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別次元からの刺客(2)

■■■さらぶるっ! 4月増刊号■■■



 GⅠシリーズが始まり、肩を回して発売所へ意気込む馬券ファンの皆様の姿が多くなったように感じる、そんな桜舞い散る春真っ盛り。

 今春も中京競馬場にて高松宮杯よりGⅠシリーズが開始され、春の古馬街道大阪杯が続き、舞台を海外へ移せばドバイワールドカップ。国内では昨冬から続く世代戦が最も盛り上がる三歳クラシック、その第一戦。そして先週春の天皇賞が終わり、競馬ファン的には一息つく3コーナーといった所だろうか。


 振り返りも含めてさらぶるっ! 4月号は増刊号と銘打ち、天皇賞までのハイライトをお送りする。




◎激闘! 大阪杯


阪神芝2000m右回りで開催される大阪杯は春の古馬中距離戦線において一つの山場だろう。近代種牡馬の実績として重視されやすい2000m戦、この距離でのタイトルを欲する陣営は数多い。国内古馬2000m戦は東京競馬場で行われる秋の天皇賞と、この大阪杯しかない。東京競馬場が左回りであるため、その条件を苦手とする競走馬にとっては戴冠を狙う唯一の機会と言っても良いだろう。


昨年は3頭の叩き合いの末、サタンマルッコが勝利。サタンマルッコはレース後鞍上の横田騎手が下馬するほどの消耗を見せた程。

レースは3コーナー途中でキャリオンナイトが一端は先頭に踊り出るような脚色を見せ、それに応戦したサタンマルッコ、そしてそれらを追走したストームライダーが一団となって叩き合う、まさに激闘や死闘の様相を呈した。


今年もまた激しい戦いとなった。

馬柱の段階では欧州NO1サラブレッドの名を欲しいがままにし、昨年末より日本競馬での競走生活を送ると発表しているセヴンスターズが人気を集めていた。

それに続き昨年度の二着馬ストームライダー。2000mGⅠでは世代戦の皐月賞を含め3つのタイトルを持つ国内古馬代表格。

注目の度合いで言えば新4歳馬ウーサワイアーも高いだろう。昨年末の有馬記念では上の世代に力の差を見せ付けられたが、陣営からは「冬の間の十分な上積みがある」と強気なコメントも出されていた。


事前の予想ではこれら3頭が勝利を争うと予想され、そして現実にレースはそのような展開となった。


当日。オッズで二番人気に指示されたストームライダーが隊列を引き連れた逃げの形。正面スタンドを横切り1コーナーで隊列が形成された際にはスタンドからどよめきが起こったほどだが、これはそれほどおかしな展開ではない。

サタンマルッコ、ダイランドウといった圧倒的初速の逃げ馬に隠れがちだが、ストームライダーという馬は先頭を切る事を躊躇わない性質を持った馬だ。鞍上竹田騎手の手綱がぶらりと緩んでいたのはその証だろう。

