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メリーさんが来た!



明日は朝が早い。

なぜかというと、明日は待ちに待った高校の入学式なのだ。

こればかりは寝坊するわけにはいかない。高校の初日から学校に来るであろう他の生徒や教師人に悪い目で見られては今後の学校生活においての自分の立場が危うくなる。


思い出すのは中学校の入学式。

初日から遅れていった挙句、講堂に入った瞬間に転ぶという大失態をおかした俺は、学校初日から散々馬鹿にされるというとんでもなく恥ずかしい経験をしたのだ。


あの惨劇から早三年。今度こそは遅れるわけにはいけないという気持ちを日記に長々と書きとめ、布団をかぶっていざ寝ようとしたときだった。


ピロリ~ン♪


机の上で充電していたスマホから着信音がした。

もう十時を回っている。こんな時間に誰だよ思い画面を見て見ると、相手は非通知だった。


ちなみに俺は今、明日から通う高校が家から遠いという理由で、学校の近くにある寮で生活させてもらっている。

なのでここに家族は居ない。当然家族からなら非通知ではかけてこないだろう。


ものすごく怪しいとは思ったが、何か緊急なのかもしれない。出ないというのは少し薄情か。

仕方なく電話に出ることにした。


「もしもし、何ですかこんな時間に。」

『クスクス、私メリー。今あなたの家の前にいるの。』


女の子の声だった。こんな時間に知らない女から電話がかかって来るというのは普通に怖い。


「何言ってんだおまえ?切るぞ、いいか?」

『クスクス、私メリー。今あなたの・・・』


ブチッ!ツーツーツ-…


なんだったんだ今のは。

新手の嫌がらせか、それともいたずら電話ってやつか。どちらにしてもこんな時間にかけてくるとはとんでもなく迷惑だな。もしイライラさせるのが目的だったなら目論見は大成功ってわけだ。

ていうかこの寮は大通りに面してるから、もし本当に家の前に居たら車に轢かれるぞ。


ピロリ~ン♪


気を取り直して今度こそ寝ようとしたところまたしても着信がやってきた。さっきと同じく非通知なので、おそらく同一人物だろう。

次は文句を言ってやろうと思い、電話をとることにした。ちょっときつく言ってやる。


『クスクス、私メリー。今・・・』

「あのさ、こんな時間にかけてくるなんてあなた何様のつもりなんですか?こちらはあなたと違って明日の朝から忙しいんです。そういうことですのであなたなんかにかまっている暇はありません。どうしてもいたずらをしたいのだったら僕以外に休日の昼間みたいな誰にも迷惑のかからない時間にやってくれませんか?そもそも・・・」

ここら辺まで言ったあたりで異変を感じた。相手の方から音がなにもしなくなったのだ。厄介払いできたのかと思い電話を切ろうとしたとき、


『何でそんなひどい事言うのぉ・・・』


泣き声が聞こえてきた。

あれ?これまずいんじゃね?深夜に女の子泣かせるとかこれだけ聞いたら犯罪じゃね?そもそも俺、そんなひどいこと言ってないんですけど・・・

とにかく一度謝ろうと思い、


「あ、ええと、ごめん。泣かせる気はなかったんだ。でもさ、やっぱりこんな夜遅くに電話をかけるのはなんていうかそのー、こちらとしても困るんだ。それをわかってほしかったからちょっと厳しくなっちゃったんだ。ごめんよ?」

『ぅぅぅ、ぐすん・・・。うん・・・』


何とか収まったようだ。

危ない、危うく犯罪者と間違われるところだった。誰が間違えるのかは知らんが。


「というかお前、何でこんな時間にかけてきたんだ?」

『う、うん。ちょっと待ってて・・・』


プチ、ツー、ツー、ツー


電話は切れていた。

ちょ、は?

ちょっと待っててって言ったくせに切るとは、最近の若者は礼儀というものを知らないのか。

いや、まあ俺も一応明日から高校生の身の上だけから、若者だけど。


ピロリ~ン♪


携帯の前で絶句していると、またしても着信が来た。なんかもうこのくだり飽きたわ。

もしかすると今間違って切ってしまっていて、そのことを謝るためにまたかけてきたのかもしれないし、そうだとしたら出ないとまた泣かれるかもしれん。見てないところで泣かれるのもそれはそれでなんか釈然としない。

