思わぬ波及(3)
我が物顔、悠々自適、自由気まま、実家のような安心感。
栗毛の怪馬はなんとでも呼べそうな態度で新生活を送っていた。
フランスはロンデリー牧場。かつてネジュセルクルが生誕し幼少期を過ごした牧場であり、サタンマルッコにとっても遠征時何かと世話になった場所である。
マルッコはくつろいでいた。一々きついトレーニングを強いられたり、狭くて息苦しい思いをして遠くまで連れまわされた挙句めっちゃ苦しい思いをするレースに引っ張り出されずとも草食って適当に遊んでることを許可された生活は、彼にとってそれはそれは楽しいものだった。いや、彼に限らず、サラブレッドとはそもそもそういう生き物で、目的もなく気ままに暮らしている姿こそが最も自然であるのだが。
勝手知ったるなんとやら。中川牧場同様柵なんてあってないような物と言わんばかりに自由に出歩き、中川牧場と比較して圧倒的に広い敷地を自由に練り歩き、気が向いたら勝手に芝やウッドチップの馬道に忍び込んで背に何も乗せずに走る。馬に等級があるとしたら彼は今、間違いなくトップセレブだろう。振舞いとしては最早王族のそれである。
「マルちゃんったらまた勝手に出歩いて。ダメじゃない。自分の放牧地に戻りなさい」
「ひーん」
ヤリ手の女こと、フランス滞在中の中川ケイコはすっかりお馴染みとなったやり取りをかわしつつ、マルッコのたてがみを撫でた。もう存分に散歩は堪能したのか、マルッコも「へーい」とでも言わんばかりに気の無い返事でケイコの歩調に合わせて並んだ。
「身体、すっかりよくなって良かったわね。一時期は結構酷かったから心配してたのよ」
とりあえずまともに動けるようになるまで1月以上。そこからさらに3カ月経過した4月中頃の今、マルッコの馬体はようやくやつれた状態を脱却した見た目にまで回復した。異次元のタイムでの2500m走破には、それだけの大きな反動があった。
とはいえすっかり快方へ向かっている状態である。馬体重も戻ってきており、もう一月もしないうちに元の馬体に戻る事が予想されていた。
「おや、ケイコさん。いらっしゃい」
「ケリィさん。こんにちは」
牧舎の近くに着くと、寝藁の片づけをしていた牧場主のケリィがケイコに声をかけた。牧場の主としてそれなりに忙しい彼だが、時間をみては現場仕事を続けていたのだ。決して愛娘のミーシャに体形をの事を指摘された反動ではない。
ケイコの隣を当たり前のような顔をして歩くマルッコに渋い顔をしながらケリィはケイコに用向きを尋ねた。
「今日はどうされたのですか?」
「ええ。ご相談がありまして」
「ほう?」
事務所に移動したケイコはケリィに持ち込んだ提案を行った。
「つまり欧州での活動拠点としてうちを使いたいと」
「はい。ここの施設は日本馬が欧州のレースへ参戦するにあたって、非常によい環境であると考えています」
ロンデリー牧場は繁殖牝馬の繋養から年少の馬の訓致まで行う育成牧場だ。敷地内にトレーニング用のコースや装置、施設は備えているものの、競争生活を現役で送っている馬のトレーニング施設として考えた時、ケリィの視点からでは競馬場併設のトレーニング施設と比較して見劣りするのではないかと思えていた。
「いいえ、実のところ本格的な負荷をかけるトレーニングはそれほど必要ないのです」
日本競馬から海外挑戦する場合、ほとんどが馬体の完成された競走馬による挑戦になる。従って新たな成長をするためのトレーニングはそれほど必要なく、日本競馬から見て特殊な馬場事情に順応するための訓練を行うことこそが重要だった。
その観点から見ると、広い放牧地を持ちながらトレーニング用の馬道を持ち、しかも自然の丘陵に沿ったものでそれなりにアップダウンがある物となれば条件は十分に整っているとさえ言えた。
「ふむ……まあ幸いうちは敷地に余裕がありますから、何頭か受け入れる余裕はありますね」
「ありがとうございます。基本的な合意は得られたとして、詳細な条件を詰めさせていただきたく。可能であれば併せ馬が出来るような時間を作りたいので、トラックコースの使用時間等をわたくしどもの方で調整して……」
本人(本馬)の知らないところで得体のしれないプロジェクトが動き出す。
そうとは知らないマルッコはのんきに道草を食んでいた。
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【悲報】ダイランドウくん、フランスにドナドナされる模様
1 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
なんでや、もう国内で見れないのか(URL)
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記事抜粋
ダイランドウは6月の英国短距離路線に参戦するため
5月までに渡仏すると須田光圀調教師は発表した。
滞在中は計4戦を予定しており、現段階で最終的な目標は仏G1ムーランドロンシャンに定め、現地滞在先はフランスのロンデリー牧場を予定しているとした。レース後は現役を引退し種牡馬として新たな生活をスタートさせるということだ。
須田調教師コメント
「まずダイランドウの引退レースが国内とならない事をファンの皆様にお詫び申し上げます。本馬の状態を鑑みて、国内でのレースでは望みが薄いと判断したため、オーナー様と相談の結果、今回の海外挑戦という形となりました。
海外実績としては既にドバイで結果を出している本馬ですが、英国や仏国の馬場はまたそれらとは異なるため、我々陣営としてはまた新たな挑戦と考えており――(略)」
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2 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
えーーーーーーーーーーーー!
3 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
はあ? 海外?
5 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
そりゃ国内に敵はいないわけだけど
7 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
なおグラッチェシモン
