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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第一章:ようこそ、冒険者都市ミズガルドへ

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第12話:包括的おっぱい

「な、何よ今のすごい音と揺れは!? もしかしてやったの!? ……って、ぎょぎょっ!」


 地割れに伴う土埃が晴れ、駆け寄ってきたエイルが俺の姿を見て絶句した。


 そこは一面が血の海と化した惨劇の現場。


 ()せ返るような血の匂いと、ジメッとした生暖かい空気が辺りを満たしている。


 その中心地にいた俺は当然、血液や臓腑、その他内容物の奔流の直撃を受けていた。


 結果として自分の姿がどうなっているのかは、敢えて語るまでもない。


「大丈夫だったか?」

「え、ええ……おかげさまで……。でも、あんまりこっちには来ないでね……」


 一切気を使わずに、手で鼻と口を覆いながらドン引きしているエイル。


 命の恩人に対してあるまじき態度だが、気持ちは分からなくもない。


 俺がこいつの立場なら間違いなく同じ対応をしてる。


「そ、それにしてもすごいわね……。わっ! 地面が割れてる……! これ、どこまで続いてるのかしら……」


 驚嘆するエイルの視線の先には、飛竜を断裂した後の余力が生んだ地割れがある。


「さあな……」


 それは森を分断し、遥か山岳地帯の方にまで伸びている。


 加減する余裕がなかったとはいえ、地形を変えたのは少しやりすぎたかもしれない。


 まるで神話に出てくる預言者が逃げる人民のために山を切り開いたかのような光景。


 本当にこれを自分がやったのか、何度見ても現実感が希薄だ。


 それだけこの力は狂っている。


「ねえ、こんなに強いのにどうして最初から斧を使わなかったの……? わざわざ剣なんて使って……」


 俺の行動を訝しむエイルに、服の内側から一冊の本を取り出して投げ渡す。


「……何これ? 月刊ミズガルド? 雑誌?」

「184ページだ。読めば分かる」

「ひゃく……はちじゅ……よんぺーじ……」


 エイルがペラペラと本を捲り、該当のページを開く。


「えーっと、『恋人に持って欲しくない武器ランキング』ね。なになに……『第一位となったのは二十年連続、もはや殿堂入りと言ってもいいキングオブ非モテ武器の斧だ!』」


 続けて頼んでもいないのに、わざわざ声に出して朗読してくれる。


「『そのモテなさは留まることを知らず、《ダサい》《臭そう》《オーク専用武器》《武術大会で一回戦負けするかませの大男が使ってるやつ》《肩に小さい兄貴分を乗せてそう》などと街の女性からも辛辣な意見が続々と寄せられている!』って……散々な言われようね」


 読んでいた月刊ミズガルドを閉じ、憐れむような視線を向けてくる。


「それとこの武器を使うと、いつも碌な目に遭わないってのもある……こんな風にな」


 血に塗れた斧と身体を示す。


 永久に銅級から上がれなくなったのも、こいつを使ったせいだ。


 あの日、大人しくやられていれば『永世銅級』なんて不名誉な称号を冠することもなかったはず。


 それどころか今頃は銀級冒険者になって、多少はモテていたはずだ。


 呪われた武器、だなんて迷信だと思っていたがこれまでの惨状を考えれば真実だと思えてくる。


「どうして俺が使いたくないのか、理由は分かったか?」

「ええ、まあ……多少は……」


 そう言いつつもまだ釈然としていない様子のエイル。


 まあ俺だってその気持ちは分からなくもない。


 いくら世間で不遇な扱いをされていても、使った時に碌な目に遭わなくても憎みきれない部分はある。


 特に今回は間違いなく命を助けられたわけだしな。


 息をするだけで吐きそうな状態だけど、全体的に見ればややプラス寄りの結果だ。


「ところで、この斧の名前はなんて言うんだ?」


 身の丈よりも大きな斧を片手でひょいと持ち上げて尋ねる。


「え? 名前?」

「そう、名前だ。ほら、さっきの剣にはグラムとかって付いてたろ?」


 せめて名前くらいは格好良くあってほしいと願う。


 それがこの武器をどこまでも冷遇する世間へのささやかな抵抗だ。


「えーっと……名前ね。名前名前……あー……無いみたい」


 ペラペラとメモ用紙を捲ったエイルがあっさりと、何の感慨もなく教えてくれた。


「……無い? 名前が?」

「ええ、斧って誰も使わないから付けられなかったのかも……」

「天界でもそんな扱いかよ……確かに、よく見りゃ埃被ってんな……」


 斧頭の一部を指で撫でると大量の埃が付着した。


 やっぱりこんな武器なんて大嫌いだ。もう二度と、絶対に使わない。


「仕方ないわねー……。それじゃあ私が名前を付けてあげるわ! んー……『デラックス・アックスXXX(トリプルエツクス)』とかどう? 『ックス』で韻を踏んでる感じが今風でよくない?」

