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世界に2人も勇者はいらない  作者: みろる
1/1

お前が隣にいないと話にならない!

 あなたには、「相棒」と呼べる人はいるだろうか。

 仮にいたとして、そう呼べる根拠は。何故、あなたは「()()」と呼ぶのだろうか。


---


「なーんか、初っ端から小難しい事書いてるなぁ。却下。」


紺色の皮で表紙が作られた、いかにも重厚という印象を与えている本に目を通していた少女が、1ページ目の最初に書かれていた2行に目を通しただけでそう呟いて本を閉じた。


(待ってろ、って言われたから待ってるけど…この本屋あんまり好きじゃないかなぁ)


 少女が溜息と共に棚に本を戻す。それだけで、身に着けている装飾品が僅かに金属音を立てた。彼女が身に着けているのは派手な真紅のマント。そして金の鎖やら色のついた石。それだけでも目立つというのに、少女の肩程で切り揃えられた髪もまた、そのマントと同じ真紅なのであった。それ以外は何ら変わらない普通の白いシャツに皮のブーツ。だというのに、その真紅と金が、彼女の存在感を引き立てていた。

 その証拠に少しの金属音がしただけで、店内にいた数人の魔術師と思われる、いかにも黒魔法を得意としていそうな鬱蒼(うっそう)とした装いの者が数名彼女に目を向ける。


(それにしたって、どこ行っちゃんだか。)


 少女が待ち侘びているのは、もう一人の冒険者。

 彼女の名前はライ。そして彼女に待っていろと言って何処かへ去ったのは、


「おお、ちゃんとそこにいたンか。」


 少女よりも頭1つ半ほど大きい長身の男が店に入り、その目立つ真紅を見つけて声をかける。その言葉は、若干独特な訛りを含んでいた。

 その男を見つけた途端、少女はパッと顔を明るくして今度はジャラジャラと音を立ててその男の元に小走りしていく。


「ちゃんといたよ!待ってたよ!」


 さっきまでの憂鬱さはどこへやら、快活な表情でその男の隣に並ぶ。その男もまた、違う意味で目立つ格好をしていた。

ギン、と呼ばれたその男。長身である時点でも目立つというのに、その装いは少女と似ているものの、色合いが全くの真逆であった。髪から服、シャツに靴まで黒一色。装飾程度に銀色の鷲型をしたブローチを胸元に一つ。そして、極め付けは背追っている大鎌。

 死神と人違い(?)されても文句が言えない、そんな印象を与えている。

 そしてやはり、店内にいた客達も、その男の姿に再び視線を寄せたのであった。

 そんな視線も気にせず、少女はその男に声をかけ続ける。


「んで、どこに行ってたの?」

「次の街までの道を聞いてた。じゃないとまたはぐれる。」


まるでこれから宝探しに行くようなノリで少女はキラキラと目を輝かせながら男に問うたが、正反対に男は溜息を吐いてジトりと少女を見下ろすだけ。その視線から、自分がはぐれた事で本来立ち寄る予定ではなかったこの街に立ち寄る羽目になった事をまざまざと思い出させられた。


「ぐ…ごめんなさい…」

「いい、いつもの事だ。それに不幸中の幸いでか、この街は色々と流通してる。一時拠点にするにも悪くない。」


許すと言うよりも呆れを含んだ男の言葉にも、少女はまた綻ぶように笑顔を見せた。


「でしょう!何かこの辺から、いい感じの気配を感じたんだよねぇ。」

「……」


「気配」という言葉に、男は何かを察するように視線を店の外に向ける。そこには、快晴の青空の下で果物や魚の露天が立ち並ぶ商店街がひしめいている。そこに、真昼時を間近に買い物に訪れる街の住人と見られる人が行き交っている。


「なるほどねェ…そんじゃ、行くか。」


男が言葉少なに少女に視線で目配せする。少女もまた、それに返事をすることなくジャラジャラと音を立てて店を後にした。

店内には、唖然とも呆然とも受け取れる表情で少女を見ている店員と客が居るばかりだった。




「当たり、だな。」


ギンが、商店街の裏路地に潜みジッと表通りを眺めていた。薄暗い路地に真っ黒な装飾でいると、まるで景色に紛れて目立たなくなる。一方、どこにいても目立つライはというと、ギンの背後に隠れて商店街の通りに向けてひょこりと顔だけを覗かせているだけである。


「やっぱそうだよね!おかしいと思ったんだよ…この街、全員魔術師だなんてさ!?そんな事普通あるぅ!?」


ライが興奮気味に声を裏返させながらヒソヒソとギンに訴えかける。ギンは、ジッと商店街の通りに視線を向け何かを考えている。その時、


「ライ、」

「うん、」


短くギンが視線も寄せずに声だけで呼びかけると、ライの纏っていた雰囲気が一変する。さっきまでのひょうきんな態度とは真逆。快活な表情がまるで石のような冷たさに一変したのだ。

直後、ライの背後から雷を纏うナイフが一直線に背中めがけて瞬速で飛来する。


「っ、!」


一瞬、ライの詰まるような声がする。しかし彼女は無傷であった。数秒後、カシャンとナイフが地面に転がる金属音が路地に響く。ナイフを落としたのはライだ。そして彼女の右手には、どこから取り出したのか、腕の長さ程の刃渡りのあるレイピアが握られていた。


「大丈夫か」

「うん」


ギンは相変わらず商店街の通りに目を向けたまま。ライに声はかけるが目をやる事も無い。それはライもまた同じ。背中を合わせる形のまま、レイピアを突き出すように構えて応える。

だが、明らかに表情には高揚と興奮が混ざっている。


「いいよねぇ、燃えるねぇ。()()()が、私達の敵なんてさ!」

「完全にお尋ね者扱いだな。」


ギンは、変わらず商店街に目を向け続ける。一瞬でも逸らせば、きっと商店街を通る数多の人が、躍起になって襲い掛かるだろう。なぜなら、この細い路地に隠れているにも関わらず、さっきから通り過ぎる人全員と目が合っているのだから。

プロローグ未満程度の、キャラの雰囲気を出すだけの序盤の序盤でした。読んで頂いてありがとうございます。


ここから、2人の冒険が広がっていく予定です。この街での騒動、道中での騒動、次の街、出会い、仲間、過去、真実、本当の目的etc…

少しでも気になりましたら反応をいただけると非常に調子に乗りやすいので筆が進みます。

では、ここまでも読んで下さりありがとうございました。

またお会いしましょう。

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