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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第四章:ミズガルドの王

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第1話:足りない

「足りない……足りないわ……」


 ギルド併設の酒場で朝食を取っていると、エイルが一人でそう漏らした。


「いきなりどうした? お前の知能の話か?」

「違うわよ! 違うわよったら違うわよ!」


 足りないどころか十分すぎる否定の言葉が耳をつんざく。


「うるせぇな……じゃあ何の話だよ」

「これを見なさい!」


 そう言って、テーブルに威勢よく何かが叩きつけられた。


 隣のノアが食べている朝食の乗った皿がガシャンと音を立てる。


「これを見ろって……ん?」


 それは一冊の雑誌――月刊ミズガルドの最新号だった。


 開かれたページには『この冒険者がすごい!』と書かれている。


 将来性や短期間での活躍なども加味された四半期に一度更新されるランキング形式の人気記事だ。


「なんだ? ここに自分が載ってないのが不満なのか? 常識的に考えて載ってるわけないだろ……」


 改めてページに視線を落とす。


 一位には『屠龍のジークフリート』、二位には『至高天ティタニア』などなど。


 ミズガルドが誇る有名冒険者たちが名前を連ねている。


 ここにこいつの名前が紛れているなんて印刷ミス以外ではありえない。


「おっ、でもフレイヤの名前はあるぞ。あの人がお前の部下だなんて未だに信じられないよな……」


 フレイヤの名前は十三位に記されていた。


 上位のほとんどを第一地区の連中が占めている中で大健闘と言っていい。


 紹介文には『記録的な早さで白金級になった女剣士。単独行動を好むために大規模な依頼の実績は少ないが、一対一での戦闘能力はミズガルドでも上位に入る。精悍な顔立ちは同性からの人気も高い』と書かれている。


 当然ではあるが、『アビス教の伝道師』とは書いていない。


「ほんとだ! すっごーい!」

「ふふん、主神として私も鼻が高いわね……って、違うわよ! こっちよ! こっち!」


 指し示されたのは隣のページ。


 そっちには『次に来る冒険者パーティ』と書かれている。


 こちらは将来性を主に評価された冒険者パーティがランキング形式で紹介されている記事だ。


 一位の座に輝くのは第三地区の『ヴァルキュリア』。


 連日ラジオ番組も賑わせていて、次に来るどころかもう来ている冒険者パーティだ。


 全員が金級の実力者で、歌って踊れるパフォーマンスも兼ね備えた可憐な女性のみで構成されている。


「なるほど、自分に足りないのは愛嬌だってようやく気づいたのか」

「だから違うわよ! 足りないのは、パーティのメンバーよ! メンバー! 冒険者パーティの基本は五人! なのにうちのパーティには三人しかいないの! 前衛と後衛が一人ずつ足りないのよ!」


 バンッと開かれたページが力強く叩かれる。


「あー……そういうことか」


 大声のせいでまた要らぬ注目を浴びてるとは思いつつも発言には納得する。


 確かに冒険者パーティの基本形は――


 攻撃役と防御役の前衛が各一名。


 攻撃役と支援役の後衛が各一名。


 後は何でも卒なくこなすワイルドカード的役割が一人。


 ――という形が多い。


 この記事に載っているパーティも多くはその形だ。


 それを踏まえた上で俺たちの構成を考えてみる。


 俺が前衛の攻撃役でノアが後衛の支援役、この上なく甘く見てエイルが万能役だとすると足りないのは今言われた二人だ。


「そういうわけで、足りない二人のメンバーを募集しようと思ってるわけよ」

「突然だな。でもまあ、いいんじゃないか……って、何だ? 変な顔して……妙なモノでも食ったか?」


 提案を後押ししてやると、エイルは何故か目を丸くして俺の顔を見たまま固まる


「いえ、貴方が私のアイディアを素直に肯定するなんて珍しいと思って……」

「珍しくまともなこと言ってるからな。メンバー募集、大いに結構。好きにやりゃいいさ」


 人員が増えるってことは、こいつのお守り役が増えるってことだ。


 それなら二人でも三人でも百人でも集められるだけ集めて欲しい。


 人が増えれば増えるだけ俺の負担は減る。


「言われなくてもやるわよ。ていうかもう募集も出して、面接用の貸し部屋も申請してあるし」


 ニコっと小気味の良い笑顔と共にエイルが言う。


「いつの間に……しかし、銀級に昇格してから急にやる気出し始めたな」


 数日前の事件で最終的に俺たちが獲得したフレイヤの依頼票。


 任せてと言ったイルザさんはあれをしっかりと俺たちの功績として処理してくれた。


 俺の貢献点は地の底から微動だにしていないが、銅F級の0点からちょうど1万点積み上げた二人は今や銀F級冒険者だ。


 登録したその日に銀級昇格は有史以来の最速記録らしい。


 調子に乗りそうだから教えてないけど。


「だって、この街で名前を売ろうと思ったらどう考えても冒険者として成り上がるのが一番の近道だもの。右を見ても左も見ても冒険者冒険者の冒険者バカばっかりよ。ここに載ってる人たちだって、神でもないのに信者(ファン)がいっぱいいるじゃない」

「それは教団の信者とはまた違うだろ」


 エイルが示しているのは俺が間違えた方の特集。


 出来れば見てないフリをしたかったが、そこにはあのクソエルフ野郎の名前も載っている。


「似たようなものよ。信仰の形なんて時代によって、人々のあり方によって変わっていけばいいのよ。伝統よりも民衆の心に寄り添う革新こそ私のモットーよ」


 それっぽい御託が並べられていく。


 確かに白金級の上位陣ともなると、もはや王様か神様のような崇め方をされていたりする。


 前に一度、白金S級のティタニアが大勢の腰巾着を率いて闊歩しているのを見かけたが、あれこそがこいつの目指す姿なのかもしれない。


「……というわけで、今日のお昼から早速面接の予定が入ってるから貴方達も同席してね」

「相変わらず行動力だけは一人前だな……」


 面接に立ち会うくらいなら付き合ってやるかと思いつつも、既に不穏な予感も抱いていた。


 どうせ今回もこれを契機に妙なトラブルに巻き込まれるんだろうと……。

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