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外国人テケテケの倒し方(後)

「うわあああ!!」


この状況で後ろから来る相手など一人しかいない。

叫びながらも咄嗟に笑い声がしたほうを向こうとする。が、直後に後ろから、まるでラグビー選手のチャージのような衝撃が襲いかかってきた。

思いっきり前にずっこける。


「キョーヤ!」


上から少女の声が聞こえてきた。

その声に答えるため立ち上がろうとするが、全身を打ち付けたせいか思うように力が入らない。


「ケケケケ…」

「おまえ、そんな笑いかたするんだな…」


夕方から追いかけっこを続けていたが、声を発したのは今が初めて。見た目は高校生ぐらいに見えるのに、その声はまるで童話に出てくる老婆のようにしゃがれていた。水を飲んでいないのかもしれない。


テケテケは依然笑顔のまま、獲物を追い詰めた狩人のようにこちらへ歩いてくる。


…そして上から落ちてきた何かがその顔に直撃した。


「は?」


あまりに唐突にな出来事に、思わず声が出てしまう。

倒れたままの俺の前に物体が転がってきて、ちょうど目の前で止まる。


その正体は、人間の生首だった。


「ぎゃあああ!?」


なんでこんなところに!?

都市伝説に追われるのも怖いが、突然生首が降ってくるのも当然怖い。ここには殺人鬼でもいるのか?

ただ、その疑問の答えはすぐに判明した。


「今のうちよ!」


上から少女の声が聞こえてきた。

その声を追うように、今度は何者かの腕が落ちてきて、これまた見事にカナちゃんに直撃した。

テケテケは突然の攻撃に驚いたのか、原因を捜そうと辺りをキョロキョロしている。が、足の方を見れないからか、上からの攻撃とは気づいていない。


「人殺しぃ!!!」

「違うわ!模型よ!」

「え?」


言われてもう一度確認してみる。

暗くてよく見えなかったが、腕や顔の表面はなんとなく無機質のように見えなくもない。

成る程…理科室の人体模型を投げたわけか…


「そんなことより早くして!カナちゃんが来るわ!」

「わかってるってぇ!」


身体中から悲鳴が聞こえてくる。

いつもならこのまま倒れ込んでしまうだろうが、今だけはその声を無視する。

今度こそ期待に答えるため、両手足に力を入れ、痛む体に鞭を入れ立ち上がる。

目的地は目の前だ。


残る距離を一気に駆け抜け、念のため鉄製の大きな扉も閉めておいた。少ししてから扉からズゴンバゴンと凄まじい轟音が響きはじめる。流石に破れないとは思うが…


二号館の中に入ると、そこもまた真っ暗だった。

基本的に二号館は実技科目や実験に使われ、理科室や音楽室はここに配置されている。どちらも学校の七不思議としてよく登場するが、メリーさんによればどちらにも何も無いらしい。

こちらも本来不気味なはずだが、後ろから現在形で脅威が迫っている状態ではそんなモノは微塵も気にならない。


さっき見た通り、理科室は二階だ。

全身を怪我した状態で階段を登るのはかなりきつかったが、メリーさんと扉が時間を稼いでいる間に向かわなければいけない。


息をぜいぜい切らせながらもなんとか登りきり、横にある理科室の扉をガラガラと開ける。


瞬間、理科室特有のあの薄い薬品の香りが鼻に、次いで首のない女が目に、それぞれ飛び込んできた。


「あああああ!!?」


目の前に現れたこの世ならざるモノに、思わず後ろに飛び退いてしまう。

反射的なその行動は、ただえさえボロボロだった俺の体にどうやらとどめをさしたらしい。完全に立てなくなってしまった。


「お前、お前!誰だ!カナちゃんの仲間か!?」

「キ、キョーヤ!落ち着いて」


腰を抜かしながら問うていると、女の後ろからメリーさんが顔を出した。そのままこちらへ走り寄って来る。


「こ、これが落ち着いてられるかよ!?」

「大丈夫よキョーヤ、この人がマナミ先生なの!」

「はい?」


言われて首無し女の方をよく見てみる。

確かに白衣を着ているし、(無いのは頭だけで実際には首はあった)首から聴診器を下げていて、保健室の先生感を醸し出している。


「なるほど、怪異ね…」


追われている状態であえたのだからわかっていたが、どいつもこいつもビジュアルが怖すぎる。彼女達と比べると、春先にワンピースと麦わら帽子を身につけているだけのメリーさんはかなりまともな見た目と言える。


