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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第二章:剣を研ぐ、そして聖女を拾う

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第4話:男として

「な、なんだ貴様は……」


 当惑の表情を浮かべながら、こっちを向く二人組の男。


「なんだ貴様は、じゃねーぞ! こんなに怯えてんじゃねーか! ほら見ろ!」


 上半身をグルりと百八十度捻らせて、女の子の様子を確認する。


 目を見開き、少し軽い印象を受ける可愛い顔をぽかんと呆けさせている。


「大丈夫かい? 怪我はないか?」


 優しい口調で尋ねると、驚いた顔のまま無言でコクコクと小さく頷いた。


 先端が少しウェーブがかった長い金髪が揺れる。


 今まさに襲われようとしていたところだが怪我はないらしい。


 どこかで見覚えのある儀典的な趣の服には汚れも見当たらない。


 あるのは、服の下からこれでもかと主張している豊かな二つの膨らみだけ。


 手に持っている身長よりも長い棒は杖だろうか、それも高位の神官が持つような装飾付きの錫杖に見える。


 それを不安げにギュっと身体に押し付けているせいで、膨らみは更に強調されている。


 ……けしからん!


「どこの誰だか知らんが、関係のない者は引っ込んでいろ。邪魔だ」


 煩わしげな声に反応し、再び男たちの方へと向き直る。


「この状況で引っ込めって言われて引っ込む馬鹿がどこにいんだよ」

「いいからさっさと消えろ。貴様には関係のない話の最中だ」


 そう言って男たちは俺の存在に躊躇うことなく迫ってくる。


 年齢は偉そうな方が三十半ばくらい、もう片方は二十前半くらい。


 その身体を包んでいるのは、これまた妙に宗教的な雰囲気の軽鎧だ。


「この悪意に満ちた外の世界で生きていくなど貴方には出来ません。さあ、大人しく戻りましょう」

「だから、私は絶対に戻んないって言ってるでしょ! それで話はおしまい! 貴方たちだけで帰って!」


 後方から女の子が二人組に向かって強い拒絶の意思を示す。


 はは~ん……そういうことか。


 三人の装いと言動から徐々に状況が掴めてきた。


 ここは特殊浴場『聖レリジオ大教会』のすぐ隣の路地裏。


 そんな場所でおっぱいの大きい可愛い子(聖女風)が、乱暴そうなの二人組(教団兵風)に詰め寄られている。


 そこから導き出される真実は――


『夜の仕事から足を洗いたい元No.1嬢を、彼女の退職による客足減少を看過出来ない店員二人が引き止めてる図』


 ――に違いない!!


 白金級の洞察力による完璧な推理だ。それ以外に考えられない。


 かなり本格的な店だというのは本当だったんだな。


 昨日までの俺だったら、きっと――


『所属していた教団の方針に愛想を尽かして脱走してきた聖女を、悪の教団の手先である二人の男が連れ戻そうとしている図』


 ――なんて、とんでもなく馬鹿げた勘違いをしていただろう。


 しかし、あの馬鹿女神との邂逅を乗り越えた俺は同じ轍を二度と踏まない。


 そして、状況さえ分かれば俺のやるべきことはただ一つ!


「待てよ。その子が嫌がってんだろ」


 横を通り抜けようとした男たちの前に再び立ちはだかる。


「何度も言わせるな。無関係な者が安易に首を突っ込むと痛い目を見ることになるぞ」

「はっ、無関係……だって? いーや、関係大有りだね。なぜなら、これはお前らだけの問題の域を超えた……(おとこ)の問題だからな! お前らは男として越えちゃいけねぇ一線を超えちまったんだよ!」


 対面する二人組に怖気づくことなく、堂々と宣言する。


 そう、これは店の売上なんていう些末な問題の話じゃない。


 何があろうと、男として決して超えてはならない一線の話だ。


「なん……だと……?」


 尚も引かない俺の迫力に臆したのか、男たちがその場で足を止める。


 だが、その顔から敵愾心は全く薄れていない。


 手は武器にかけられたまま、どうあってもこの子を連れ戻そうと思っている顔だ。


 しかたねーな。


 それなら聞かせてやろうじゃねーか……魂が震える言葉ってやつを。


「まず、お前らがどんな事情でこの子を連れ戻そうとしているのか俺は全て分かってる」

「な、なに!? 貴様、一体どこでその話を……」


 偉そうな方の男が驚愕の表情を浮かべる。


 その姿を見て、やはり俺の推測は間違っていなかったのだと確信した。


「ふっ、お前らの姿を見りゃ一目瞭然。全てお見通しだよ」

「まさか他派の内通者が……。いや、しかし……まだそこまで広まっているはずが……」


 な、なんか予想以上に驚いてるな……。


 まあいい。このまま口上を続けよう。


「確かに、一度は裏の世界に足を踏み入れた子だ。そこから表の世界に戻るっていってもそう簡単なことじゃねーのも分かる。苦労もあるだろうし、辛くて挫折するかもしれない……。でも……それでもだ! どんな事情があったのかは知らねーが、それでも……この子は普通の女の子に戻るって決めたんだよ! だったら、その背中をポンと押してやって! お天道様の下に気持ちよく送り出してやるのが(おとこ)の心意気ってもんじゃねーのか!? 違うか!? そうだろ!」


