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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第二章:剣を研ぐ、そして聖女を拾う

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第1話:第一回、信者を増やそうの会!

 昨日に引き続いて澄み切った青空の下。


 ガラス窓の向こう側で、夢と希望に目を輝かせた大勢の若者たちが通りを歩いている。


「第一回! 信者を増やそうの会! いぇ~い! ぱふぱふ~!」


 そして、テーブルの向かい側にはそれすらも霞んでしまいそうなくらいに目を輝かせた銀髪の馬鹿女。


 自称……ではなく、一応が付くけど本物の女神。


 こいつと俺がアビスの路地裏で出会い、すったもんだの末に協力関係となったのが昨日のこと。


 あの後、明日から本格的に始動すると言って呼びつけられたのがこの店だった。


「おう、女神の姉ちゃん。店ん中であんまり大声出さんとってくれや。客が逃げてまうやろ」


 カウンターの向こう側に座っている中年男性が騒ぐエイルに釘を指す。


 その特徴的な喋り方と、如何にもな人相はまだ記憶に新しい。


 昨日、窓から顔を出してエイルと家賃について言い争っていたオッサンだ。


 見た目からしてカタギの人間じゃないと思ってたが、意外にもこんな場所で料理屋を営んでいた。


「ああ、ごめんなさい。偉大なる第一歩に少し熱が入りすぎちゃったみたい」


 意外としおらしく謝るエイル。


 しかし通りに面している好立地であるにも拘らず、狭く古臭い店内には俺たち以外の客は一人もいない。


 その理由はエイルが騒いでいることではなく、洒落っ気のない無骨な店構えと……この愛想の悪い強面店主のせいだろう。


 言っちゃ悪いが大抵の人間は顔を見ただけで入店を躊躇するはずだ。


「さて、それじゃあ本題に移りましょうか」

「どうやってお前の信者を増やすか……だったか?」

「そう! それが憎き天界への復讐の第一歩目となるのよ! ……というわけで、まずは貴方の案でも聞かせてもらおうかしら」

「唐突だな。いきなりそんなことを言われて出てくるわけないだろ」


 若干の期待が込められた眼差しで見つめられるが、アイディアなんてあるわけがない。


 そもそも俺の人生において宗教の創始に関わるなんて考えたことすらないんだから当然だ。


「そう。まあ武力担当の貴方からいきなり妙案が出てくるだなんて思ってなかったけどね」

「武力担当って、物騒な宗教だな……」

「それなりの規模の教団なら聖騎士隊の一つや二つは抱えてるでしょ? 私だって暴力にモノを言わせるつもりはないけど、あるに越したことはないのよ」

「なんでもいいけど……そういうお前は何か案を持ってんのか?」


 エイルはさっきからずっと妙にソワソワしている。


 まるで何か俺に言いたくて仕方のないことがあるように。


「ふふん、よくぞ聞いてくれたわね! もちろんあるわよ!」


 推察が正しかったのか、エイルが得意げに鼻を鳴らす。


「この方法を実行すれば、街の中心部に私の偉大さを象徴するような大聖堂が建つくらいの信者があっという間に集まるに違いないわ!」

「それをもったいぶらずにさっさと言えって」


 そう言って急かすと、エイルは腕を伸ばして指先を通りに面した窓ガラスの外へと向けた。


「大きな野望を胸に抱いた若者たちが、この街にはいっぱいいるわよね?」

「ん? ああ、そうだな。文字通り山ほどいるだろうな」


 白魚のような細い指先は、往来を行き交う大勢の若者を指し示している。


 その大半が冒険者やそれに関連する仕事で一旗揚げようと考えている連中だ。


 今日も世界中からそんな連中が成功を夢見てこの街に集まってきている。


「こうして見る限りでは、みんな自分が失敗するだなんて考えてもないように見えるけど……心の奥底では、夢に寄り添うように大きな不安を常に抱えていると思うの……」

「……かもな」


 窓の外を慈しむような表情で見つめるエイル。


 なるほど、まずは若者の人生相談のような形で認知度を上げていくってわけか。


 だとしたら意外と目の付け所は悪くないし、こいつとしてはかなり真っ当な案だ。


「というわけで、まずは適当な講堂を借りて、そんな将来への不安を抱えた若者たちをいっぱい集めます。百人くらい」

「こ、講堂……? あ、ああ……それで?」


 まあ、一人ずつ相談に乗るより一度に話を聞かせた方が効率的か……。


「不安を持った若者たちが犇めく薄暗い講堂……重低音の音楽が鳴り響く中……代わる代わる登壇するのは難解な言葉で将来への不安や未来の破滅を説く者たち! 彼らの夢や希望は徐々に絶望へと変わっていくも、まだまだ畳み掛けるように登壇者たちは破滅を突きつけ続ける!!」

