夏の中学登校日
「昨日テレビ見た?松本司、すごくカッコよかった!」
栗原友美は平田舞に話しかけた。
「見た見た!歌手って、すごくない?歌いながら踊れるんだよ?歌詞を間違えずに歌えるんだよ?」
「あはは。歌詞を間違えないのは、基本なんじゃない?」
「そんなことないよ!誰にでもできることじゃないよ。それよりさ、新曲の『あなただけ』ほんとに良かったよね。サビの高音部分がすごく好き。まぁあたしが歌うと声が裏返るけどね」
「あはは。あたしも」
桜山中学校に向かう2人。
ジリジリと焼けるような暑さ。
半袖から白く細い腕を出す友美が乗っている自転車は、
4ヶ月前の3月に、
両親が買ってくれた。
もう既にシルバーの部分に、
赤黒いサビと泥が少しついている。
「『あなただけ』ってさ、初めはゆったりな曲調なのに、途中からリズミカルになるよね。アップテンポな曲が好きな友美は、どう思う?あたしは、どうせなら初めからアップテンポであってほしいな」
「そうね。あたしは音楽を聴きながら、リズムに合わせて早歩きするのが好きだからね。初めスローテンポだと、歩調を合わせるのは、ちょっと戸惑うな」
「そうね。んんーってなるよね、んんーって」
学校に着くと、
それぞれの自転車置き場に駐める。
風もないのにドミノ倒しになっている自転車が4台。
友美がそれらを起こす。
「多分、横に駐めた人の体が当たって倒れたんだろうね。こんな細い腕してる友美に起こさせるなんて、ヒドイ。友美可哀想に」
「倒したのなら、起こしていけばいいのにね」
「急いでたんじゃない?知らないけど」
そんな会話をしながら、
3階の隅にある音楽室に向かう。