ダイビング・メッセージ
俺たちはそろって空に飛び出した。
スカイダイビング・チーム「タイフーン」の月例会である。
市川・新倉・山東・鹿内・後藤、そして俺・牟田の6人のチームワークは見事な物で、大空に香りが漂うような大輪の花をいくつも咲かせ、コンテストでも優勝を飾っていた。俺が加わったのは一番遅かったが、以心伝心何でも伝わる彼らにとけ込むにはそう時間はかからなかった。
俺は仲間4人を確認して輪を作ろうとした。……うっ!?……どうして4人なんだ?思いもかけない事態が起ころうとしていた。衝撃は彼らも同じであったようだ。互いに顔を見合わせ、確認をしていた。後藤がいない!確かに飛び出す寸前まで一緒にいたはずだ。俺はあやうくバランスを崩しかけた。空中での姿勢を保つのは難しい。両手両足を張ることで空気の抵抗を受け、落下速度を制御する。姿勢を変えればそれだけで速度が変わり、隊形が崩れてしまう。空中では会話は通じない。それぞれが何やら身ぶり手振りを始めている。それぞれがメッセージを送ろうとしているのだが、決められたメッセージはあっても、こんな状況のメッセージは用意していなかった。
急に市川が上空に上がっていった!
錯覚であることは十分承知してはいるが、動揺が意識を支配していた。信じられないことだが、市川はパラシュートの紐を引いたのだ。速度が急激に落ちたために落下中の者にはまるで浮かび上がったかのように見える現象だ。まだそんな高さではない。何が起こっているのか俺には理解できなかった。他の者も上を見上げた。はるか上空にパラシュートが浮かんでいた。もはや練習計画はすべてふきとんだ。他のみんなが何かを語っている。俺にも何かを言おうとしているが、互いに何を言っているのか理解はできなかった。突然新倉までもが上昇した。今度は誰も上を見なかった。
急に俺に不安が起きあがった。彼らは何かをたくらんでいるのでは?
息のあった中に一人加わった俺に何かをしようとしているのでは。
山東と鹿内が俺に近づいてきた。やめろ!近づくな!俺は叫んでいた。
山東が俺の手を取ろうとしたとき、俺はいきなり振り切るとその瞬間山東も上に上がっていった。残るは鹿内一人だ。俺は「そして誰もいなくなった」をふと思い浮かべた。やらねばやられる!俺の手はパラシュートの紐を探した。
次の瞬間、俺は絶望の淵に立たされた。紐が見つからない!紐どころかパラシュートさえ俺の背中にはなかった。こんなことが!
俺は彼らのメッセージの意味を理解した。鹿内が俺の手を取り、同時に自分の紐を引っ張った。衝撃が俺の体をとらえた。でも、二人で一つのパラシュートは危険すぎる。空を見上げた俺の目に3つのパラシュートに隠れて、今乗ってきた飛行機の窓がキラリと光るのを確かに見た。そして、何かが急速に落ちてくるのを確かに見た。後藤だ!その瞬間、俺は彼らの仲間になった。彼らのやろうとしていることがすべて理解できた。すれ違う寸前受けとめた俺のパラシュートを背負うと俺は鹿内の手を離れ、自分の紐を引いた。
下に降り立つと、先に降りた後藤が俺を迎えた。「ALL RIGHT!」
4つの花はまだ空に咲いていた。
完
パソコン通信NIFTYの「推理小説フォーラム」内で企画された、「1000字以内のお題話」に投稿した作品です。
お題は「月」「台風」「優勝」「香る」「窓」「窓」「ライト」