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斧と女神のファンタジー ~伝説の斧が存在しない理由に纏わる馬鹿げた物語~  作者: 新人@コミカライズ連載中
第一章:ようこそ、冒険者都市ミズガルドへ

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第11話:永世銅級冒険者『斧使いのルゼル』

 ――時間は少し戻って、ルゼルとエイルが飛竜と遭遇した頃。


 ミズガルド第四地区のどこかにある連れ込み宿の一室に、一組の男女の姿があった。


 一人は可憐な下着に身を包む、酒場『満月亭』の看板娘として知られる女性。


「ねぇ、ジルドさん」


 化粧台の前に座り、身支度を整えている彼女が背後にいる男へ声をかける。


「ん~? どした~?」


 半裸でベッドに腰掛けている男――ジルド・フリヴォラスが煙草を燻らせながら、けだるげに応える。


 今夜はどの子を過ごすかな、と考えていた彼は今まさに友人が飛竜に捕食されそうになっているなど知る由もなかった。


「私、ずーっと気になってたことがあるんだけど」

「気になってたこと?」

「うん、ジルドさんがよく一緒にいる冒険者の人のことなんだけど」

「よく一緒にっていうと、ルゼルか……テンガか……」


 自分と一緒にいながら他の男の話かよ……と思いながらも、ジルドは二人の友人を思い浮かべる。


 数時間前に会ったばかりの女運が悪い男と、修行の旅に出ると言って半年も連絡のない男。


 三年前の同じ日に冒険者となった同期、もとい腐れ縁の二人だ。


「茶髪の人かな」

「じゃあルゼルだな。あいつがどうかしたのか?」

「あの人がどうして他の冒険者の人たちから『永世銅級』って呼ばれてるのかなーって」

「あー……そのことか」


 ジルドが肺の中から白煙をふぅーっと吐き出す。


 そして、友人が不名誉な称号を冠するに至った不幸な事件を思い出しながら続ける。


「今からするのはここだけの話だぞ? 絶対、他に漏らすんじゃねーぞ?」


 普段のそれとは違う重々しい口調に、女は無言で小さく首肯する。


 その話が聞けることよりも、ジルドと秘密を共有できることに彼女は胸を踊らせた。


「……一年ほど前に第四(うち)のギルドで爆発騒ぎがあったのは知ってるよな?」

「あー……うん、しばらくおっきな修繕工事してたよね。確か……呪文書の事故だっけ?」


 女は外壁が崩壊した第四地区の冒険者ギルドを思い出す。


 大規模な工事用の足場が組まれた痛ましいギルドの姿は、当時の第四地区に住まう者であれば誰もが覚えていた。


「表向きにはそうなってっけど……実はあれ、当時第四(うち)にいた飛剣のなんたらって白金の奴とそのルゼルの喧嘩が原因だったんだよ」


 ジルドが淡々とした口調で一部の者しか知らない真実を語っていく。


 憲章によって禁じられている冒険者同士の諍いによってギルドが半壊した。


 そんな事件に白金級冒険者が関わっていたとなれば権威の失墜は免れない。


 故にギルドの上層部は事件の原因が上級魔法の呪文書の暴走によるものだと虚偽の釈明を広報し、何も知らない民衆に信じ込ませた。


「ええっ! そうだったの!?」


 事実だと思っていた話が覆されたことに、女は身支度する手を止めて驚愕する。


「詳細は長くなるから省くけど、前々から燻ってた火種が文字通り大爆発。知っての通り、ギルドは大規模半壊。んで、向こうは白金級だからって大したお咎めなし。あいつだけがとんでもなく重たい罰則を受けて、貢献点がマイナスの彼方まで吹っ飛んじまったわけよ。それこそ死ぬまで毎日働いても銅F級から抜け出せないくらいにな」

