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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第二章:剣を研ぐ、そして聖女を拾う

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第7話:ノア・グレイル

「えーっと……これは?」

「助けてもらったお礼に、ご飯を作ってみました~!」

「……ごはん?」


 皿の上に乗っているのは何かを炒めたと思しき物に、何かを炒めたと思しき物。


 それと何かを炒めたと思しき物だ。


 俺の想像していた淫猥な要素は微塵も存在していない。


「そうだけど……何か反応薄くない……? あっ、もしかして……嫌いなモノでもあった? それとも……なーんか別のことでも考えてたぁ……?」


 怪訝な目でジトっと見つめられる。


「そ、そそそ、そんなわけないとよ! う、うわぁ! 完ッ璧に予想通りの夕飯だぁ!」


 首を左右に激しく振りながら大げさに取り繕うと、再びその顔に満面の笑みが灯った。


「ならよかった~! ささっ、どうぞこちらへ~!」


 招かれるまま引かれた椅子に座ると、彼女も同じように対面に座る。


「どう? 美味しそうに出来てるかな?」

「ど、どうだろう……」


 期待が込められたキラキラと輝く眼差しを向けられる。


 もう一度、テーブルの上に並べられた数々の料理に視線を落とす。


 まず見た目はかなり悪い。


 加えて鼻の奥がツーンと刺激される凄まじい香辛料の匂いがしている。


 食欲を唆るのか唆らないのか微妙な匂いだが、少なくともさっきまで猛っていた別の欲はどこかに消失していった。


 股間の『神剣グラム』に至っては納刀状態になっている。


 どうやら人ってやつは同時に別の欲求を抱かないように出来ているらしい。


「まあまあ食べてみて! 見た目はちょっと悪いけど多分美味しいから!」


 女の子は再び両手を目一杯広げて、机の上にところ狭しと並べられた料理を示す。


 そうだよな……そりゃそうだ!


 俺は最初からお礼の手料理だと思ってたよ。


 助けたお礼を身体で払ってもらおうなんて考える奴は男の風上にも置けない。


 人間のクズと言っていい。当然だ。


「ほらほら、食べて食べて。はじめて料理したけど、けっこー自信あるからさ!」

「は、はじめて? 生まれてから?」

「うん! でも自信作だからだいじょーぶ!」


 何の根拠もなさそうな自信に溢れている笑顔。


 実際のところ、皿に盛られた料理の見てくれはかなりよろしくない。


 適当な具材に適当な調味料を絡めてフライパンでめちゃくちゃに炒めただけって感じだ。


 これなら俺の方がもう少しまともな料理を作れると思う。


「じゃ、じゃあ……いただきます……」


 不安を覚えながらも肉の塊らしきモノを掴んで口内に放り込む。


 ……うっ。


 色んな調味料がドロドロに混ざった濃い味が口の中いっぱいに広がっていく。


「どう!? おいしい!?」


 大きな期待が込められた目で見つめられる。


「ん……まあ……」


 美味しくはない……美味しくはないが……。


 横目でちらりと台所の方を見る。


 ここに住み始めてからほとんど使っていなかった調理用具がいくつも散乱している。


 お世辞にも美味しいとは言いづらいが、一生懸命作ってくれたのはよく分かった。


「まあ、美味しいんじゃないか……?」


 だから、その気持ちを無下には出来なかった。


「ほんとに!? やったー!」


 ものすごく喜んでいる。


 その純真な反応に、邪な期待を抱いていた自分が少し恥ずかしくなった。


「えっと、それじゃあ改めて……私、ノア・グレイルって言います。この度は危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました」


 謎の巨乳女子改めノアが、テーブルの上に三つ指をついて深く頭を下げた。


 さっきまでとギャップのある慎んだ態度に少しドキっとしてしまう。


 それと、この角度からだと胸元がもろに見えてしまってる……。


「どういたしまして。そういや俺もまだ名乗ってなかったな。俺はルゼル・アクスト。一応、冒険者だ」

「え!? 冒険者!?」


 冒険者という単語を聞いたノアが、ぱっと顔を上げた。


「それって色んな人の願いを聞いては叶えてあげるっていうあの冒険者!?」

「願いを……まあ、かなり恣意的な言い方をすればそう言えなくもねーのか……?」

「わぁ……やっぱそんなにすごい人だったんだ……。だから困ってる人を助けるのがふつーなんだ……」


 キラキラと輝く憧憬の眼差しで見つめてくるノア。


 さっきからこの子の中で俺の株が凄まじい勢いで上がり続けている気がする。


 今更、実態はそこまで大した冒険者じゃないとは言いづらくなってきた。


「えっと、それで……私があの人達に追われてた理由なんだけど実は――」

「あー、それは言わなくてもいい。言われなくても大体分かってるから」


 ノアの言葉を遮って、そう言ってやる。


 風呂屋の仕事が嫌になって辞めた事の子細を、わざわざ本人の口から話させる必要はない。


「えっ! 分かってるの!? やっぱり冒険者の人ってすご~……」


 何故か妙な驚き方をするノア。


 あんな場所であんな格好の男女が揉めていたら誰だって分かると思うが……。


「ああ、それにもう過去のことだろ? わざわざ思い出す必要もないって」


 こんなに良い子だ。


 きっと思い出したくもないクソ客の要望にだって応えてきたんだろう。


 それこそアレを挟んだりとかコレで挟んだりとか、うらや……けしからんことも。


「今日からは自由の身。過去は捨てて新しい自分として生きていけばいい。なんたってここは世界で一番自由な場所、ミズガルドなんだからな」

「自由……新しい自分……そっか……そうだよね!」


 目をキラキラと輝かせて何度も頷くノア。


 しかし今日一日だけ泊めるのはもう仕方ないけど、明日からはどうにかしないとな。


 乗りかかった船だし、新しい生活のための物件と仕事探しくらいは手伝ってやるか……。


「自由になったことだし、何かやりたいこととかないのか?」

「やりたいこと? んー……良いことがしたい! 大勢の人を幸せにできるような!」

「良いこと? 随分とざっくりしてんな……」


 料理を摘みながら何か当てがあったか考える。


 ジルドに頼めば、どこかの店で給仕の仕事でも斡旋してもらえるだろうか。


 こんな可愛い子に料理を運ばれればそれだけで男は幸せになるはずだ。


 でも、あのナンパ野郎に紹介するのは少し気が引けるな……。


 ん、こっちの方は意外といける。個性的だけど妙に箸が進む味付けだ。


「あっ! だったらさ、ルゼル!」


 調味料塗れの野菜を摘んでいると、突然ノアがテーブルに身を乗り出した。


 こっちが本当のメインディッシュとばかりに特盛の胸肉がボヨヨンと揺れる。


「は、はい! ……なんでしょうか」


 いきなり呼び捨てな近すぎる距離感と、おっぱい圧に驚いてつい敬語で応えてしまう。


 しかし、続けてノアの口から発せられた言葉は更に俺を驚愕させることになった。


「私、冒険者になりたいかも! どうやったらなれるの!?」

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