というか


「メリーさんと会ってる筈なのに妙にしゃべんねえと思ってたらそういうことかよ!」


何故かマナミ先生とは通話させてもらえなかったが、それも当たり前といえる。なにしろ喋る口がない。


「いつもはあるんだけどね」


察してくれたのか、メリーさんが言葉を拾ってくれた。


「え?」

「マナミ先生は確かにあまり喋んないけど、頭はあるわ。今無くしてるんだって。」

「いやそんなことある!?家の鍵無くすのとは訳が違うだろ!」


マナミ先生は多分頷いてるんだろう首だけ縦に振っている。耳もないのに話は聞こえてるらしい。

そして綺麗すぎる断面が見えるので、出来ればやめてほしい。


なんとなく和んでしまったが、そんな空気もすぐに消え、もとの緊張した感覚が戻ってきた。一階からガラスが割れる音がしたのだ。

多分扉を破壊する事を諦めて、窓から入ることを選んだのだろう。多分貞○みたいに出てくる。

腰が抜けて立てなかったのでマナミ先生に手伝ってもらいつつ、最終確認。


「メリーさん、マナミ先生、準備終わってる?」

「オッケーよ!」

「(首を縦に振る)」


どうやら俺やメリーさんの時間稼ぎはしっかり活かされたらしい。

作戦決行だ。



静まり返った夜の学校。本来なら聞こえるのは虫のさざめきぐらいだろうが、今はまるで工事現場のような、金属が打ちつけられる音が響いている。

音の主は、それはもう小柄な少女だ。遠くから見れば小学校低学年ぐらいの背に見えるが、その実体は下半身の無い怪物であり、ある意味恐怖の象徴ともいえる都市伝説の一つ、テケテケその人である。


テケテケはひとしきり扉を叩いた後何かをひらめいたらしく、建物の横へ回り込む。窓を破壊することを選んだのだろう。


鉄製の頑丈な扉と違い、こちらは彼女が殴りつけるとすぐさま崩れ落ちていく。しかしそのままでは高さが足りない。が、そこにはおあつらえむきに室外機が配置されていた。これ幸いと乗ってから二号館の内部へ入り込む。


入った直後、怪物はその笑顔を少し歪ませた。そうして生まれた顔は、なんとなく喜びを感じさせる。


テケテケはその性質上、一度狙った獲物の位置がわかる。

京谷やメリーさんを追いかけたり、先回りできたのもその力があってこそのものだ。

それに加えて時速100kmにもなる移動速度。

この二つがテケテケからは逃げられないと言われる所以である。


目的の足の気配を二階から感じ、心を弾ませながら怪物は階段を登る。自分が狙っている相手が友達であるは完全に忘れているか、それとも覚えていて無視しているのか。その答えは本人にしか分からない。


―…


ゆっくりとした腕取りで階段を登りきった彼女は、一際強い気配がした部屋の前で停止する。扉の上には[理科室]とかかれた札が提げられていた。

取っ手をつかむほどの理性は残っていないのか、はたまた手が届かないのか、当然のように扉は破壊し、目にも止まらぬ速さで教室の中へ。そして勢いそのまま教卓の上に飛び乗る。


教室内は理科室らしくいろいろなものが置かれていた。

薬品にピンセット、ビーカーや鉄球etc…


―!?


そんな中、教室の中心に置かれていたソレは、彼女にとって絶対に無視できない代物だった。


机と机の間、本来は通路として使うためものが置かれないであろうそこに、人の下半身が置かれていた。


テケテケという怪異にとって、足を手に入れることは悲願だ。使命といってもいいかもしれない。ゆえに彼女は人を襲い、下半身を奪い、手に入れようとする。

今回も衝動的にとびついてしまった。


しかしその願いはある意味呪いでもあった。


「今だ!」


突如叫び声が聞こえると同時、彼女の真下に青い、まるで魔法陣のような円が現れる。そこから発せられる光を浴びると、どういうわけか彼女は強力な、眠気のようなものに襲われた。

聞こえた声が誰のものなのか、彼女にとってソレは意味もなければ興味もない。


「カナちゃん!」


ただ、続いて聞こえた少女の声は、なんだか懐かしく聞こえた。



青い光が消えると、その中には先程まで俺を追いかけていた少女が倒れ込んでいた。傍らにはそれを支えるようにがメリーさんがいる。高速で引きずられていたつなぎはボロボロになっているのに、いろいろな場所に激突していた腕や体、髪は無傷なあたり、人外の丈夫さを再確認する。


作戦はうまくいった。

動きを止めて誘い出すことさえできればなんとかなると聞き、とにかく足止めする方法を考えたら結果がこれである。

名付けて、偽物の足作戦。メリーさんには安直すぎると言われた。


理科室にはいろいろな実験器具があるが、その中でも特に異彩を放つのが人体模型だろう。あれが怖い子供たちも沢山いると思う。ここのやつは動いたりはしないらしいので、気兼ねなく囮にすることができた。

かなり無理があるようにも見えるが、実際俺も本物と見間違えたし、カナちゃんは認識能力がかなり下がっているようなので効くと判断。結果としてはそれは正しかった。


「…止まった、のか?」


言ってから死亡フラグと気づいたものの、いつの間にか隣にいたマナミ先生が首を縦に振ったので事なきを得た。


「というかさっきのあれ、なんだったの?」


誘い出すまではこっちの考えだが、最後のやつは管轄外だ。

それを聞くと先生はポケットからスマホを取り出し、ものすごい速度で操作し始める。

あんたも持ってるんかい。


メモ帳を起動していたらしく、文通という形でコミュニケーションをとることができた。


『私は医療に携わるもの。これぐらいはちょちょいのちょい』

「そ、そうっすか…」


腕をまくり自信に満ちたような振る舞いをする。

うん、よくわからん…


まあ止まったというなら良かった…

これで、一件…落ちゃ…あれ?


どういうわけか急速に地面が近づいて来る。

同時に意識どんどん遠のいていく。

最後の記憶は俺を支えてくれた白衣の温もりと、走り寄ってくる少女の緊迫した顔だった。

取りあえず第一章終わりです。

次はエピローグです。多分すぐに投稿できます。

読んでくださった方、ここまでのお付き合いありがとうございます!これからも是非是非~

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