表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第三章:ようこそ、偏執者たちの魔窟へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/74

第5話:孤高なる双刃

 酒場から出た俺たちは、そのまま件の洞窟……ではなく、受付側に設置されている依頼掲示板へと向かった。


「えーっと……飛竜山なら、これがいけるかな」

「ルゼル? 何してるの? どーくつに行くんじゃないの?」

「そうよ、何してるのよ。さっさと行くわよ」


 掲示板に貼られた依頼票を眺めていると、隣から二人が急かしてくる。


「そう急かすなって、飛竜山に行くならそこで並行して進められる依頼も受けといた方がいいだろ?」

「確かに……それはそうね。珍しく気が利くじゃない」

「珍しくは余計だよ……よし、これもいけるな」


 エイルの相手をしながら、掲示板に貼られた依頼を物色していく。


 普通ならこの時間帯に銅級(おれ)が受けられる依頼は残っていないが、今回は事情が違う。


 今探しているのは、ギルドを依頼主とした新人育成用の特別依頼。


 受諾出来るのは登録して間もない新人とその教導だけなのでこの時間でも余っている。


 近場での素材採集がほとんどで報酬も多くないが、金欠の俺たちにとっては非常に有り難い制度だ。


 そうしていくつかの依頼表を取り、受付に向かおうとした時だった。


「まあ、こんなもんか……いてっ!」


 後方から何かが俺にぶつかってきた。


「いてーな……なんだ?」


 振り返った先にいたのは、人相の悪い如何にもな三人組。


「おい! このガキ! ぼーっと突っ立ってんじゃねーぞ! ぶっ殺すぞ!」


 先頭に立つオークのように恰幅の良い男が物騒な怒声を上げる。


 見たことのない顔だが、全員が銀級の記章を衣服の一部につけている。


 けど、冒険者として格上であってもここで引く道理はない。


 よそ見しながら歩き、順路を守っていなかったのが向こうなのは間違いないからだ。


「いや、そっちからぶつかって来といてその言い草はないだろ」

「なんだテメェ、ガキの分際で口答え……って、誰かと思ったら永世銅級じゃねーかよ! はっはっは! こりゃ参ったぜ! お前、まだ田舎に帰ってなかったのかよ!」


 リーダー格と思しき先頭の男が、俺の顔を確認するや否や大笑いする。


 釣られて後ろの二人も笑い始める。


 俺はこいつらのことを知らなかったのに、こいつらは俺を知っているとは有名になったもんだ。


 もしかしたら下手な金級冒険者よりも有名だったりするのかもしれない。


「しかも銅級の分際で女連れとは、良いご身分じゃねーか」

「ねぇ君ら、そんな底辺の銅級野郎よりも銀級の俺らと組まねぇ? 色々、教えてやるよ? 色々な」

「公私ともに可愛がってやるぜ? そっちのおっぱいの大きい子とか超好み。俺と良いことしない?」


 下卑た笑みを浮かべながら、下品な言葉を口々に発していく三人組。


 まさに先日ノアに見せようとしていたクソ冒険者の鑑だ。


「ねぇ、ルゼル。良いことってなんだろ? 唐揚げ大会かな?」

「……多分違うから下がってろ」


 明確な悪意を向けられながらも相変わらずなノアを抑えて連中と向き合う。


「んな低劣なことしか言えねーから銀級にもなって女の一人も寄ってこねーんだろ」

「あ? なんだテメェ、銅級の分際で女連れだからって気がデカくなってんのか? なんならここでボコボコにして田舎に送り返してやろうか? そっちの二人は俺らが貰っといてやるからよ」


 威圧的な態度と共に一歩、距離が詰められる。


 むせそうになる酒の匂いが鼻孔を満たす。


 ほんとに朝からこんなやつばっかりだな、ここは……。


 冒険者ギルドという名の掃き溜めに呆れていると――


「ね、ねぇ……ルゼル……!」


 エイルが震える声で俺の名前を呼んだ。


 いつも気丈なエイルらしくない声色。


 まさかこいつらに怯えてるのか?


