼子を慰めるかのような言い方。そうしてウィンディゴも部屋を出ていった。残ったのは一人。眉間に皺をよせるのが常態化した王だけ。