1000m通過が59秒。古馬2000m戦としても大阪杯としても平均的なペースと言って良いだろう。

そんな内々二番手で、当日一番人気のセヴンスターズは追走していた。前目の堅実な位置取りは阪神内回りの鉄則、3コーナーでの仕掛けを強く意識した物だろう。


勝負所の3コーナー、真っ先に動いたのが当日三番人気のウーサワイアーだった。

先団に取り付かんと向こう正面途中から外目を駆け上がり、いよいよセヴンスターズに並ぼうか、というところだった。


それは馬なりだった。

何度も映像を確認したが、騎手から何らかのサインが送られたようには見えなかった。


すぅーっと、湖面を飛び立つ水鳥のようにストームライダー、セヴンスターズ両馬が後続を引き離した。そこから内外馬体を併せたマッチレースのような展開。

最後は頭の上げ下げ、ハナ差でストームライダーが制した。

昨年度はハナ差で敗れた同馬、春秋の中距離戦を勝利し、世代に覇を唱えるか。




◎ドバイワールドカップデー


4月某日。現地時間で大阪杯より遅れること6日、熱狂冷めやらぬ競馬界の次なるステージは海を越え山を越え、遥か西ドバイ首長国連邦に至る。


今年はダート勢の参戦がなく些か残念に思うが、その分といっては何だが芝では日本勢が大活躍した。

それぞれのレースを振り返ってみよう。


・アルクォズスプリント


日本からはダイランドウが出走。

正直空いた口が塞がらないとは正にこの事。

あの、三歳の今頃は大暴走大爆発の代名詞であったダイランドウがこれ程までの才気を見せ付けてくれようとは。


圧倒。この一言に尽きる。

ダイランドウは最も速く先頭に立ち、最も速くゴール板を駆け抜けた。

競馬における言うは易し行うは難しの代表格であろう。

それが出来れば苦労しない。それが出来るから、こうも容易い。

間違いなくダイランドウ自身のベストパフォーマンスだ。

素晴らしい走りに賞賛を贈りたい。



・ドバイターフ

芝1800m戦。

日本からはサミダレミツキ、ヴェルトーチカ、ラストラプソディーが参戦。

こちらも見応えのある圧巻のレース内容だった。


レースは海外勢、主に欧州勢によるスローペースに終始し、中団内々のサミダレミツキ、ヴェルトーチカ、後方に取り残された格好のラストラプソディーら日本勢は圧倒的劣勢に立たされていた。

しかし、その日の日本勢はそれだけで終わらなかった。


スローペースのラビットを交わした先行勢が直線で先頭に立つと、バラけた馬群を捌いてサミダレミツキ、ヴェルトーチカが内から進出。

特にサミダレミツキが得意の競り合いに持ち込み半馬身先行。脚色的にサミダレミツキがこのままかと思ったのも束の間、大外へ持ち出していたラストラプソディーが未曾有の末脚を繰り出し一瞬で差し切り先頭に立つとそのままグングン加速、6馬身差の圧勝に終わった。


ゴール後鞍上の川澄騎手は喜びを露わに天を仰いで雄たけびを上げた。クールな印象の強い同騎手からすると珍しいパフォーマンスである。

淡々と騎乗する普段の様子とはかけ離れた姿に、本馬への思い入れが感じられた。

「風のようだった。でもこの馬は、もともとそういう走りが出来た馬でした。次は国内の競馬ファンの皆様に、この姿をお見せしたいと思います」

念願のタイトルに手の届いた陣営。しかし次を見据えて既に動き出しているようだ。今後も動向に注目したい。



・ドバイシーマクラシック

芝2400m戦。

メイダン競馬場(現地時間24:45)発送したドバイシーマクラシックにおいてキャリオンナイトが悲願の初優勝を飾った。

同レースには日本馬からは昨年の凱旋門賞覇者サタンマルッコも参加していたが後塵を期すこととなった。

インタビューに対し鞍上の八源太騎手は「馬がやる気を出してくれました。どういう風の吹き回しなのかさっぱりわかりませんが、やれば出来る馬だと信じていました。僕にとって忘れられない思い出になりそうです」と気色を満面に表した。

若手の新鋭八騎手は初GⅠタイトル獲得が海外となり、訓練生時代から奇才と呼ばれた彼らしい、実に風変わりな門出となった。


サタンマルッコの横田騎手は「馬が無事なら次もある。今回は勝った馬が強い競馬をしたのだと思います」と控えめなコメントだ。


終わってみれば前二頭が競い合うあっけない結末となったが、その衝撃は計り知れない。得意のペースに持ち込んで敗北したサタンマルッコに対しても、これだけの走りが出来たにも関わらず3年間勝ち星のなかったキャリオンナイトの力走に対してもだ。

