表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

「栗原友美が岡村浩に殺害された」

「殺人容疑で逮捕されたのは、岡村浩容疑者です」

太陽の光が窓から差し込む朝七時。

厚手のレースカーテン越しでも青く見える空。

ひんやりとしたそよ風がレースカーテンを時々小さく揺らす。

ちゅんちゅんとスズメの鳴き声が聞こえる。

栗原茜は、

1人きりのガランとした部屋で、

四角く黒い薄型テレビを眺めている。

「岡村浩容疑者は、亡くなった栗原友美さんの小学校時代の同級生で、栗原友美さんと恋人関係にあるとのことです。

岡村浩容疑者は

『友美はある人を恨んだことが原因で、死んだ。他人を恨むと、自分に返ってくるから。恨む儀式に誘ったのは、僕です』

と非現実的なことを言っています」


茜は、

ピンク色の薄いハムと目玉焼きを乗せた、

茶色く焦げた食パンを頬張る。

目玉焼きの丸く盛り上がった部分をかじると、

トロッとした黄色い液体が流れ出て、

お皿にポタポタと落ちる。

「友美。今までありがとう。幼い頃、一緒に積み木でおままごとして楽しかった。中学の時は、あたしがしているからって同じ吹奏楽部に入ってくれたよね」


ピロン。

茜の黒く平たい携帯電話が短く鳴る。

「茜。今、ニュースでやってる事件なんだけど。栗原友美さんって、茜の妹さんだよね?」

友人の中本直美からのメールだ。

「そうよ。あたしのいも」

「妹」と漢字に変換しようと打っている時に、

ピロン。と再び短く鳴る。

「久しぶり。ニュースで見たけれ」と携帯電話の画面上部に表示される。

ピロン、ピロン。

次々と、

同じような文面のメールが届く。

「もう。打ってる途中なのに。でも、そりゃ皆びっくりするよね。身近な人の妹が殺されたのだもの」

茜は、

直美に返信すると、

携帯電話をマナーモードにして、

机の上に置いた。

食パンの最後の一欠片を食べる。

薄く白い幕が張る牛乳に息を吹きかけながら、

ゆっくりと飲む。


茜は、

歯磨きの際に携帯電話で大好きな音楽をかけるのがお決まりだ。

音楽をかけようと、

携帯電話の電源ボタンを押す。

すると、

58件の未読メールが並ぶ。

短く表示されている内容は、

同じものばかりだ。

茜は、

それらの全文を読むことなく、

携帯電話に入れている音楽の「全曲シャッフルで再生する」画面を押す。

「懐かしいな。あたしが中学生の時に流行った曲だっけ」

流れてくるのは、

多くの女性がホッと落ち着くような、

男性の低く透き通った声。

「歌手は松本司と分かるけど、曲のタイトルはなんだったかな。あ、思い出した。『あなただけ』」

松本司の歌声と共に、

一緒にサビの部分を茜が歌う。

「あなただけに あなただけに この言葉を贈りたい『愛しているよ』」


歯磨きなどの支度を済ませた茜は、

大きな赤い花が描いたワンピースの上から、

灰色のパーカーを羽織った。

A4サイズの書類が入るベージュのカバンを右肩にかけ、

外に出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