 奴らへと向かってビシっと指を突き立て、その魂に問いかける。


 ……完璧に決まった。魂を震えさせる世紀の名演説だ。


 天を仰ぎ、自らの言葉にじーんと感極まる。


「お~……」


 後ろからも代弁者たる俺に歓心する声と、パチパチと小さな拍手が聞こえてくる。


 これでこいつらも『俺たちが間違ってました!』と心を入れ替えてくれることだろう。


 後は店の方で割引サービスでも付けてもらえたら全てが丸く収まる。


「お、おい……何なんだ、こいつは……本当に事情を知ってるのか?」

「さ、さあ……そうは見えませんが武器を持っているところからして、この街の冒険者かもしれません」


 まるで奇妙なモノを見るような顔を突き合わせて話し合っている男たち。


 おかしい。俺の言葉に心打たれている様子がこれっぽっちもない。


「冒険者か、それなら仕方ない。武器を取れ。馬鹿な邪魔者には少し痛い目を見てもらう」

「はっ!」


 男たちが同時に腰から提げている獲物を手に取る。


 暴徒を鎮圧する時に使うような片手持ちの打撃武器。


 刃物ではないが十分な殺傷能力がありそうだ。


「なるほど、ただの雰囲気作りの装飾じゃなくて、マナーの悪い客を叩き出すための実利も兼ねてるってわけか」

「さっきからワケの分からぬことを……」

「それはこっちの台詞だよ。女の子一人にそこまでやるか? ワケわかんねーよ」


 高級店が聞いて呆れる。


 女の子を連れ戻すためにここまでする非道な店はこっちから願い下げだ。


 帰ったら月刊ミズガルドにレビューを投稿してやろう。


 『★☆☆☆☆。女の子は可愛くてスタイルも抜群だけど、店員の対応が最悪でした。二度と行きません』……ってな。


「左右から同時に行くぞ。だが、くれぐれもノア様を傷つけるなよ」

「はっ! 心得ております!」


 言葉通り、男たちは武器を持って左右に広がる。


 いちいち口調までそれっぽくしやがって、その努力を少しは女の子に向けてやれっての。


 ますます気に食わない奴らだ。


「そっちがその気なら……しかたねーな。ミズガルド住人として、自由の敵はぶっ倒す!」


 質屋から倍額の二十万ガルドで取り戻した相棒を腰の剣帯から引き抜く。


 素人さん相手に武器を抜きたくはなかったが、おっぱ……女の子の自由と未来のためだ。


「俺に剣を抜かせたこと、後悔すんじゃねーぞ!」

「今だ! かかれ!」


 剣を正眼に構えた瞬間、左右から同時に男たちが武器を振り下ろしてくる。


 一対多の基本は迅速な各個撃破。


 右の攻撃を弾いて一瞬の隙を作り、その間に左を倒す作戦を瞬時に構築するが――


「うおっ!」


 軽く弾く予定だった攻撃が想像以上に重く、体勢を崩してしまう。


「ただの店員のくせになかなかやるじゃねーか……って、ぐはっ!」


 体勢を崩したところに今度は左からの攻撃の直撃を貰う。


 振り抜かれたその一撃に壁際まで飛ばされ、積んであった古い木箱へと全身を突っ込まされた。


「ゲホッゲホッ! いてて……やりやがったな、この野郎……」


 何とか瞬時に身体をズラして肩で受け止めたおかげでダメージは軽微。


 しかし、非常にかっこ悪い。


 後ろで可愛い女の子が見てるっていうのに……。


「ふっ、口ほどにもないやつだな」


 埃塗れになった俺を見て、偉そうな方の男が鼻で笑う。


 こいつら、本当にただの店員なのか?


 それにしてはまるで訓練を積んだ本物の兵士のように動きが洗練されている。


 このままじゃ少し不味いかもしれない。


「す、少しは本気を出す必要がありそうだな。本気を出せば、お前らなんてひとひね――」

「おにーさん! しゃがんで!!」


 立ち上がってまた剣を構えようとした瞬間、背後から大きな声が響いた。


「え!? しゃ、しゃが――」


 その言葉の意味を頭が理解するよりも早く、身体が反射的に動いた。


「うりゃーっ!」


 直後、可愛らしい掛け声と共に何かが頭上スレスレのところを通り抜けていく。


 しゃらんと金属の飾りが鳴る音で、それがあの子の持っていた錫杖だと分かった。


「ぐはっ!」


 錫杖の先端部分が右の男の横っ面に命中し、凄まじい打撃音が裏路地に響く。


「そのまま、こっちも……とりゃーっ!」

「ま、待っ……へぶっ!」


 続けざまに、左のもう一人にも。


 完全に不意を食った男たちはあっけなく昏倒し、路地裏の汚い地面へと仲良く倒れ伏した。


「おにーさん! こっち! 起きる前に逃げなきゃ!」

「こ、こっちって……て、店員さんたちこのままで……?」


 地面にうずくまっている二人の男と、この場から立ち去ろうとする女の子を交互に見やる。


 男たちはピクピクと、まるで陸揚げされたウルズオオナマズのように痙攣している。


「さ、流石にこれで放置はまずくないか? とりあえず店まで運んで、二度と余計な手出しをしないように言えば……でも、それだともっとやばい奴が出てこないとも限らないか……」

「いいから早くっ!」


 対処に悩んでいると突然、ギュっと手を握られた。


「うおっ!」


 そのまま、もと来た通りの方へと引っ張られる。


 力こそ強くないが、暖かく柔らかい女の子の手に抵抗する力は瞬く間に失われた。


「お……お待ち下さい……ノア……様……」


 背後から、男の一人が呻き声と共に手を伸ばしてくる。


 しかし女の子は一切顧みることなく、俺はそのまま裏路地の薄暗闇から引っ張り出された。

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