両馬共に次走の予定は未定、帰国後の動向に注目していきたい。





-------------




 飛行機からこっち、割といつも通りだったようにクニオは記憶していた。

 何についてか。もちろん己が管理馬サタンマルッコについてである。


「なんだよもーさっきからー」

「ぶびんっ」


 びーん。

 飼葉の補充で馬房に近寄った所、袖を噛んで引っ張られた。偶に、というかよくやる悪戯かなと気にも留めなかったのだが、あまりに繰り返すので相手をしてやれば、違うそうじゃないとでも言いたげに鼻息を飛ばしてくるのだ。


「何か欲しいのか? りんごか?」

「…………」


 こういう時は大概おやつの催促であるのが常だったのだが、白けた表情から察するにどうもそうではないらしい。むかつくので額を一発叩く。頭突きが返される。

 それなりにしなければならない業務も多い。いつもの気まぐれであるのなら放って置いても問題ないのだが、と考え頭を振った。

 いや、軽んじる事は出来ない。身体のどこかに異常がある可能性だってある。サタンマルッコはもう羽賀で走るだけの競走馬ではない。無事に現役生活を全うし、次代へ血を残す使命がある。

 馬房へ入り足や身体の様子を確かめる。触った感じでは熱も無く、筋肉の張りも感じられない。


「別に変なところは無いか。どうしたんだマルッコ」


 「何やってんのお前?」みたいなマルッコの視線に微妙にイラつきながらもクニオは辛抱強く彼の欲する所を探った。視線、気配、様子。


「これか?」

「!!!!!!」


 思い当たり事務所から競馬新聞を持ち帰ってみれば、前肢でぴょんと跳ねた。

 どうやら正解だったらしい。

 がぶっと束ごと奪い取ると、いそいそ馬房の奥へ消えていった。

 何をしているのかと覗き込んでみれば、やはりいつものように器用に新聞を広げているようだった。


「マルッコよー。あんまりちらかすなよー? 片付けるの俺なんだからな」


 まるで聞いていないマルッコは新聞をがさがさと広げては脇へ、広げては脇へ、何かを探しているかのように繰り返す。

 やがてピタリと動きが止まる。


「それが気に入ったのか? んじゃ他のは片付けるぞ? まだ読んでないのに台無しじゃんか……」


 栗毛の怪馬は広げた紙面をじいっと見つめていた。何かを刻み込むように、何時間も、何時までも。




------




 季節は過ぎる。俊英達が名乗りを上げ、古豪が勝鬨を上げる。



《……――とここで外からパカパカモフモフが迫る!

 後方一気、大爆発だ! パカパカモフモフ撫で切ったゴールインッ!

 桜の女王パカパカモフモフゥーッ!》





《……――内トキノシガラミ、外からはダイヤモンドパター!

 しかしトキノシガラミ持ち返す、トキノシガラミ先頭、さらに後方ノーベルウィネーも伸びてきているが、トキノシガラミ、トキノシガラミ、トキノシガラミ一着でゴールイン!

 トキノシガラミ三冠レース第一戦を制しました!》




《……――スティールソードが先頭!

 セブンスターズは馬群の中抜け出そうという感じ!

 しかしどうも届きそうに無い!


 スティールソード、堂々一着ゴールイン!


 二年連続春の天皇盾をもぎ取りました!》




《……――パカパカモフモフ! パカパカモフモフ!

 決して呼びやすい名ではないが名前を二度呼ぶ余裕がある!

 これはもう間違いない! 本物だ! 圧勝!

 パカパカモフモフ! 二冠達成ッ!》




《……――先頭はトキノシガラミ!

 後ろからはモンデルヘイヴンやヴァルトーシャが迫るが差は4馬身から5馬身!

 これは決まった! トキノシガラミ二冠達成ーッ!

 右手を突き上げ八騎手ガッツポーズッ!》



 競馬の夏。気温に増して加熱する激闘は一つの頂点を迎えようとしていた。

 東京芝1600m。安田記念開幕。



ちかごろあちいよ(´・ω・`)サッカーは苦戦してます

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