放課後捜索隊
「なあ時透」
「む?」
テケテケの話を聞いた次の日。
俺は昼休みを時透と過ごしていた。時間帯的に学食はかなり混んでいる。
時透は霊とか怪異とかに強いようなので、その手の話に疎い者として話を聞いておいて損はないだろう。
ちなみにメリーさんはというと、今日は学校の周辺を探し回っている。
「都市伝説とかって信じるか?」
「なに言ってるんだ、そんなものあるわけ無いだろう」
そりゃそうかと返そうとしたところで、「と、言いたいところだが」と続ける。
「まあ無いとも言い切れないのではないか?」
「ほんとか?」
「ああ。」
うむ、と時透が頷く。
「そも仏法は神秘の道。都市伝説も神秘の類なら、俺が否定するのもおかしな話だろう?」
「いや、確かにそうなんだけど、そう言う心構えの話ではなく…」
確かに両方頂上の存在ではあるが、神様とオカルトを同一視するのはなんとも不敬にも感じるが…
頭の中に例のワンピースの少女が浮かぶ。
「心構えでは無く事実だとも。気紛れに人を助けるものを神、そうでないものを妖怪などと呼んでいるに過ぎないんだからな」
「そういうもんなのかなぁ…」
どうしてもメリーさんと奈良の大仏を同一視出来ず困惑する俺に、何かを察したのか時透が笑う。
「それで?何故俺にそんな話を?」
「ああ、いや、特別な意味は無いんだ。ただちょっと気になっただけで…」
「ふむ水無瀬は少々嘘が下手なようだな」
「…お前、人のこと見透かしすぎって言われないか?」
「ほめ言葉として受け取っている」
「やっぱ言われてんじゃねえか!」
とはいえ全てを言うわけにもいけない。
「昨日ネットで見たんだけど、この話を聞いたら3日後におそわれますよーみたいなことが書いてあったんだわ。で、襲われないためにはこのことをたくさんの人にはなさなけりゃいけないらしい」
「怖いということか?」
「それもそうだけど、これが本当なら襲われた話がもっと出てるはずじゃね?」
「なるほどな。というか俺にその話をするんじゃない」
テケテケの話はネットではそれなりに見る。
昨日調べた感じだと、襲われないためには他の人にこのことを話さなければいけないらしく、そうすることでどんどん噂が広まっていくという寸法だろう。
時透に対しては名前も出していなければどんな怪異かも話してないので大丈夫だとは思うが。
「しかし水無瀬、それは少し違うのではないか?」
「違う、っていうと?」
時透は学食のカレーを食べながら答える。
「いやな、もし本当に襲われているとしたら、そもそもネットに書き込みを出来ないのではないかと思ってな。」
「あっ…」
確かにそうだ。
もし本当にテケテケが人を襲っていたとして、その人は果たして無事でいられるのか?ネットで呟いている人はこの話を知っているだけで、襲われたとは言ってない。
「いやもう勘弁してくれよー!」
「ハッハッハ!」
時透が大きな声で笑う。
「まあ襲われるのは3日後なのだろう?それまでにいろいろ調べておけば良いんじゃないか?」
そうは言うものの、時透は別に本気にはしていない様子に見える。大方時透は、都市伝説などをあったら面白そうだぐらいに思っている手合いなのだろう。
寺生まれならワンチャンそういうことも知っているかと思ったが、当てが外れた。
◆
「それで?何かわかった?」
「いんや全然、ほとんどわからなかった」
「駄目じゃない!」
「そつちもそっちでなんも進展無いんだろ?」
「むぅ…」
メリーさんが背中をポカスカ叩いてくる。
放課後になり、俺は帰り道でメリーさんと合流、後部座席にメリーさんをのせて自転車をこいでいる。
本来なら家に帰るところなのだが、今日は違う。
メリーさんと一緒に少し遠くまで探しに行くことにした。
昼間の間にメリーさんは学校の近くを探していたらしいが、反応を見ると案の定のようだった。
メリーさんいわく、テケテケに限らず怪異達はあんまり人気の多いところには現れないらしく、基本的には細い路地等をメインに探していく。
二人がかりで目を凝らすものの、それらしき人影は見つからない。相手は怪異なので、聞き込みを行う訳にもいかず、捜索は難航していると言っていいだろう。
そうして自転車を走らせていると、前方にパトカーが見えてきた。
「パトカーだわ!」
「なんか事件でもあったのか?」
パトカーが止まっていたのは古着屋の前だった。店員らしき男と警察官二人が会話している。
