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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第三章:ようこそ、偏執者たちの魔窟へ

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第17話:ケ・セラ・セラ

 フレイヤとの攻防が始まってから十分ほどの時間が経過しようとしていた。


「くっ……!!」


 苛烈な連撃を凌ぎ切ること、これで十回目。


 また彼女が呼吸を整えるために距離を取った。


 だが、流石は歴戦の冒険者というべきか。


「まだまだッ! 私の心は燃えたぎっているぞ!」


 何度迎撃しても即座に持ち直して、また攻撃を仕掛けてくる。


 体力切れを狙うという勝ち筋も考えたが、どう考えても先に尽きそうなのは――


「んっ……はぁ……きつ……」


 地面に膝を着いて、もはやなんとか地面に杖を突き立てている状態のノアだ。


 体力の限界が近いのか、憔悴しきって苦悶の声を漏らしている。


 その姿がちょっとエロい……だなんて今は考えてる場合じゃない。


「エイル! 後どのくらいだ!?」

「あ、後少しなんだけど……もう足をかけられる場所がなくて……んぎぎ……」


 正面の相手から注意を逸らさない程度に一瞥すると、必死にあの髑髏へと向かって手を伸ばしているエイルの姿が映った。


 だが、言葉通りに指先がもう少しで掛かりそうなところで止まってしまっている。


 障壁の外は今や漆黒の死霊で埋め尽くされ、壁面にあった魔石の光は一切見えない。


 ノアが限界を迎えて、こいつらが全て解き放たれればただでは済まない。


「異形の君よ……礼を言わせてくれ。これほどの高みを仰ぐのは初めてだ」


 言葉通り、心の底から感謝しているような穏やかな口調。


「しかし……実力は明らかに貴様が上にも拘らず、何故攻撃してこない……?」


 それはあんたも無事に助けたいからだよと、どうせ伝わらないから心の中で呟く。


「いや、分かっているさ……。それは私にもこの高みまで登って来いと言っているのだな? ああ、言葉はなくとも幾度も刃を交えれば伝わる!」

「いえ、そんなことは一言も言ってないです……」


 伝わらないとは分かっていても言わずにはいられなかった。


「これは奴と戦う時までのとっておきだったが……貴公が相手ならば致し方なし!」


 まだ諦めることなく彼女が武器を構えるが、今度は少し様子が違う。


「我が全霊を以て応えさせてもらう! 言っておくが、これはもうほとんど愛の告白だぞ! 異形の君……いや、マイ・ラブ!!!」


 左右に構えられた二振りの剣が、まるで高純度の魔石が如く紅に輝き出す。


 ……こ、こいつやりやがった!


 ただの双剣使いじゃ飽き足らずに、魔力まで纏わせやがった!


 それはすなわち魔法双剣士――俺が考えるカッコいい戦闘スタイルの極み。


 将来的にやりたかったことをこの女に全て先取りされてしまった。


 悔しすぎて……でもカッコよすぎて……ぐうの音も出ない。


「無理をさせて済まないな……虎徹……正宗……」


 しかも、武器に名前まで付けてるしー!


「え、えーっと……頑張れ、斧次郎!」


 負けじと即席で名前を付けてみるがセンスの差でも完敗した気がする。


「だが、必ずやお前たちに勝利をもたらしてやる!」


 腕を前方で交差させて、身を低く構えるフレイヤ。


 この戦闘が始まってから最大級の攻撃を予感する。


 ノアの限界は近い、この攻撃を凌いだとしても魔力の余波で障壁が破れてしまうかもしれない。


 だとすれば、ここが分水嶺。


 次は迎撃ではなく、反撃して彼女を戦闘不能にするしかない。


 最優先事項である仲間を守るための覚悟を決めていると――


「ああ、もう! こうなったらやるっきゃないわ!!」


 上空から俺よりも一瞬だけ先に何かの覚悟を決めたエイルの声が聞こえてきた。


「やるって何をだよ! 一か八かで跳ぶのか!?」

「違うわよ! 一か八かは合ってるけどね!」

「一か八かってお前……まさか!」


 一か八かという言葉から推測出来るその行動には嫌な予感しかなかった。


「そのまさかよ! こんなところで誰が作ったかもしれない人造神遺物に負けるようじゃ大教団の設立なんて夢のまた夢じゃないの!」

「やめろ、バカ! 早まるな!」

「上天の万神座が一柱、禍福を司る女神エイルが令する!」


 俺の制止を無視して、エイルが呪文の詠唱を開始する。


「糾える禍福の賽よ! 転がり、廻って、彷徨う者たちの道を切り開け!」


 それは俺が二度と出すなと忠告したあの神遺物を使うための詠唱だった。


「自分でも何が起こるか分からないって言ってただろ! それでどうにか――」


 本人をして何が起こるか分からないと言わしめたトンデモアイテム。


 だが、覚悟を決めたエイルを止める術は今の俺にはなかった。


「禍福は荒れ狂う賽の目が如し! ケ・セ・ラ・セラ!!」


 数秒続いた無音の後……


 ――カランカラン。


 背後で、サイコロが硬い地面の上を転がる音が聞こえた。


「……どんな目が出たんだ?」

「き、聞かないでぇ……」


 この世で最も情けない声が聞こえてきた直後――


 ――ドンッ!


