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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第四章:ミズガルドの王

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第3話:素直な男

「テンガ! テンガじゃねーか!」


 扉の向こう側から現れた友人の姿を見て、思わず椅子から立ち上がる。


 黒髪の長髪に、全身を覆う漆黒のローブ。


 半年前と変わらない不健康そうな顔には特徴的な三白眼が付いている。


 それは紛れもなく半年前を最後に連絡すらよこさなかった友人だった。


「あれ……ルゼルくんじゃないですか……どうも、お久しぶりです……」

「お久しぶりです、じゃねーよ! 半年も連絡しないでどこで何してたんだ?」

「いやまあ……話すと長くなるんですが、色んなところで色々とやってまして……」


 半年ぶりとは思えない軽すぎる調子の物言い。


 全ての語尾に『……』が付いてるような気だるい口調も懐かしい。


「ルゼル、知り合いなの?」


 エイルが座ったまま、俺の顔を見上げて尋ねてくる。


「ああ、一緒に冒険者登録した腐れ縁の友人だよ。まあ、立ち話もなんだし座れよ」

「はい……では、失礼して……」


 対面に座るテンガに合わせて、俺も再び椅子に腰を落とす。


「てっきり、どこかで野垂れ死んでるのかと思ってたよ。ジルドの奴も心配してたぞ」

「ジルドくんにならさっき会いましたよ……。同じことを言われましたけど、修行を成果を見せてあげたらすごく喜んでくれました……」


 うぇへっへっ……っと独特の笑い声を上げるテンガ。


 俺にとっては懐かしくて慣れ親しんだものだが、隣のエイルは若干引いている。


「それにしても、申し込んだパーティにルゼルくんがいるなんてすごい偶然ですね……」

「偶然は偶然だけど。なんで帰ってきて早々パーティに参加しようとしてんだ?」

「それが、久しぶりに帰ってきたら部屋から何から全部引き払われてしまってまして……」

「まさか、ずっと家賃も払ってなかったのかよ……」

「はい、本当はもっと早く帰ってくるつもりだったので……」

「ほんとにな。何も言わずに半年は長すぎだよ」


 怒り気味に言うが、無事に帰ってきたのは安心している。


 見ての通り、どこかで野垂れ死んでてもおかしくないような奴だ。


「すいません……。それで所持金も少なくて、銅級の私ではまとまったお金が手に入る依頼も受けられないので、一旦銀級の方のパーティに入れてもらおうかと思いまして……」

「なるほど、事情は分かった。お前なら歓迎だよ。実力は俺が一番知ってるしな」


 ちょうど足りなかったのが魔法系の後衛なら適任と言っていい。


「ちょっとちょっと、何を勝手に進めてるのよ。パーティのリーダーは私よ、私! あんたは知ってるのかもしれないけど私たちは何も知らないんだから!」

「……まあ、それはそうだな」


 無駄に偉そうだが、言ってることはもっともだ。


 旧知の仲の俺とは違い、二人からするとまだ若干不気味な長髪の男という情報しかない。


「というわけで、一応面接なんだから自己紹介とか自己PRをしてみて」

「あっ、はい……ルゼルくんの友人で銅B級冒険者のテンガ・サガミと申します……」


 俺の方を見ていたテンガがエイルとノアへ向き直り、ハキハキ……とは言えない口調で自己紹介を始める。


「テンガ・サガミ……変わった名前ね」

「ご先祖が大昔に東洋の島国からこっちに移り住んできたらしいです……」


 それは俺も前に聞いたことのある情報だった。


 その証である黒髪黒目の人間はミズガルドにおいて亜人種よりも珍しい。


「へぇ……私はこのパーティ『アビス教』のリーダー、上天の万上座が一柱にして禍福を司る女神のエイルよ」

「はじめまして! 新興教団兼冒険者パーティのアビス教で聖女をやってるノア・グレイルです!」


 合わせて二人も自己紹介を行う。


「ご丁寧にどうも……」


 これまで多数の人間を困惑させてきた挨拶だが、変わり者具合では負けずと劣らないテンガは気にする素振りも見せない。


 そのまま話は次へと進められる。


「えーっと次は自己PRですか、難しいですね……私、自分のことを話すのが苦手なもので……」

「何か少しくらいはあるでしょ。こう……特技とか目標とか……」

「特技ですか……魔法と言えたらいいんですけど、私もまだまだ未熟なのではっきりと言い切れないのが辛いところですね……なので目標は魔法をより極めていくことですかね……はい……」

