お腹が鳴らない栗原友美の誕生日
ピピピッピピピッ。
ベッドのヘッドボードに置かれた水色の丸い目覚まし時計が朝7時ピッタリにしゃべる。
いつも友美は、
記憶のない真っ暗闇の延長線上の記憶のある薄暗い心地いいひと時を少しでも長く感じていたくて、
時計の長針が10を指すまでは布団にくるまっているが、
今日は違う。
サッと布団を剥がし、
上体をムクッと起こす。
新たな人生の幕開けだからだ。
「よし、今日は『お腹が鳴らない栗原友美』の誕生日にする!」
レトルトのご飯の端をめくり、
電子レンジに入れ500Wで2分加熱する。
チンと音が鳴り、取り出す。
フタを剥がすと、
真っ白な粒の集まりからモクモクと白い気体が沸く。
それをお茶碗に移す。
お気に入りのピンク色のお箸で端に空洞を作り、
冷蔵庫から取り出した白い卵の側面をコンコンと机に叩きつける。
入ったヒビに両親指を入れ、
パカンと二つに割る。
トロッと透明な液体とプルンと丸い黄色い液体がお茶碗に入る。
「あれ?友美。今日は珍しくご飯なのね。ごめんね、卵は新しくないの。新鮮な方が美味しいよね」
母親の栗原麻子が言う。
友美は、
反応を示さず、
口を閉ざしムスッとしている。
小学6年生の雪がチラつくマラソン大会の頃から友美の言動が「自分の言動に干渉してくるな」と言っているように麻子には見える。