 いや、そうだよな。


 普段は居丈高で生意気だけど、こいつだってまだ若い女の子だ。


 突然、一回り以上も年上の男三人に絡まれれば怯える――


「え、絵に描いたような三流の小悪党系先輩冒険者よ! サ、サイン貰ってもいいかしら!?」


 わけないよな。


「サイン……って、やめとけやめとけ。そんなもん貰ったって三日後には冷静になってゴミ捨て場行きだぞ」

「でもでも~……だってだって~……」

「はぁ、しかたねーな……ほら、前にお前が書いたふざけた依頼票の裏にでも書いてもらえ」


 普段なら決して乗らないエイルの悪ノリに合わせてしまう。


 自分でも連中の態度がよっぽど腹に据えかねてしまっていたようだ。


「わ~い! この黄ばんだ紙ならいつでも捨てられるわね~!」

「エイル様、なんか分かんないけど私も貰った方がいいのかな? サンリューノ・コアクトーさんのサイン……」

「こ、この(アマ)ァ……俺らを舐めてんのか……?」


 自覚的なエイルと無自覚なノア。


 二種類の挑発に男たちは青筋を立てながら怒りを顕にしている。


「あら、オークみたいな面構えなのにヒトの言語で馬鹿にされてるのは分かるのね。頑張って第二異種族語で履修したのかしら? オーク大学の第一異種族語はゴブリン語だものね。それともトロル語だったかしら?」

「てめぇ……新入りの分際で誰に喧嘩売ってるのか分かってんのか……? 俺らは銀級だぞ? その気になりゃ、てめぇらなんぞ……」

「ああ、ごめんなさい。私はオーク語を履修してないからブヒブヒと何を言ってるのかさっぱり分からないわ。でも私から言えるのは、自分からぶつかった責任を他人に押し付けるのと可憐な女性を口説くのは常人の三倍はある無駄な体積をなんとかしてからにしなさいってことね」

「ぶっ殺すぞ!!」


 白金級の煽り能力を前に、舌戦を諦めた男たちが各々の武器に手をかける。


 流石にやりすぎだ、この馬鹿!


 応戦するために、俺も武器を取ろうとしたその時だった。


「君たち、そこを退いてくれないか?」


 俺たちの間を割るように、入口の方から声が響いた。


 もの穏やかな声量でありながら、どこまでも響き渡りそうな凛とした声。


 俺も三人組も、エイルでさえも吸い込まれるように自然と声の主へと振り返る。


 そこに立っていたのは、燃え盛る焔を彷彿とさせる真っ赤な髪の女性だった。


「どいてくれ、と言ったのが聞こえなかったのか?」


 進路を塞いでいる三人組に向かって、鋭利な刃物のような響きの忠告が繰り返される。


 性別を超えた高度な美を感じる精悍な顔つき。


 女性としては高い身長に、スラリと長く伸びた四肢。


 身に纏うのは見栄えよりも実用性を重視した如何にも冒険者然とした軽装。


「お、おう……」


 男たちはただ一言で、まるで王侯貴族に仕える従者のように一歩引いて道を開ける。


 さっきまでの威勢の良さが嘘のような大人しさ。


 だが、それも仕方がない。


 彼女の持つ圧倒的風格を前に萎縮してしまっているのは、俺も全く同じだった。


「本来は範を示すべき銀級の立場でありながら日中から酒に浸り、よもや新来の者を恫喝(どうかつ)するとは。単刀直入に言って不愉快極まる」

「ぐっ……そ、それはこいつらが……」

「言い訳は無用だ。兼ねてよりお前たちの行動は目に余っていた。探求者としての誇りすらも失くしたのであれば、今すぐにでも荷物をまとめて田舎に帰ったらどうだ?」


 男たちを一睨し、一本に束ねられた真紅の長髪が俺たちの間を悠然と通り抜けて行く。


 たったそれだけの行動で、先刻まで血気を剥き出しにしていた男たちは酔いが冷めたように静まり返った。


 完膚なきまでの正論と圧倒的実力差を前に、ただの一言も言い返せずにいる。


「くそっ……行くぞ……」

「ちっ……」

「覚えてやがれよ……」


 そして、彼女ではなく俺たちに向かって舌打ちや捨て台詞を吐き散らしながらどこかに消えていった。


「ふぅ……危うく大事だったな……」


 奴らが居なくなった空間を見て、ほっと胸をなでおろす。


 登録早々に引き起こされた喧嘩が大事にならなくて良かった。


 いくらムカつく奴らだったとはいえ、エイルに乗っかって焚き付けてしまったのは俺も反省しないと……。


「ねぇ、ルゼル……誰なの? あの小股の切れ上がった良い女は……」


 大喧嘩になりかけた元凶であるエイルが、彼女の背を目で追いかけながら尋ねてくる。


 こいつでさえ、あの人からは何か感じ入るものがあったらしい。


 しかし、なんつー表現だよ……。


「さっきお前がサクっとなるって言ってた中の一人だよ」

「ってことは……あれが?」

「ああ、白金級冒険者……“孤高なる双刃”――フレイヤ・ティフルだ」


 彼女が身につけていた白金の首飾りを思い返しながら、ミズガルドの頂点に立つ一人の名を告げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■各種ランキングサイト
9pw77o9j19z16raddwam8gacgsp7_1c2q_dc_2a_

cont_access.php?citi_cont_id=156571249&size=300

ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