「へぇ……私ほどじゃないけど、なかなかに立派な志じゃない」


 この面接が始まってからエイルが初めて歓心を表した。


「ありがとうございます……この半年も世界中を巡って地方によって異なるマナの性質について調査してました……」

「そういうストイックなのは嫌いじゃないわ。それで、どんな魔法の研究をしてたのかしら?」


 意外と好感触な反応を見せるエイル。


 このまま行けば合格を貰えそうだが、話の方向が少し気になり始めた。


 こいつに魔法的な目標を掘り下げさせるのはあまり良くない。


「え、エイル……この話はその辺りで切り上げとこうぜ」

「何を言ってるのよ、あんたの友達がせっかく素晴らしい志の話をしてるっていうのに」

「いや、世の中知らない方がいいこともあるっていうか……。それより好きな食べ物の話とかどうだ?」

「何それ、急にどうしたのよ……」


 目を細めて不審がられる。


 友人に対して好印象が抱かれている内に話を終わらせたい気持ちからの行動だった。


 こいつが才能をある種の魔法のみに傾倒させている男だと知られれば評価は一変する。


 しかし、どう説明すればこの場を切り抜けられるのか思い浮かばない。


「いやぁ……それにしても、ルゼルくん……こんな気立ての良い美人さんたちに囲まれてすごいですね……他の方々にも羨ましがられてるんじゃないですか……?」

「あら、美人だなんて上手ね。でも、お世辞が上手いからって合格になるわけじゃないわよ?」


 と言いつつもあからさまにご機嫌なエイル。


 だが、この好印象が一瞬にして反転してしまう地雷が存在している。


「お世辞……? いえ、私って昔から嘘がつけないんですよ……思ったことを全部口に出してしまう性格なので、お世辞ではなくお二方とも本当にすごく美人だと思ってますよ……」

