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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第四章:ミズガルドの王

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第8話:買い物

 決起から翌日、幻の大陸(以下略)を作るための材料集めは早速開始された。


 俺とノアが買い物班。


 エイルは引き続き客寄せ看板娘。


 テンガには余計な問題を引き起こさないように待機を命じた。


「よし、これで半分揃ったな」


 買ったばかりの食材をカバンに詰め終える。


 大陸内交易の中心地でもあるミズガルドで揃わない物はほとんどない。


 街中の店を回ってレシピに記された食材や調味料などを買い揃えていく。


 もちろん、ただ揃えるだけでなく質の厳選も欠かせない。


 この料理に賭けると決めた以上は出来るだけ質の良い物を選びたい。


「ノア、次の食材は?」


 買い物メモを持っているノアに尋ねる。


「えーっと……次は~……チーズ! 『かつて過ぎ去った青春時代、あの人と一緒に過ごした時間のように濃厚なチーズ』だって!」

「『かつて過ぎ去った青春時代、あの人と一緒に過ごした時間のように濃厚なチーズ』かぁ……」


 ふざけてんのかクソババァ……。


 テンガにレシピを渡したという顔も知らない老婦人に思わず内心で毒づく。


「とりあえず、乳製品を取り扱ってる店を探すか……」

「うん! って、あれ、あれれ~……わぁ~……」


 次の店を探そうと思い立った瞬間、ノアが人混みに攫われていった。


「っと……気をつけろよ。こんなとこではぐれたら探すのも一手間だぞ」


 すんでのところでその手を掴んで引っ張り上げる。


 大通りは相変わらず大勢の人混みで溢れている。


 煌めく金髪とおっぱいで目立つとはいえ、流石にここまで視線を遮るものだらけの場所で探すのは骨が折れる。


「うん、気をつける」

「ったく、お前はただでさえ危なっかしいんだからな……」


 戒めながら手を離そうとするが……。


「……おい、何してんだ」

「ん? 何?」


 向こうがギュっと握ったまま離してくれない。


 言葉ではなく、視線でもう離してもいいだろと意思を伝える。


 しかし、気づいていないのか全く離そうともしない。


 男のとは明らかに違う柔らかくてスベスベとした手で俺の手は掴まれたままだ。


「……もう離しても大丈夫だろ」

「でも、はぐれないように気をつけろってルゼルが言ったし」


 改めて言葉で伝えるが、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら平然と返される。


 こうなると単純な説得が通じない奴なのはよく知っている。


 仕方ないと判断して、一際ご機嫌なノアに手を握られたまま再び歩き出す。


 もし妹がいたらこんな感じだったんだろうか……。


 そう考えながら、何故だか感覚的にいつもより濃厚な時間の中で歩き続ける。


「ここだな。トシさん情報によるとほぼ乳製品の専門店らしい」


 十分ほど歩いて、目的の店へと辿り着いた。


 外から見ても多くの乳製品が陳列棚に並んでいるのが見える。


 果たして、『かつて過ぎ去った青春時代、あの人と一緒に過ごした時間のように濃厚なチーズ』はあるんだろうかと思いながら中に入ると――


「ルゼルじゃねーか。何してんだ?」


 同時に店の奥から出てきた一人の男に声をかけられる。


 それは腐れ縁の友人Aこと、ジルドだった。


「ジルド、お前こそこんなとこで何やってんだよ」


 食材の専門店にこいつがいる理由なんて買い物に来た主婦をナンパしてるくらいしか思いつかない。


「ん……いやまあ、野暮用でな……」

「野暮用ってなんだよ。怪しいな」

「俺のことは別にどうでもいいだろ。それよりお前らは何してんだよ」

「あー……実はかくかくしかじかで――」


 何か妙にはぐらかされた気がしつつも、俺たちの事情を伝える。


「へぇ、店を立て直す手伝いねぇ……お前ってほんとにお人好しだな」

「別に俺が主導ってわけじゃなくて、いつも通り巻き込まれただけだっての。お人好しはこいつらだよ」

「そのわりには随分とお熱そうに手を繋いで」


 ニヤっとからかうような、祝福するような笑みをジルドが浮かべる。


 その視線が向けられているのは俺とノアの間。


 そこにはあれからずっと握られ続けていた俺たちの手がある。


「いや、これはこいつが離してくれないだけ――」

「人混みではぐれないようにってルゼルが」

「な、なんで俺の方から握っ――」

「へぇ、いつもは肝心なところでへたれるルゼルがんなこと……」


 弁明しようとする言葉が尽く被せられる。


 こいつら、二人して俺をからかって何が楽しいんだか……。


「んで、目的はチーズな。だったら俺がイチオシのやつがあるぜ」

「イチオシ? お前、料理なんかしたか?」


 両手の指の数ほど居るという彼女に作らせてるイメージしかない。


「しねーけど、美味いもんは知ってるんだよ。ほら、そこにあるダイシア牧場ってところのチーズが絶品なんだよ」


 ジルドが示した先にあったのはよくある円形のチーズ。


 見た目は普通だが、三度の飯より女好きのこいつが食に関してここまで推すのは珍しい。


「わっ、ほんとだぁ……おいし~……」

「あっ、お前……腹減ったからって商品を……って、なんだ試食用のか……」


 蕩けそうな顔をしているノアの前には細切れにされた試食用のチーズが並んでいる。


 てっきり、空腹の余り商品に手を出したのかと思った。


「お前も食ってみろって、まじで美味いから」

「まあ、そこまで言うなら……んっ」


 試食用のチーズを一切れ取って口に放り込む。


 次の瞬間、口内に濃厚な味が広がった。


 かつて過ぎ去った青春時代、あの人と一緒に過ごした時間のように濃厚な味が。


「うおっ……まじで美味いな、これは……」


 喫驚してしまうほどの美味。


 こんなにも美味いチーズを食べたのは初めてだった。


「だろ? 俺も最初に食った時は驚いたからな」


 まるで自分の事のように鼻高々なジルド。


「でもダイシア牧場なんて聞いたこともなかったけどな……他国の牧場か?」

「いや一応ミズガルド自治区内だけど、西部の遠隔地で細々とやってる牧場だからな。知らないのも無理ねぇよ」

「へぇ……にしてはお前は随分と詳しいんだな」

「べ、別にそんなことはねぇよ……ただ偶然知ってただけだっての」


 露骨に狼狽するジルド。


 何か怪しいと訝しむが、ここで追求しても仕方がない。


 今はそれよりもチーズの確保だ。


「んじゃ、俺は用事があるからこの辺りで失礼するわ。店の方も繁盛するといいな」

「おう、良いもん教えてくれてありがとな」


 手を上げて、軽やかな足取りでジルドが店外へと出ていく。


 用事……どうせ女関係なんだろうなと思いながらも、以前ほど羨む気持ちは湧かなかった。


「よし、そんじゃ次の食材を探すか」


 チーズを購入して、試食を続けていたノアに告げる。


 その手は相変わらず、俺の手をぎゅっと強く握りしめている。


「うん! えーっと……次は『初恋のように甘酸っぱくて儚いフラムボワーズ』だって!」


 ふざけてんのかクソババァ……。

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