「あー……うん、気持ちだけで十分かな。そんなことより、お前……さっき言ったよな?」


 斧の話を切り上げて、エイルに一歩詰め寄る。


 血をはじめとした液体でドロドロになった地面がぐじゅりと気色の悪い音を立てる。


「え? い、言ったって……何を?」


 心当たりがないのか、エイルは困惑気味の惚けた表情を浮かべる。


「助けたら、『何でもする』って言ったよな?」


 すっ転んで泣き叫びながら助けを求める女の姿を記憶から引っ張り出す。


『ぎゃあああああ! 誰か助けてぇえええええ!! 何でもするからぁ!!!』


 間違いなく言ってた。


「そ、そんなこと言ったかしら……ていうか目が怖いんだけど……」


 そう言いながら、ジリジリと俺から遠ざかっていくエイル。


「……お前を助けたのは誰だ?」


 また一歩詰め寄る。


「わ、私を生かそうとする神をも超えた大いなる意思……かしら?」

「……助けたのは誰だ?」


 更に一歩、一歩と近づいていく。


「貴方……なのは認めるし、感謝もしてるけど……ほ、本当に目が怖いわよ……?」


 助けられたことは認めつつも、エイルは尚もじりじりと後ずさっていく。


「……何でもするんだよな?」


 巨大な斧を引きずった血まみれの男が女に迫っている。


 傍から見れば腰を抜かしてしまうほどの猟奇的な絵面だろう。


 しかし、俺にはそれを置いてでもしなければならないことがあった。


「それは言葉の綾というか……勢いで言っちゃっただけっていうか……」

「言いたいことはそれだけか……?」

「ひぃっ……! い、一旦落ち着きましょう……ね? そういうのはもう少し段階を踏んでからの方が……だって、私たちってお互いのことをまだ何も知らないし……それに初めての相手が血まみれの男なんて嫌……だし……」


 なんとか俺から距離を取ろうとしていたエイルだが、その背が大木にぶつかり逃げ場を失った。


「俺は落ち着いてる。これ以上ないくらいにな」


 今日は朝から散々な目に遭って、最後はこの有様だ。


 揺さぶられ続けた精神は巡り巡って平静の極みに達している。


「それ、完全に落ち着いてない人の台詞だと思う……」

「女神ってのは自分で言ったことも守れないのか……?」

「ぐぬぬ……わ、分かったわよ! 好きにすればいいわ! あんたの変態的欲求を大洋のごとき包容力で全て受け止めてあげるわよ!」


 観念したのか、背を大木に預けたまま目を瞑って両腕を広げるエイル。


 張られた形の良い胸が服の下からツンと主張する。


 性格はアレだけどかなり良い身体している。


 だが、それも既にまな板の上のニシキ・カープ。


 この場における主導権は今や完全に俺が掌握している。


「終わるまで大人しくしてろよ」

「うぅ……せめてもう少しロマンチックなのが良かったぁ……」


 目を瞑ったまま、小さく震えているエイル。


 俺はそんな彼女のすぐ側まで近づき……


 ――ふにっ。


 その白磁のような二の腕を掴み、指先に軽く力を込めた。


「ひゃんっ!」


 エイルが驚いたような、くすぐったがっているような声を上げる。


 ――ふにふに。


 白い肌に指先が僅かに沈む。


 なるほど、これが女性の二の腕……包括的おっぱいの柔らかさか……。


 まるでふわふわの砂糖菓子のように柔らかく、高級な絹のようになめらかな触り心地。


 生きとし生ける全ての女性、人類の半数がこれと同じものを有している。


 その奇跡に多大なる感謝の念が心の底から湧き上がり、俺という人の形をした器を満たしていく。


 人類に幸あれ。


「え? な、何してるの……? 何その、この世の全てを悟ったような顔は……」

「いいからじっとしてろ」

「あ、はい……んっ……」


 ――ふにふにふに。


 顔を赤らめて困惑しているエイルをよそに、その柔らかさを確かめる。


 触り方を変えながら、何度も何度も脳と指先にこの経験の全てを焼き付けるように揉み続ける。


 そして、永遠にも感じられる幸福な時間が過ぎていった……。


「も、もういいかしら……?」

「ああ、十分だ。ありがとな……」


 少し名残惜しみながらも二の腕から手を離す。


 これでもう二度と挫けることなく残りの人生を歩んでいける。


「こほんっ、えー……今のは何だったのかとか、とんでもない辱めを受けた気がするとか、言いたいことは色々あるんだけど……」


 二の腕に付いた血の手形を眺めながらエイルが続ける。


「今は街に帰って早くお風呂に入りたい……」

「……だな」


 血と臓物に塗れた自分の身体を見てから答える。


 こうして、俺の人生で最も長くて過酷だった一日はようやく終わりを迎えた。

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