自由の国の話
晩餐が終わった後、少し飲みすぎて多様で足元が覚束ないアシルを執事のエドモンドが介抱しながら部屋に戻っていった。
久々にあう大切な一人息子との時間を取れたことに満足だったのだろう。そして、無事に軍に士官として任官されたことがとてもうれしかったのだろうと感じられた。
アシルが去った後、リオネルは残っていた食事を食べきって私を部屋に連れて行った。
「これで、一緒に行けることになったな」
部屋に戻った、リオは上着を脱ぎながらそう言った。
「うん。私も、すごくもうれしい」
ノエリアはそう答えて、リオから渡された上着を受け取った。
「すこしだけ、周りの目を気にしなくてすむね。パーニュに行ったら、内緒で一緒に外に出かけよう。見せたいところがあるんだ」
リオはそう言って笑みを見せた。
私はそれを聞いて少し戸惑った―――
今まで、そう大ぴらに出かけるなんてしたことがなかったからだ。
ヒミツにしないといけないけど……
見知らぬ場所であればと―――
嬉しい気持ちがあるが、どこか恥ずかしいのか怖いのか拒む自分がいるのにも気が付いた。
「で、でも、そんなことしたら誰かに見られちゃう……」
「誰も知らない街に出るんだ。誰も俺たちのことを知らない街に出るんだよ。心配しなくても大丈夫さ」
リオはそう言って、私の頭を撫でた。
「心配ないさ」
リオはそう言ってから手を放して、ソファーに腰掛けた。リオが手招きしてきた。
「でも、いいのか。この家を出でノエリアは後悔してない?」
そう、リオは私を見つめながら聞いた。
私は少しリオから目をそらして、首を振った。
「うんうん。何もないよ。だって、私には仕事とリオだけだから。
そんなこと言うリオはどうなの?」
「俺か……別にないな。どちらかといえば、今すぐにでもこの国を飛び出して話に聞いた、リタリカに行きたいと思うくらいだよ」
そう言って、笑みを見せた、言葉の通り彼の目からは未練の一つも見えることはなかった。
「リタリカ?」
私は初めて行く言葉に、首を傾げた。
リオはソファーから立ち上がって、机の上に置いてある本を手に取ってぺらぺらとページをめくりながら何かを探していた。
「あったあった。これだよ」
リオはそう言って、うれしそうな顔をしながら私の横に座って本を見せてくれた。
本には地図のような絵が描かれていていた。
「ノエリアは確か、この北方の国の出身だっだよね?」
私は頷くと、リオは指で私が生まれた国を指さたあと、指をずらしていってこういった。
「ここが、王都で。俺たちがいるのはここらへんかな……ほら、こっち側に海を越えた先にまた違う大陸があるだろ?」
リオはそう言って、指で海を越えてリタリカと書かれた大陸に指を置いた。
「ここに、新しい国があるんだ。士官学校でこの大陸出身の友人ができて。そこの話を聞いたんだ。
この国では身分も国籍も関係ないだと……自由の名のもとにみんなが手を取って暮らしてるって話なんだ。
そこには王族も貴族も、平民も、司祭も関係なくみんなが同じ立場で協力しあってるらしいんだ。
国同士の争いもなく、みんなが平和に暮らしてるって聞いたんだよ。
ここに住んで、魔術の研究をしたりのんびりとノエリアと結婚して暮らしていけると思う……
これ、誰にも言わないでね」
リオはそう言って、ページをめくって綺麗な平原が広がる絵を見せた。
「こんなところに、家を建てるんだ。身分や家督の事なんて関係ない、二人で堂々と暮らしていこう。ここなら、凍てつくような冬もないし、土地も広いから農場を作れるかもしれない。一緒に来てくれないか?」
私はそのリオの言葉を聞いて、広々とした平原の絵を見つめながら頷いた。
故郷は凍てつくような冬が続いて、食べ物にも困り……少ない、豊かな場所を奪い合って戦争が起こってた。
そこで、家族と友人をすべて失って……
私はリオのところにやってきた――――
もう、どこにだって行っていい。二度と悲しい思いはしたくない。
「着いて行く。私もリタリカに行きたい……」
私がそういうと、リオは本を閉じてソファーから立ちあがてこういった。
「じゃあ、行こう。でも、いつになるかは分からない……まずは、パーニュに引っ越しだ。
さ、明日は引っ越しの用意が忙しいから、ノエリアももう休んで」
「うん。分かった」
私はそう答えて、ドアを開けて出て行こうとした時。背中からリオがドアに手をかけた手を取ってリオの方に向けた。そして、見つめ合って、顔を近づけて瞳を閉じた。
彼の唇が自分の唇に当たるのが感じて、それはすぐに離れていった。
「ノエリアさ~ん。大丈夫ですか」
そう、扉の向こうから声が聞こえてきたからだ。
リオは耳元で、そよ風のように静かな声で、
「おやすみ」と言った。
そして、リオはドアを開けた。ノエリアは素早くドアの外に出てこういった。
「お休みなさいませ。リオネル様」
扉を出るとそこには少し心配そうな顔をする同僚のエステルがいたので
表情は平然を装い、真面目な表情をしていたが……
心臓が今にも張り裂けそうなほど、脈打っていたのを感じ取れた。
期待と恥ずかしさがこみあげてきてはしていたが、それをばれないように隠すので精いっぱいだった。
「ノエリアさん?顔赤いですけど……大丈夫ですか?」
エステルはそう心配そな顔をして、私の顔を覗き込むように見てそう言った。私は頷いてこういった。
「大丈夫。明日は引っ越しの作業があるから、もう休みましょ。ね?」
私はそうはそう心の中を隠すように、はにかみながらそう言った。