結局こちらから折れて電話には出ることにした。


「もしもし、俺、京谷。いま自分の部屋で寝ようとしてる。邪魔をしないでいただけると助かる。」


さっきまでこのメリーとか言う女の子が言っていたフレーズで返してやった。

なぞの達成感を感じる。


『クスクス、私メリー。いま・・・』

突如背中を叩かれた。自分以外が居ないはずの部屋で。

反射的に後ろに向き、その目に映ったのは、


『今、あなたの後ろにいるの』

といいながらドヤ顔をする小柄な女の子だった。


「うわあああああああああああああぁぁぁぁ!!!」

「きゃあああああああああああああぁぁぁぁ!!!」

「だれだぁぁぁぁてか何で居んだあああああぁ!?」


驚きながらもちゃんと質問するあたり俺はプロなんではないか?とか言うとんでもなくどうでもいいことを思ってしまった。

ちなみにこの寮は防音性なので夜だからと言って騒音に心配する必要はない。いや、叫ばないに越したこともないが。


「いきなり叫ばないで!びっくりして死んじゃうじゃない!」

「いや、君、明らかに俺を驚かせに来てるでしょ?そうでしょ?それで叫ばないでくださいはちょっと無理あるんじゃないですかねぇ!?ていうかドヤ顔ちょっとうざかった!」

「あなたが驚かなければよかったの!そもそも相手がメリーさんなんだから、後ろに来るのはお約束でしょ!」


質問に答えてないとかドヤ顔がうざいに対しては何も言わないのかとかお約束とかしらねーよとか突っ込みどころは数限りなくあるがとりあえずとても気になっていることがある。


「おまえ、どうやってこの部屋に入った!玄関も窓も、鍵はすべて閉めておいたはずだぞ!」


前に一度空き巣に入られて以来、戸締りは厳重にするようにしたのだ。

一体どんな超能力使って部屋に入ったのか。


「ふふ。私はメリーさん、部屋に入り込むのなんてお手の物!ただあなたの後ろに回りこんだだけよ!」

「いや、まったく意味不明なんだが?」


そういうとメリーさんとやらは信じられないものを見るかのような目でこちらを見てきた。


「まさか、あたしのこと本当に何も知らないの?」

「いや、だからお前どこの誰だって。そしてどうやって家に入った。」

「そんな・・・。いまだに私のことを知らない人がこの世に存在しているなんて・・・」


メリーさんはとても落ち込んでしまったようで地に伏せて悲しんでいる。

かと思ったら唐突に顔をあげ一世一代の閃きをしたかのような顔で


「そうよ!自己紹介するわね!」


と言い出した。


「まあお前の身の上話は聞いておきたいけども。」


特に拒む理由もないし。この子がどうやってこの部屋に入ったのかもわかるかもしれない。

そしてメリーさんは話し始める。


「私の本名はメリー・L・オーシッド。いつもはゴミ箱にすんでるわ!」

「住んでる場所がかわいそ過ぎる!飯ちゃんと食ってるのか!?」

「心配ご無用。道行く人が置いていってくれる少しかけたハンバーガーや、公園の水飲み場で水を飲んですごしてるから!」

「みんなの同情と公共の施設で生きているだと・・・」


とんでもない生活をしてらっしゃる。

ふとある疑問に突き当たる。


「というかわざわざゴミ箱で暮らす必要なくね?なんでそんなとこで暮らしてんだ?」

「なんでってそれがメリーさんだからよ。」


答えになっていない。

すると顔に出てしまったのか空気を読んだのかメリーさんは続きを話始める。


「私は人間が言ういわゆる都市伝説ってやつよ」



都市伝説。


曰わく、テレビの砂嵐をずっと見ていると顔が浮かんでくるだとか、下水道には巨大なワニがすんでいる、だとか。

要するに、そういう噂があるよ…友達の友達が…なんていう根も葉もない話が元ネタになった怪談のジャンルだ。


「なに言ってんだか」

「実際目の前にしておいてなによ!」


で、目の前のこの少女はどうやらそれの類らしい。

本人の言うことを信じるなら、だが…


「はいはい、迷子かな。警察に連絡しておくね。」

「そういうのいらないから!」


そこまで言って、少女は咳払いする。


「どうしても信じないっていうなら…いいわ。私の力を見せたげる。」

「どこかに頭ぶつけたのかな」

「うるさいわよ!」


この年で頭の病気とはかわいそうに…


少女はおもむろにスマホを取り出すと、どこかに電話をかけだす。

伝説とかいう割に随分と近代的だなーなんて思っていると、再び俺のスマホに電話がかかってきた。


「やっぱ俺なのね。」


仕方ないので付き合ってやることにした。

そして少女が例の言葉を口にする。


『クスクス、私メリー。今あなたの家の前に居るの。』


その言葉を聞いた直後、突然目の前から少女が消失した。


「なっ!?」


この距離で見失うなど有り得ない。

一瞬でベッドの下にでも入ったのかと思い覗いてみたが、当然誰もいない。あるのは同人誌だけだった。


そこでさっきの少女の言葉を思い出す。

家の前に居る、と彼女は言った。本当にその通りなら、今あの少女は家、つまりこの寮の前に居るかも知れない。


窓を開けて外を見る。

そこにはそれなりの交通量の大通りがあるのだが、その真ん中あたりに…


「ほら、これで信じたでしょ?」


…さっきの少女、メリーが居た。


「マジか…」


幽霊とか妖怪とか、そういうのは全く信じていなかったのだが、これを見てはもう信じるしかない。

都市伝説は存在した、と。

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