 まるで巨人が洞窟全体を飛竜山ごと持ち上げてから落としたような衝撃。


 ――ズズズズズズ……。


 続けて、今度は連続した小刻みな振動が発生する。


 これが言えないほど悪い目で発生した『奇跡』なのは明らかだった。


「ぎゃああああああああああ!!! お、落ちるぅうううううう!!!」

「ふはははは! なんだか分からんが我らが逢瀬(たたかい)のクライマックスにふさわしくなってきたな!」


 地鳴りと悲鳴、そして愉快そうな笑い声が重なる。


 凶事に凶事が重なり、事態は最悪の向こう側へと突入した。


 この状態で戦闘不能にしてしまえば安全に外へと運び出すことすら困難だ。


「さぁ……今度こそ最後だ!」


 そんなことを露知らず、フレイヤは下半身にぐっと力を溜め始める。


「あっ! ま、待って! この揺れで……少し傾いて……」

「双天真陰流、奥義……」


 更に身を低くした彼女が、蜘蛛糸を吐き出すような細い呼気を漏らす。


「エイル、どうした!? どうなってんだ!?」


 眼前の相手に注視したまま、見えないエイルに話しかける。


「とれそ……んぎぃぃぃ…………うりゃあっ!! と、取れた!! 取れたわよ!!」

「本当か!? なら早くこっちに投げろ!」


 エイルに催促した瞬間、フレイヤが地面を蹴った。


 この振動の中、これまでで最速の真正面からの突貫。


 同時に、ちょうど限界を迎えたノアの障壁が消え去る。


 数百にも及ぶ死霊の群れが、一切の猶予なく俺たちへと向かって襲いかかってくる。


「んん~~…………そりゃあっ!!」


 エイルの掛け声に合わせて、上方から何かが空気を切り裂いてこちらへと向かって飛んでくる。


鬼哭啾々(きこくしゆうしゆう)!!」


 正面からは魔力の付与された二振りの刃によるX字の斬り上げ攻撃。


「なんで、奥義だけ…………双が付かないんだよ!!!」


 本日最大のツッコミと共に、真後ろに構えていた斧を縦に振り下ろす。


 エイルによってベストな位置へと飛んできた髑髏と目が合う。


 ――――――――――ッッ!!!


 間近で奴の絶叫が耳をつんざくが――。


 数多の打ち合いによってボロボロになった斧頭が悲鳴を切り裂いて本体を捉えた。


 炸裂音――漆黒の固形体が粉々に砕け散り、周囲へと弾け飛ぶ。


「そのまま……こっちもッ!!」


 そのまま二刀が交差する点で攻撃を受け止める。


 硬い鋼同士の衝突で、超音波のような高音と共に衝撃波が一帯に伝播する。


 根源たる人造神遺物が破壊されたことで死霊の群れが消えていく。


 そして、フレイヤの身体から溢れ出てきた靄も同じように虚空へと霧散していった。


「くっ!! これも受け止めるとは、流石だ……って、あ……あれ? だ、誰だ? え? い、異形の君は!? 私の彼はどこにいった!?」


 目を真ん丸にして辺りをキョロキョロと見回すフレイヤ。


 その行動で狂気に囚われていた彼女も正気に戻ったのだと分かった。


 まさに間一髪、後一秒でも遅れていればこの最良の結末には辿り着けなかった。


 いや……最良じゃなかったな……。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……。


 同士討ちを誘う元凶は消えたが、別の要因で発生した振動は全く収まっていない。


 それどころか、更に激しさを増しつつある。


 上からはパラパラと雨のように天井の破片が崩れ落ちてきている。


 洞窟全部が崩れるな、これは。


「ぎゃあああああああああ!! 落ちるうううううううう!! むぎゃっ!!!」


 半ば確信に近い予感を抱きながら、崖上から落ちてきた新たな問題の元凶を受け止める。


「な、ないすきゃっち……後でほっぺにチューしたげる……」

「気持ちだけ受け取っとくよ……それよりお前、自分で走れるか?」

「む、無理ぃ……手足がもう生まれたての子チュパカブラみたいになってるもん……」


 限界を迎えて小刻みに震える手足を見せてくるエイル。


 真っ白だった指先も茶色く薄汚れている。


 こんなことにはなったが、まあこいつにしては頑張った方か……。


 悪運の強さだけは認めてやろう。


「ノア! お前は走れるか!?」

「ちょっと無理かもぉ……もうへとへとで……」


 ノアも空洞の中心で完全にへたり込んでいる。


 どう見ても崩れる洞窟から大至急脱出できるような状態には見えない。


「だよな……ほら、おぶされ」

「んぅ……ありがとぉ~……」

「なんか私だけ運ばれ方が雑じゃない……? おっぱいに触らないでよ……?」


 右手に斧を持ち、左脇にエイルを抱えて、ノアを背負う。


 そして――


「君いいぃぃッッ!! どこだーーー!! 私の昂りをッ!!! 受け止めてくれるのは!! お前だけなんだああああッッ!!!! ウェア・イズ・マイ・ラアアアアアブッ!!!」

「……フレイヤさん」

「なんだお前は! いきなり出てきて何者だ!」

「あいつならさっき一人で脱出してましたよ」


 辺りを行ったり来たりしながら、彼女視点では突然消えた好敵手を探しているフレイヤに向かって大嘘をつく。


 今は説明している暇はないが、こうすれば多分……


「ほ、本当か!? 誰だか知らんが教えてくれて感謝する! うおおおお!!! 待ってくれええええ!!!!」


 予想通り、出口へと向かって猛烈な勢いで走り出した。


「さて、俺らも脱出するぞ。しっかり捕まってろよ」


 やっぱり、白金級にはまともな奴がいない。


 改めてそう思いながら彼女の後を追って崩れる洞窟から脱出した。

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