表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/44

どうして彼は走るのか -とある競走馬-

 彼は今の状況が不満だった。


 何故に急かされて走らなければならないのか。

 あんないつでも追い抜けるような奴等を相手に。


 思い返せば生まれた場所はよかった。

 背中に人を乗せなくてよかったし、広いし、飯はどこにでもあったし。



 狭い場所に移ってからは我慢の連続だった。


 毎日背中に人が乗るし、何がしたいのか分からないが鞭で打たれるし。

 人が大勢いる場所に連れてこられた時は最悪だ。

 人が背中でごちゃごちゃうるさいから。


 適当にやり過ごしていたら何故か褒められた。どうやら仲間より先に走れば褒められるらしいと彼は見当をつけた。


 それから暫くは上手くやった。適当に力を抜きつつ一番先を走る。

 やがて気付く。他の仲間は己より足が遅いと。こんなの相手にした所で何になるというのか。いざとなれば追い抜ける相手に力を使う必要性を彼は感じなかった。


 だから一層手を抜いた。

 始まる瞬間に遅く走り出せば、背中の人はごちゃごちゃやらなくなると知った。

 そうしている内に違う人が背中に乗ると通用しなくなった。仕方ないので暫く走って頑張っているフリだけすることにした。


 どこへ行っても代わり映えしない、いつでも追い抜ける顔ぶれ。

 ごちゃごちゃうるさい背中の人。


 彼の不満はたまっていく一方だった。




 ある時また背中の人が変わった。


「よろしくな~」


 今までと少し違うと彼は感じた。走っていても背中でごちゃごちゃ邪魔してこないのだ。


「たのむよ~走ってくれよ~俺初GⅠなんだぜ~お願いだからさ~」


 なんかぶつぶつ言ってるが、邪魔されないならたまには走るか、と。ちょうど見慣れない奴もいることだし。

 そいつは先頭を走っていた。なんか狭いところで貰う飯みたいな色でピカピカ光っている。


 おっ、と思った。前を走る奴等は中々追いつけない。


 へー。


 それから彼は彼らを意識するようになった。



---



 幾度かの競走で彼は今のままでは彼らに勝てないことを悟った。

 鈍った身体では通用しないのだとも気付いた。

 走り方も変える必要があった。今までのようにゆっくり走り始めると、彼らはその間に追いつけない位置まで行ってしまうからだ。


 久しぶりに、というより他ない。狭い場所で身体を鍛えると、狭い部屋で食べる食事が美味く感じるのだ。この感覚。

 肉体はかなりの割合仕上がってきた、そんな頃。

 なんかごちゃごちゃうるさい場所へ連れて行かれ、めちゃくちゃ揺れてめちゃくちゃうるさくて静かな乗り物に乗せられ、知らない場所につれてこられた。


 なんだここ。


 見知った顔は狭い部屋の人と背中の人。

 仲間も人も知らない顔が多い。


 ふーん。


 よくわからないがたぶんいつもと違う場所なんだろうとあたりを付けた。

 走る場所へやってきてそれは確信に変わる。

 ちょうどいい、と意気込んだ。


「おお? キャリーくん今日はやる気じゃない。どしたのよ。よしよし」


 背中の人がなんか言ってるが無視無視。


 ちょうどいい所だった。ピカピカしてるアイツもここにいて、どうやらこれから競走するらしいじゃないか。

 アイツは若い奴の癖に生意気だ。本当は誰が一番足が速いかそろそろ教えてやらなくてはならない。


 そら走り出したぞ。


 たぶん今日もぐるっと一週回ってまっすぐ進んだ先で終わるんだろう。

 だいたいこの距離。今までの感じならこのくらい後ろなら最後に追い抜ける。


「マジかキャリーくん。今日はマジなのか」


 背中の人が何か言ってるが無視無視。というか気が散るから黙っていて欲しい。

 アイツを抜くのはこの俺様を持ってしても結構キツイのだ。

 だいたい、アイツが走る場所に現れてからというもの、全体的に走る速さが上がって息がしんどい。何をこんなことにマジになっているのか知らないが、付き合うこっちの迷惑も考えて欲しいものだ。


 曲がる道になってアイツが呼吸を整え始めた。こっちも同じように呼吸を整える。

 距離は変わらない。


 よし真っ直ぐな場所。足元も走りやすい、差を詰めて……ムム。

 やるな、中々差がつまらない。同じだけの速さで走っているってことか。

 まあ仕方ないな。別にここじゃなくても抜けそうだという事が分かったし、もっと楽に追い抜けるときにでも…………。


「がんばれキャリー君! あとちょっと、あとちょっとだ!」


 …………。

 背中の人が何か言いながら俺の身体を叩く。

 この背中の人が俺を叩く時というのは、どうやら全力を出して走れという合図らしい。昔いた広い場所でそのような事を恐ろしげな人に教え込まれた。今思い出しても恐ろしい奴だった。


 そーかね、やれってか背中の人よ。キツイの俺なんだけど。


 わかったよ。

 次なんて言わないさ。今やれるってこと、証明してやるよ。


 身体はしんどい。息は苦しい。相変わらずどうしてこんな事をしなきゃいけないのか全く理解できない。


 だけどこいつを俺は抜かせる。そうする事を願われていることも知っている。

 見ているといい背中の人。誰が一番足が速いのか。



 どうだ。すごいだろ。



 ん? なんだピカピカの。そんなに睨んだって俺の勝ちだぜ。

 どんなもんだ。


 今日はいつもより気分がいい。

 また、走ってやってもいいかもしれない、そのくらいには。


ダイスケ君と比較して圧倒的に知能が高くなった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