ノエリアのヒミツ
「ノエリア、いいお母さんのいう通りに目を瞑って耳もふさいで、この穴を抜けていきなさい。絶対よ……約束だからね?」
「うん。わかった!お母さん」
今日もまた同じ夢を私は見ていた。幼い時の記憶―――
「さ、行きなさい?」
幼い私はそう母親に追われて、小さな穴の中に這って進んでいった。暗いトンネルの先には光が差しているのだけが見えていた。
母親の叫ぶ声と、今思い出せば銃声だったのだろうと思うパンと乾いた音が続いた。
「ノエリア。進まないといけないの。止まっちゃダメ……振り返っちゃだめ―――」
私はそう幼い自分に語りかけた。でも、振り返ってしまった。
兵隊達に連れていかれる血まみれになった母親が目に入る。
「お母さんっ!!」
いつもそうだ、そこで私は目を覚ます。
目を覚ますとそこは自分がいる貴族屋敷の一室だった。
「そうだ、今日はリオネルが帰ってくる日だったんだ……」
今さっきの悪夢を振り払うように頭を振って気分を入れ替えて侍女としての仕事を始めることにした。
窓の外では、
まだ朝陽が上りきってはいなかったがうっすらと明るい中で、どこか春が近づいてきていることを教えてくるように庭に積もった雪は段々と溶けているのがみることができた。
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一人の若い青年は自分の部屋でイスに座りテーブルの上に制帽を置いて、腰にあるサーベルをおろして、長旅の疲れを一気に吐き出すかのようにため息を吐いた。でもそのため息は別に嫌な意味はこれ一つもなさそうだった。
それを見ていた私は、手に持っていた水の入ったコップを手渡した。
手渡された水を飲んで、近くにあった台の上に置いて、彼はこう言った。
「ありがと。ノエリア」
ノエリアはそれをきいて、いつもどおり。身分の上の彼に礼儀正しく返事を返した。
「どういたしまして。リオネル様」
私は、ノエリア。
今日で18歳になるこのシャンリオ家に幼い時から仕える侍女。
子供のころからこの家にお世話になっている。とても真面目に仕事もこなしていたので、この家の主人と仕事仲間にも気に入られていていて、すごく信頼されていることを感じられることもできた。
そのおかげで、本来だったらただの使用人にすぎないので行かせてくれるわけもなかったが、学校にも通っていた。
でも、そんな私には唯一、許されないヒミツがあった……
彼は笑みを浮かべてたので、それに釣られて、ノエリアも笑顔を浮かべた。
彼の名は、リオネル。私より少しだけ年上。
シャンリオ男爵家の一人息子。歳の割に大人びて見えついでに無口。だが素は陽気。
それを知っている仲のいい人、親しみを持つ人はみんな、リオと呼んでいる。
彼の父は、幼い頃に母を失くしたリオを男手一人で育てあげた父親でもあり、この国の国王を守る近衛大佐である。
田舎の辺境地の下層貴族出身ながら、先の戦争で手柄を挙げ大佐という階級まで昇進した有名人でもある。
リオは、そんな父を尊敬していて、目標としていると言っていた。
「今は誰も見てないのに何でいつも、そう硬いの?」
リオはそう私の両手を掴んで言った。
それを言うのはただ、リオの陽気な性格ではなくて、理由があるからだ―――
私はそれを聞いて、頷いてこう答えた。そして、久々だったせいか少し恥ずかしくなって彼に背中を向けてこう言った。
「うん……わかった」
それを聞いてリオは笑みを見せて、立ち上がって、私を後ろから包み込むように抱きしめて、耳元でこうささやくように言った。
「やっと帰ってきた気がしたよ。ノエリア」
「リオ……」
そう、私は彼の名前は言って、
背中にいるリオを見ようと顔を横に向けた。すると、リオはやさしく包みこむようにキスをした。
そう、私のヒミツとリオの理由とは、
お互い惹かれあって、身分を越えての秘密の恋をしていることだ―――
この世界ではあってはならないこと、あったとしても叶わない……
それでも。私はリオの事を愛していた。リオも同じ気持ちだった―――