「え? お、おい……ちょっと待て」


 熱の入ってきたエイルが椅子から立ち上がる。


 何かおかしくなってきた。


「そして、いよいよ集まった若者たちの不安が頂点へと達した時! 満を持して全身に後光を纏った私が登場! 慈母の如き柔らかい笑みを浮かべ、分かりやすく簡潔な言葉を以て彼らに救済への道を示してあげるの! さあ、共に愚かな――」

「洗脳じゃねーか!」


 今年度最大級の大声でツッコんだ。


 カウンターの向こう側で、強面の店主が俺の大声に反応して眉をピクりと動かした。


 また怒られる前に軽く頭を下げて謝意を示しておく。


「わっ! びっくりしたぁ……急に大声出さないでよね」

「びっくりした、はこっちのセリフだ。何が良い案だよ。ゾっとするようなこと言い出しやがって……カルトのやり口じゃねーか……」

「ちょ、ちょっとした冗談よ。本気でそんなことやるわけ……ない、わよ……ほんとに……」


 と言いつつも、半分以上は本気だったのが表情から容易に読み取れる。


「とにかく、そんな悪徳宗教紛いのことをやるなら俺は付き合わないぞ。もっとまともな案を出せ、まともな案を」

「だから、冗談だって言ってるのに……でも他になんて言われても何かあったかしら……」


 ブツブツと不満げに口先を尖らせながら、また例の紙束をペラペラと捲りはじめた。


 本当に碌なことが一切書かれていなさそうだ。


 一度、中身を改めてやった方がいいのかもしれない。


「ていうか、人の案にケチをつけるなら貴方からも何か提案しなさいよ!」

「逆ギレかよ……」


 さっきは武力担当だから期待してないだのなんだのと言っておいてこの言い草。


 それでも、こいつにあれこれ考えさせるよりは自分で提案した方がましだってのは今ので十分に理解した。


「まあ案ってほどじゃないけど、教団って言うなら信者を集めるうんぬんより前に()()を考えるのが先じゃねーのか?」


 世の中には大小様々な宗教やそこから派生した宗派が存在する。


 一神教に多神教、拝一神教に単一神教。


 その形態は様々あれど、大半が()()を掲げて活動しているはずだ。


「あれ……? ああ! あれね! あれ!」


 エイルの方もすぐに合点がいったのか、手のひらを拳でポンと叩いた。


 相方がそこまでバカじゃなかったようで少し安心する。


「「最初に考えるべきなのは――」」


 互いの口から同時に出た言葉が綺麗に調和し――


「教義だろ」

「キャッチフレーズよね!」


 ん? 何かおかしな雑音が聞こえた気がした。


 古めかしい店内を見回しても俺たち以外の姿はないのにおかしい。


「すまん、魔音石(ラジオ)の音がうるさくてよく聞こえなかったからもう一回言ってもらえるか?」


 店主のオッサンが聞いている魔音石から流れる番組の音が響いている。


 きっとその音が混じったんだろう。


「え? べ、別にいいけど……」

「じゃあ、せーのでもう一回いくぞ? せーのっ――」


 今度こそ、互いの口から紡がれた言葉が綺麗にハモ――


「教義!」

「キャッチフレーズ!」


 ――らなかった。


「大事なのはやっぱり語感の良さと耳に残る響きだと思うの。それで一つ思いついたのは『全人類の女神様』。でも、スケール感の大きさは良いんだけど少しオーソドックスすぎる気もするのよね。そこで、もう一つ考えたのが――」

「お前、ふざけてんのか?」


 真顔且つ、冷酷な口調で問う。


「え? えっと……何が……?」


 俺の静かな怒り顔を見て、凍りついたように固まるエイル。


 何か悪いことをしたのは理解したが、それが何なのかまでは思い至ってない反応。


「どこの! 世界に! キャッチフレーズを第一に掲げて活動してる宗教があんだよ! まずは教義だろ! 教義!」


 すぐに更新された今年度最大級の声で怒鳴り散らす。


 強面のオッサンに睨まれようが流石に我慢の限界だ。


「あ……ああ! きょーぎね! きょーぎ! だ、大事よね! 私も本当はそれを言おうとしてたのよ、うん」

「本当か?」

「ほんとほんと、さっきのは軽い冗談に決まってるじゃないの」

「ったく、冗談はほどほどにしてくれよ」

「あはは……ちょ、ちょっと高度すぎたかしら……」


 白々しい笑い声が広くない店内に響く。


 ここまで馬鹿でなければ絶世の美少女であるはずの顔に、ツーっと一筋の汗が流れている。


「ところで……その……聞きたいんだけど……」

「なんだ?」


 人差し指の先端をもじもじと擦り合わせながら、遠慮気味に尋ねてきた。


「きょーぎって……何?」


 ダメだこりゃ。

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