少し聞こえた内容からすると、どうやら万引きがあったらしい。それも、小物の類ではなく大きめの服。
「盗みなんてけしからん」
「おじいちゃんみたいね」
「うるさいやい」
空き巣被害者として、窃盗万引きエトセトラは許さないことリストの最上級だ。
それ以外は特になんの変哲もなく、逆をいえばなんの進展もなく時間が過ぎていく。
このまま無言で日が暮れるまで、というのも勿体ないので、気になっているたことを聞くことにした。
「そう言えばなんだけどさ、3日後になれば探さなくても俺のとこにくるんだよな?今頑張る意味ってあるのか?」
これを言うと、メリーさんは少し怒ったようで、再び背中を叩いてきた。
「…若干痛いんだけど…」
「友達だって言ったの、覚えてないの?」
と言うことらしい。
友達が行方不明なら普通は探す、ということだろう。
かなりデリカシーの無い発言をしてしまったかもしれない。
「…ごめん」
「いいよ別に、普通そうだもん」
普通、ね。
初めて会った日以降、この少女の身の上話はほとんど聞いていない。
それは俺が聞いていない、というのもあるが、メリーさんが話そうとしないことも関係しているのだ。
だから彼女の言うふつうというものがどういうものなのかを、俺は把握できていない。
それから暫く、自転車は気まずい空気のまま進んでいった。
◆
30分程時間が経ち、メリーさんの機嫌が直ったころ。
「メリーさん」
「…なに?」
「この道通るの後回しでいいか?」
「なんで?このルートで行った方が回りやすいっ手言ったの、キョーヤじゃない」
今日回るルートは、昨日の内にメリーさんと相談して決めている。とはいえメリーさんの行動範囲はそこまで広く無いので、実際のルートの殆どは俺が決めていた。
「確かにそうなんだけど、あそこに知り合いがいるからちょっと避けたい」
「ふーん。恥ずかしいってことね」
「あながち間違って無いのが腹立つな」
前にある商店街、そこによく目立つ金髪の男がいる。
愛染修也。
さすがにこの距離では見間違わないだろう。
放課後は女子とカラオケにでも行ってそうなあの男が、どうしてこんな寂れた商店街に来ているのだろう。
家が近いのか?
「あの金髪の人?かっこいいね、キョーヤと違って」
「一言余計だっつーの。とにかくここは迂回するぞ」
メリーさんはさっきのことを根に持っているのか、なかなかに辛辣だ。
「ねえねえ」
「なんだよ、先に言っとくけど、あいつの近く通ろうとか無しだからな。」
「金髪の人の横通ろ!」
「話聞いてたか!?」
今言ったばっかだろうが!
「何でわざわざ通らなくちゃいけねーんだよ」
「えー、だってああいうキラキラした人近くで見てみたいし」
「キラキラっていうよりギラギラだろあれは」
理由は好奇心ってことね分かったよ。
メリーさんは頬を膨らませ不満そうな顔をしている。
最近毎日のようにこっちが折れているので、そろそろ振り回されるのを卒業したい。
「わかった」
「はぁ…じゃああっちの道から迂回して…」
「交番にいってくるわね」
「ふざけんな!」
こいつ怪異の癖に国家権力使おうとしてんじゃねえよ。
「大丈夫よ。まだ学校始まって少ししか経ってないじゃない。きっと金髪さん気づかないって」
「いやまあ確かにそうだけどさぁ」
クラスが同じとはいえ、愛染とは今のところ一言も会話をしていない。理由は言わずもがな、住む世界の空気が違いすぎるからだ。
愛染のことは嫌いな訳ではないが、彼の自由奔放さは少し苦手でもある…
と、
「あんたら、さっきから俺ちゃんの方見てっけど、なんかようすか?」
「うわっ!?」「金髪さんだ!」
話してる間にむこうからやってきてしまった。
大きな声で会話していたので当然といえば当然かもしれないが。
そしてメリーさんはメリーさんでなんだか嬉しそうだ。
「んっ?あんたどっかで見たような…?」
愛染が俺の方を見て考え込む。
どうせまた明日には分かる話だし、今の内に自己紹介でもしておくか。
「物部学院の生徒だろ?」
「えっなんでわかんだ!?エスパーか!?」
「んなわけあるか!同じクラスの水無瀬だよ!」
「お~なるほど!俺は愛染だ!よろしくな~」
そう言うと愛染は俺の手を握って勝手に握手を済ませた。
と思ったらおもむろにスマホを取り出して自撮りを始めた。
授業中の振る舞いからしてもいろいろ適当な奴に見えてたけど、実はこいつ天然なだけなのか?