「んふふ……ですって! ルゼル、あんたもこのくらい気の利く言葉を言えるようになりなさいよ!」

「ねぇねぇルゼル、私って美人なの?」


 肘で身体を押して来るエイルと答えづらい質問をしてくるノア。


 しかし、今の俺はそれよりも話があの方向へと逸れないように必死だった。


「そ、それよりテンガ! お前のすごい経歴の話をこいつらに――」

「ああ、そうだ……。お近づきの印と言ってはなんですが、お二人にもこれを差し上げます。これだけの美人さんなら使う機会も多そうですし……」


 そう言ってローブの中に手を差し込むテンガ。


 まずいと思って止めようとするが、もう遅かった。


「どうぞ、お一つずつ」


 依頼票ほどの大きさの紙片が二人に差し出される。


 表面には共通文字とは違う、魔法使い特有のルーン文字がビッシリと書かれている。


 あーあ、俺はもう知らないからな……。


「……何これ?」

「あっ、これって確か呪文書だよね!?」


 手に持った紙を不思議そうに眺めるエイルと心当たりがあるらしき反応を見せるノア。


「はい、呪文書です。私の人生の集大成とも言える魔法の」

「そうそう! 前にルゼルとデートした時に教えてもらった呪文書!」

「で、デート!? ちょっとルゼル! あんたまさかノアに手を出してんじゃないでしょうね!」


 デートという単語に反応したエイルに猛烈な勢いで詰め寄られる。


「違う違う! ノア! 誤解されるようなこと言うな!」

「でも、あれが私の初デートでいいってルゼルも言ったし……」

「何よそれ! 一体どういうこと!?」


 三人でそんな言い争いをしていると、再びテンガが奇妙に笑い始めた。


「いやぁ……三人とも仲睦まじくて羨ましいですね……その呪文書が早速お役に立ちそうで嬉しいです……」

「……早速役に立つ? これ、何の呪文書なの?」


 俺に詰め寄っていたエイルが向きを変えてテンガに尋ねた。


 尋ねてしまった。


「避妊魔法ですけど」


 その瞬間、周囲の空間が急速に冷え切った。


 まるで氷河期が訪れたかのように室内の時間が止まる。


 そう、このテンガ・サガミという男は有り余る才能をその手の魔法にばかり傾倒させていた。


 一見して相性の悪そうに見える遊び人野郎(ジルド)と仲が良いのもそれが理由だ。


「厳密に言うと対象へ薄さ0.01mmの膜を張る魔法ですね。この半年間、世界中を巡って遂に完成させた業界水準の1/10以下の薄さ! でも、強度はなんと二倍以上なんですよ! すごくないですか!? まさに至高の魔法! 究極の芸術です!」


 好きな魔法の話になると、急にハキハキと喋り始める不気味な男。


 子供のように目を輝かせながら、自らの呪文書を誇示している。


 しかし、語りかけている相手はまだ時が止まった世界に取り残されたままだ。


 呪文書を手にしたまま、0.01mmも動かない。


「あれ? エイルさん? どうしました? 感動の余りに気絶してしまいましたか……? もしもーし……それとも一人で使える振動魔法(ウーマナイザー)の方が良かったんですか……?」

「な、ななな……」


 テンガに顔を覗き込まれたエイルが再び動き出す。


「な、ななな、何を言い出すのよ! なんでわ、わわ……私がルゼルとそんなもんを使うって言うのよ!!」


 その顔にはこれまでに見たことのない表情。


 憤怒と焦燥、羞恥やらがごちゃ混ぜになった混沌の感情が渦巻いている。


「ひ、ひひ…………魔法なんて! 使うわけないでしょ! ここ、こ、こんなものを……」


 一部だけボソっと呟きながら更に捲し立てる。


 さっきまで俺に向いていた怒りが何倍、何十倍にもなって矛先を変えていく。


「ねぇ、ルゼル……ひにんって何?」

「さあ、何なんだろうな」


 呪文書を手に純真な口調でボソっと尋ねてきたノアに対して答える。


 こいつだけはどうか純粋なままで居て欲しい。


「え? 使わない派なんですか……それはなんというか……見かけによらず大胆なんですね……」

「そうじゃないわよ!!! 私と! ルゼルは! そんな関係じゃないの! ただの仲間よ! 仲間!!」


 息を荒げ、肩で呼吸しながら避妊……ではなく否認するエイル。


 いつの間にか椅子から立ち上がり、今にもテンガへと殴り掛かりそうだ。


 こいつがここまで狼狽しているのは珍しい。


「そうだ、俺とこいつらはただの同僚だよ。変な勘違いすんな」


 エイルに同調して釘を差しておく。


 俺にはイルザさんがいるんだから妙な噂が広まると困る。


「え? ああ……そうだったんですか……すいません……私、勘違いしてしまってたようで……」

「全く、どうしたらそんな風に見えるのよ……。私とルゼルはただのビジネスパートナーで……そんなこと絶対に……あ、ありえないし……」


 黒い長髪を垂らしながら謝意を示すテンガ。


 エイルはぶつぶつと文句を漏らしながらも怒りは収めつつある。


 どうかこれでこの場は収まって欲しいと願うが――


「いやぁ……だって、今どきこんな風にツンツンしてる高慢属性持ちの人なんてちょろい女性の代名詞みたいな存在じゃないですか……普通はもう攻略済みで抱かれまくってると思いますよ……」

「死ねええええええええええぇぇぇぇッッッ!!!」


 後で知ったことだが、この時のエイルの叫び声は隣の地区まで聞こえていたらしい。

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