第5話 きゅんきゅん魔法?
「ねぇ、お兄ちゃん。あづき、思ったんだけどね。長期でこの街にいる予定ならお家借りたほうが安いんじゃないかな?」
「あっ、それは俺も思ってた」
「私、1週間単位で借りられるWeeklyアパートに住んでるんですけど、隣が空いていたはずです。いかがでしょうか?宿屋に泊まるよりもかなりお得です」
真白さんが嬉しい情報を教えてくれた。
借家は、ひと月単位で借りるものだと思っていた。
「そんなのあるんだね。真白、知ってた?」
「ううん。知らなかったよ」
「じゃあ、昼食とWeeklyアパート借りるのも兼ねて、動き始めようか」
「はーい。んっーーー。ありがとう、お兄ちゃん」
愛月の口元に付着していた生クリームをハンカチで拭き取る。
真白さんはその光景を見て、にこやかに微笑んでいた。
かわいい。声を出さずに優しい顔で笑う真白さん。
癒し系だ。
「きゃぁー」
昼食を食べ終えた後、アパートを無事に借りることができ、真白さんと夜ご飯の買い出しに行こうということになった。
愛月は、用事があるらしく別行動だ。
10歳を一人行動させるのは、少し心配だが、治安は良いと感じるこのファーストの街のため、人通りの少ない所は通らない事、困ったり危ない目にあいそうになったら、近くの大人に頼ることを条件に、OKを出した。
「大丈夫?」
とっさに、ため口になってしまった。
真白さんが、足元に転がっている石に躓き、顔面から地面にダイブしそうになる。
差し出した俺の腕で、無事、支えることに成功した。
意外と、間一髪だったと思う。
まぁ、街中だから、痛みは感じないし死なないのだが、そういうのは気持ちの問題だよな。
顔面が地面にぶつかるという、恐怖は感じるだろうし。
「あっ、ありがとうございます。星斗さん」
俺の腕から離れ、お礼を告げる真白さん。
「どういたしまして。また、転んだりしないように、手を繋ぎますか?」
冗談半分で、言ってみた。
「えっ、あっ、お願いします」
手を差し出してきた。
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
なんか、ぎこちない感じで手を繋ぐ。
『恋人つなぎ』みたいな感じだ。
指を絡め合うあの繋ぎかたである。
恋人や夫婦、親子、女の子同士(男の子同士でもしたいのであればしても良いとは思う)が行うのを街中で見かけるあの繋ぎかた。
愛情表現には、抱きしめあったり、キスしたり、それ以上のことをしたりといろいろあるだろうが、その中でも、気軽ででき、世間一般的に公共的な場所で行なっても注意されたりすることも少ないだろうと言える、恋人つなぎ。
恋人つなぎは、指を絡め合うのに対し、指を絡ませないで手を繋ぐ方法を『友達つなぎ』という。
恋人つなぎのタイミングとして、やり方は至ってシンプルで簡単といえるだろう、
相手の指と自身の指を絡ませて手を繋ぐだけなのだから。
しかし、カップルでない場合の状況であったとしたら、いいのかな?まだはやいかな?と自問自答することだろう。
付き合い始めのころは、恋人つなぎがしたくても、なかなかできないなどということも少なくないはずだ。
手がちょいちょい触れ合う状態、お互いに繋ぐかどうか迷っている状況に陥ることもあるだろう。
まぁ、童貞の俺は、この情報はネットや恋愛本で仕入れたわけなのだが笑
「真白さん、あついですね。ハンカチ使いますか?」
女の子と手を繋ぐ経験などなかった俺に恋人つなぎという事態が訪れ、無言で目的地に向けて歩いていた俺。
何かしゃべらなくては、とやっと思考がまわりはじめ、真白さんに話しかける。
手汗が出てきそうで心配だ。
「そうですね。あっ、ありがとうございます」
機嫌が良さそうに感じる真白さん。
今日、出会ったばかりの女の子と手を繋いでも良いものかと今更になって、思った。
まぁ、真白さんから、手を差し出してきたから良いということにしよう。
真白さんの頬に垂れている汗の雫をハンカチで拭きとる。
「ありがとうございます。あの、星斗さん。私に対して、敬語使わなくて大丈夫ですよ?私の方が年下ですし、それと、真白って呼んでもらえると嬉しいです」
少し、顔を赤らめているように感じる真白さんが上目遣いで言ってきた。
顔が赤く感じるのは、夕焼けが出てきたからだろう。
身長差があるものだから、自然と上目遣いになる。
女子からの上目遣いは、きゅんきゅんダメージすごいよな。
まるで、魔法みたいだ。きゅんきゅん魔法と名付けよう笑
「わかった。真白。これからもよろしくな」
なんか、可愛くて、頭をポンポンとしたくなる衝動にかられたがなんとか、おしとどまった。
「はいっ。あっ……」
再度、転びそうになる真白。
繋いでいる手を引き寄せ、俺のもとに引っ張る。
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