「それで?そっちの子は?彼女?あ、わりいデート中だったかー」
「ちっげーよ妹だわ!こんな年の差カップルあるか!おいメリーお前も心の底から嫌そうな顔するな!泣くぞ!」
「ハハハハ!」
愛染が腹を抱えて笑う。
俺の味方はどこにもいないのか…
あっやばい、ほんとに泣きたくなってきた。
「いやーおもろいなーお前ら」
「お前が勝手におもろがってるだけだろ…」
「それでそれで?俺ちゃんになんのよう?」
いきなり冷静になるな。
「妹が金髪の男を近くでみたいっていうからさ」
「へー、なに?金髪興味あんの?」
「別にそういうわけじゃないわ。ただ、友達にも金髪の子がいたから…」
「え?君ぐらいの歳で髪染めてる奴いんの?やっべえな、今の子供」
愛染からしたら小学生レベルで金髪にしてるように見えるわな。
実際のところは怪異仲間だろうから、見た目も年齢もさまざまなのだろう。
「そうだわ。ねえお兄さん、このあたりでお兄さんみたいに金髪の女の子見なかった?」
「人捜しねぇ。君ぐらいの年齢の子供じゃみてねぇな。ごめんよ~」
「ん?」
なんだか重大な情報を聞いた気がするが、ひとまずそれは置いておく。
テケテケという怪異はもともと高校生ぐらいの女の子だったそうだ。そして下半身が無いこと以外には見た目でおかしなところは無い。
逆にいえば、下半身さえ見えなければ普通の女の子にも見えると言うことだ。
「なあ愛染。逆に高校生ぐらいの年齢で金髪の女子は見たのか?」
「そりゃあ見るぜ当然。つってもここらは駅から遠いわ映える場所も無いわで珍しいけどな」
「もしかしてなんだけど、こういう服着てる子いなかったか?」
俺はスマホで検索した作業用のつなぎを見せる。
それを見て愛染が驚いたような顔をした。
「やっぱエスパーなん?」
「違うって」
「いやね、めっちゃかわいいのになんでこんな洒落てない服着てんだろっておもったのよ」
どうやらビンゴだったらしい。
「その子が居たのってこの近くか?」
「近くって程じゃねえけど、この商店街超えてちょいと進んだ辺りに踏み切りがあんのよ。さっきそこ通ったときすれ違ったぜ」
「まじか!ありがとな!愛染!」
「え?ちょ、ちょっと待っ!?」
「帰んのか?じゃーな~」
必要な情報も得られたので、早々に立ち去ろう。
愛染はやはりいいやつだったが、やっぱりなんとなく苦手だ。
メリーさんも、急に自転車が動き始め驚いているものの、友達の足取りが掴めたかもしれないということで心なしか喜んでいるようだ。
「ねえ!なんでそんな服着てるって分かったの?」
風に打たれながらメリーさんが言う。
俺はあくまで予想だぞ?と前置きして話し始める。
「さっき、パトカー止まってる店あっただろ。」
「う、うん、確かにあったけど…」
「テケテケはあそこから服を盗んだんだ。繋ぎなら下半身も見えない!」
人のまばらな商店街を疾走する。
「でも、なんで関係あると思ったの?」
「普通盗むなら服なんて目立つものは盗らないんだよ」
前に空き巣に入られたときにいろいろ調べたのだ。
物をとる人というのはたいてい依存症か貧困で、万引きは主に依存症の場合が多い。そして、依存症の場合はあまり高いものは盗らない。
古着とはいえ服はそれなりの値段がするし、持ち運びにも向いていない。逆に金目的ならもっと効率の良いものが有るだろう。
「つまり、犯人は金じゃなくて、服そのものが欲しかったってことだと思う」
足がものすごく速いテケテケなら簡単だろう、と付け加えておいた。
「でも…カナちゃんがそんなことするとは思えないわ!」
「だから、あくまで予想だよ!」
メリーさんからしたら俺が素人推理で友達を悪者扱いしているように見えるだろう。当然いい気分になるわけがない。
…あれ?そういえばこいつも俺の部屋に不法侵入してたよな?
「予想でも!」
「悪い悪い。じゃあもし俺が間違えてたらカステラやるからさ」
「…私じゃなくてカナちゃんに謝ってよ」
…お菓子で釣ろうとしたのが申し訳なくなってきた。
「分かってるって」
「あと、カステラは私も食べるから」
あ、そこは貰うのね。
◆
「てか、テケテケ金髪だったのかよ。そんなにわかりやすい特徴があるなら先に言ってくれりゃいいのに」
「?カナちゃんは外人よ?昨日言ったじゃない」
「はぁ?言ってねえよ、せいぜい北国出身で海の上走ってきたってぐらいしか…」
そこまで言って気づく。
「もしかして…」
「カナちゃんが言うには、ロシアっていう場所から来たらしいわ」
「マジかよぉ!!」
どうやら北国というのは本当に北の国の事だっらしい。