10 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
あの馬もう引退やろ
11 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
実際問題もう出るレースないよな。
国内の短距離マイルG1全制覇してるわけだし
13 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
普通に引退じゃあかんのか
16 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
香港スプリント使わんのか
24 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
6月の英国のレースって何
キングズスタンドステークスとか?
29 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
どこでやってるレースなんそれ
32 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
>>29
イギリス
アスコット
ロイヤルアスコット開催んときにやるやつ
プリンスオブウェールズSとかなら分かるだろ
41 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
>>32
あーあったな何かそんな千直
42 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
それあれじゃね、えぐいローテでもう一戦走る奴じゃなかったっけ
43 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
中三日でスプリント走る奴だな
46 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
プラチナジュビリーステークスって見慣れねーレースだと思ったら名前変わってたのかよ
48 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
「本馬の状態を鑑みて、国内でのレースでは望みが薄いと判断した」
ってのは一体何なんだどこから突っ込めばいいんだ
50 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
なんで海外なら行けると思ったんだよ須田っちw
52 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
ほんそれ
宮杯はマジで謎敗北だったがどっか調子悪いのか?
59 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
馬が走るの止めちゃってるレベルよな
62 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
ママになりたがってる
65 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
♂だから
66 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
♂でもママになれるんだよ?
67 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
やめーやきしょい
78 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
元々繊細な馬だったって話だし、厩舎の方でなんか環境の変化あったのかもな
83 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
変化ってなんだよ
厩務員とか?
88 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
知らね
100 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
てか滞在先ってS氏の別荘じゃね?
103 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
別荘呼ばわりすなww
ドバイか何かの時に滞在してた牧場だよな
やたらとデザインのいい中川牧場HPで見た気がするわ
104 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
まるいの今その牧場だぞ
マルッコくんカム常連の俺が言ってんだから間違いない
知らないやつのために言っとくと稀にマルッコくんのだらしない姿が見られるから今すぐ中川牧場のホームページにアクセスだ
107 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
まじかよまたあの凱旋門の時みたいな生放送やってるのか
俺も仕事中つけとこ
110 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
ちなみに放牧地のカメラは寝てるか飯食ってるとき以外役に立たないぞ
ほぼほぼ柵の外にいる
111 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
柵とは
114 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
それでええんか……
117 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
ということはあのページで今後はダイランドウとサタン両方見れるのか
なんか国内で走らないのがどうでもよくなってきたわ
120 名無しさん@競馬板 20NN/04/20
会いに行ける(なんなら乗れる)馬の面目躍如である
まさか馬と馬で会いに行くところを見ることになるとは思わなかったが
おまえんちヒールないの? の方、18時に更新予約したのでよかったら見てみてください。
まだ読んでない人は暇つぶしにでも初めから読んでみてください