炎の友情(1)
「ひ~~ん」
「ぶぼ」
5月某日。フランスはロンデリー牧場に再会を喜ぶ……喜んでいるのかは分からないが、第三者的に見れば輸送後放牧地に解き放たれ、姿を見止めるや否や、いの一番で駆け出し漆黒の馬体を擦り寄せ鼻先で顔中ぐりぐり擦りまくるダイランドウと、「お前きたんかい」と迷惑そうな表情で微動だにしないサタンマルッコの姿が確認できた。
帯同していた大河原や須田の姿に気づきマルッコは「お、久しぶりやん」と首を上下させた。
「よーまるいの。元気してたか」
須田の言葉にあたぼーよ。とでも言うようにダイランドウを弾き飛ばす。額の白丸は欧州の地でも元気に日輪を描いている。
「須田先生。ダイランドウはいつから調教を始めるのですか?」
ケイコが訊ねると、須田は手を顎に添えながら若干思索する。
「そうですなあ。まずは環境に慣れてからと思っていたのですが、この調子だとマルッコについていけばすぐにでも慣れてしまいそうですな。適当に遊ばせながら馴らしていくとしましょうか」
「ええ。私もそれが良いかと思います。ここであれば伸び伸び走ることが出来ますからね」
「本場の牧場はどえらいもんですなー。森がそのまま牧場になったようです」
「新しいところだとそうでもないみたいなんですが、老舗はこういった作りの物もあるみたいですね。とはいえ自然は日本にもありますから、比較すると敷地内の広さと起伏が大きいくらいの差ではあると思います」
「それだけとも言えますが、それが一番難しい」
お前ほんと何しに来たの。こっちのレースなんか? あっそ、頑張れよ。はいはい俺も応援してるから。
ぶるぶるひーんと戯れる二頭を眺めながら二人の会話は淀みなく続く。
「それで、まるいのはどうです? 走れそうですか?」
「身体の調子は良化しましたね。全力で走れるかどうかはわかりませんが、まあ併せていくうちによくなっていくんじゃないかしら」
「!?」
ケイコの言葉にマルッコが驚きを示す。「え!? 併せって言った!? 俺走るの!? もしかしてこいつと!?」みたいな顔だ。
「凱旋門賞馬がトレーニングパートナーとは、いやはやますます負けられなくなりましたな」
「最近たるんでるみたいでしたし、ちょうどいい機会ですよ。それに日本じゃいつもやってたことじゃないですか」
「とはいえその頃はマルッコもレースに出てましたからな」
「それもそうですわね」
えー、みたいな顔のマルッコと再会の喜びから踊り狂っているダイランドウ。プロジェクトは動き出したばかりである。
施設の中を歩かせてみましょうということで、ダイランドウは背に大河原を乗せ、マルッコはケイコを跨らせて二騎は闊歩していた。珍しく人を背中に乗せているマルッコの姿にすれ違うロンデリー牧場の職員たちからからかう言葉が飛び交う。
「マルッコはどこでもマルッコなんですね……」
栗東に居たころとなんら変わらない態度に大河原が苦笑する。
「この子はどこにいてもこんな態度ですからね。牧場の若駒や年嵩の行った馬含めて全部のボスになってしまったみたいですし」
「制圧するのが早すぎる……」
出入りの激しい栗東ですら番長面で闊歩していた事を考えればそれほどおかしなことではない。馬がでかい面していることに目を瞑ればだが。
「いやしかし……ダイスケ、マルッコが居ると本当に落ち着きますね。分かっていたことではあるんですが」
「ご相談頂いたときにも思いましたが、そんなに酷かったのですか?」
「ええ。いつもどこかオドオドキョロキョロと。乗っていてもそんな感じでしたので、調教もイマイチ効果が上がっていなかったです」
ところがこちらに到着してからまだ僅かな時間しか経過していないというのにダイランドウはすっかり落ち着きを取り戻していた。往時の自信に満ち溢れた(?)短距離絶対王者の威風すらある。
「それはよかったです。まだまだこれから仕上げていく段階になるかとは思いますが、目指すべき場所へ向けて頑張っていきましょう」
「ええ。せっかく頂いたご縁です。良い結果に結び付けてみせます」
その日から不思議な共同生活が始まった。
身支度を整えた二頭は片や人をその背に乗せ、片や鞍も乗せずに並んで歩く。身体が温まってきたら追いかけっこという名の併せ馬が始まり、それが済んだら放牧地へ放たれる。トレーニング以外の時間は脱走の名手に従い勝手気ままに敷地内を歩き回る。
元より広い場所で仲間に囲まれた生活を望んでいた馬である。殆ど自然そのものなストレスのない生活はダイランドウの精神を著しく改善させ、それに伴って心と体にあったギャップも解消されてゆき――
《先頭はダイランドウ! すでに3馬身千切ってまだ伸びる!
馬場の問題、衰えなんてものはなかった!
この馬にはあらゆることが些事でしかないのか、先頭悠々ダイランドウー!》
6月の初頭。ダイランドウは初期の目標に据えられていたアスコット開催のG1、キングズスタンドステークス、及び中3日開催のプラチナジュビリーステークスの同年制覇を成し遂げた。特に走ったりするわけでもないのにダイランドウのためにイギリスまで帯同するはめになったマルッコは釈然としない顔をしていた。
言わずもがな、日本馬としても日本調教馬としても初の快挙に日本競馬は湧いた。この馬は一体どこまでの事が出来てしまうのか。そんな期待の視線が次走ジュライカップに注がれている、そんな7月のある日。
一台の馬運車がロンデリー牧場を訪れていた。別に馬運車なんて珍しいものではない。遠征で気疲れした身体を癒すため、いつものように敷地の中を我が物顔で闊歩していたマルッコも「あ、車があるなー」くらいですれ違っていた。しかし、鼻腔を刺激する、どこか覚えのある馬の匂い。ゆっくりと振り返り、停車してまさに今タラップが降ろされようとしている様子を眺める。
タラップが降ろされ、中から姿を現したのは鹿毛の馬。見知らぬ土地に油断ないその眼は刀剣を思わす鋭さがあった。
目と目が合うその瞬間。
「!?」
「!?」
近走宝塚記念でも14着。その成績から日本競馬にて終わった馬と評されてしまっている馬、スティールソード。その馬の到着である。
京都記念はたぶんきっと外れてると思います
アフリカンゴールド-エフフォーリアのワイド
当たってたら電子じゃない方の書籍の本買ってください^p^
まあ自分で買うのはエフフォーリアの単勝なんですが
すきやねん! エフフォーリアくん!
18:35追記
外れたしエフフォーリアくん心房細動だしでしょんぼりだぜ(´・ω・`)
またあの鬼の加速ラップを見せてほしいのじゃ