「だから、『永世銅級』って呼ばれてるの?」

「そういうこった。もちろん表向きは別の理由になってっけどな。当然、冒険者順位もぶっちぎりの最下位。未だに冒険者を続けてんのが奇跡みてぇな存在だよ、あいつは」


 そう言って友人に対する憐憫混じりの笑い声を上げるジルド。


 今この話をしたのも、不幸な友人の境遇を公には出来ずとも誰かに知ってもらいたいという同情心からだった。


 当時の彼はギルドが友人に下した沙汰に対して苛烈な抗議も行っていたが、その話は敢えてしなかった。


「ふ~ん、そうだったんだぁ……。でもルゼルさんって人、白金級の人にやられた上でそんなことになってたなんてかわいそ~」


 女は再び身支度へと戻り、服を着替えながら今どこにいるのかも知らない男に形ばかりの憐れみを向ける。


「あー……かわいそうってのは確かだけど、ちっとばかし誤認があるな」

「え? 誤認って?」


 自らの言葉がすぐに否定された女性が目を少し丸くして聞き返す。


 銅級冒険者が白金級冒険者を相手に諍いを起こし、手痛くやられた上で途方も無い罰則を受けた。


 白金級の冒険者とはミズガルドの頂点に立つ存在。


 ミズガルドに住む一般人の認識では、先刻の話を聞いてそう考えるのが当然であった。


 しかし、更に極々少数の者だけが知っている事実は違っていた。


 その一人であるジルドは灰皿に煙草をぎゅっと押し付けてからまたゆっくりと口を開く。


「これも、白金級冒険者様の名誉を守るためっつって厳重な箝口令が敷かれてんだけど……」


 怪訝そうに小首をかしげている女に向かって、彼は真実を告げる。


 一握りの人間しか知らない闇に葬られた真実を。


「喧嘩に勝ったのはルゼルの方なんだよ。銅級のあいつが、いけ好かねぇ白金級のクソ野郎を完膚なきまでにボコっちまったのさ」



 *****



 飛竜の一撃で地面を大きくえぐり取られ、多量の土埃が辺りに巻き上がる。


 一帯が白茶色い煙に覆われ、何も見えなくなる。


「ごほっごほっ! ちょ、ちょっと! 何よ、これ! どうなったのよ! 生きてる!? 五秒待って返事がなかったら私だけ今のうちに逃げるわよ!?」


 困惑するエイルの声が土埃の中から聞こえてくる。


 一方、飛竜の奴も今頃になってようやく気づいたらしい。


 もう俺がそこにはいないってことに。


 獲物を仕留めきれなかった悔しそうな叫びが眼下から響いてくる。


「でも安心なさい! 貴方は主である私を守るため、最期まで立派に戦ったって後世にちゃんと伝えて上げるから! いずれ世界の中心に建造される私の銅像の隣は貴方のモノよ! い~ち、に~い、さ~ん――」

「数えんな! 生きてるっての!」


 飛竜を、そして森林を高みから見下ろしながら慌てふためく女神に返答する。


 寸前で飛竜の攻撃を回避した俺は、一帯にあるどの巨木よりも高く跳び上がっていた。


 飛んでいるかのような長い滞空の間に土煙も薄くなってくる。


「……行くぜ」


 そう小さく呟いて柄を強く握りしめる。


 固めたのは眼下の敵ではなく、自らの運命に抗う決意。


 身体の奥底から無尽蔵に力が湧き出してくる。


 これこそが俺を蝕む呪い。そして、俺が持つ人智を超えた力。


 斧を持つことによって人間離れした身体能力を発揮できる理外の能力だ。


 自分でも、どうして俺にこんなもんが備わっているのか分からない。


 天質、祝福、加護――ジルドを始めとしたこの事を知っている一部の知り合いはそう呼んだ。


 これは俺が何かを成すために天から授けられた才能なんだと。


 ……けれど、俺の認識は真逆。


 俺はこの力を才能や祝福なんかじゃなく、()()だと考えている。


 そもそも斧という武器は冒険者の間では使用者に災いが降りかかる呪いの武器とされている。


 バカバカしい迷信話だが、大真面目に信じている連中は少なくない。


 仲間内から排斥される理由の代表例にも『斧使い』であることが並んでいる。


 歴史書に載るような英雄たちだって、使っている武器は揃いも揃って剣に槍に弓だ。


 斧使いの英雄なんて図書館の蔵書を全部探しても見つかるか怪しい。


 神話に出てくる有名な伝説の斧なんてありゃしねぇ。


 そこから転じて物語の中でさえ、脳容量の少なそうな三流の悪役しか使っていない。


 見た目や使い勝手の悪さから『ダサい』『鈍重』『弱そう』などと蔑まされるのは日常茶飯事。


 月刊ミズガルドの『街の女子に聞いた恋人に持ってほしくない武器ランキング』では、創刊から一位を逃したことがない。


 今や冒険者のみならず、市井の人々からも尋常でなく蔑まされている不遇を極めた武器。


 それが(こいつ)だ。


「今度はこっちの番だ!」


 でも、今だけはその力を存分に利用させてもらう。


 柄の中央を片手で持ち、斧を風車のように高速回転させる。


 今の俺ならこんなことだって出来てしまう。


 特に意味はないけど。


 ――グルル……。


 砂埃の中にいる飛竜が空中にいる俺の存在を察知し、両目を空へと向けた。


 でも今更気づいたところで、もう遅いッ!


「どりゃああああああああああああッッ!!!!!!」


 回転させていた柄を両手でしっかりと握り直し、落下の勢いに合わせて全力で振り下ろした。


 長い柄が弓なりにしなり、腕の動きから一拍遅れて斧頭が標的へと向かう。


 落下と振り下ろし。


 二重に加速した分厚い刃が飛竜の頭部を捉える。


 腕の中を稲妻が奔ったような衝撃。


 神剣の一撃を容易く弾いた鱗が何の抵抗もなく粉砕されていく。


 頭蓋を砕き、内に守られていたモノを断裂していく感覚が手のひらを通して伝わってくる。


 吹き出す血しぶきで真っ赤に染まっていく視界。


 それでも尚、力を込めたまま更に骨、肉、内蔵――身体を構成するあらゆるモノを両断していく。


 腕にかかる抵抗が弱まった直後、勢い余った斧刃が地面へと強く打ちつけられた。


 今度はそこを始点として、前方に向かって巨大な地割れが発生する。


 (うね)る大蛇のような地割れは、森を飲み込みながら山岳地帯の方向にまで一気に伸びていく。


 飲み込まれていく大地が天を衝く巨獣の叫び声のような地鳴りを響かせる。


 木の枝で休んでいた鳥や樹洞をねぐらにしていた獣が何事かと大慌てで逃げ出す。


 遥か先からは驚いたコカトリスとガルーダが喧嘩しはじめた音まで聞こえてきた。


 ありとあらゆる音が混ざり合い、まるで下手くそな交響曲のように森中を駆け巡る。


 それでも時間が経つにつれて、永遠に続くかと思う程の激しい地鳴りも徐々に弱まっていく。


 そして着地からしばらくの後に、森が再び元の静寂を取り戻した。


 しかし、先刻の一撃によって切り開かれた破滅的光景は変わらない。


 紛うことなき現実の物として俺の前に存在している。


 その中で最後に、かつては一匹の飛竜だった巨大な二つの屍が左右に倒れていく。


 断末魔の代わりに激しく揺れる地面に直立しながら俺は思った。


 ……ちょっと、やりすぎたな。

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