第2話 『早川(はやかわ) 愛月(あづき)』
ファンタスターに閉じ込められて、1週間が経過した。
ファンタスターで食べる物や飲み物は、しっかりと味があり、食べ物に関して不満もない。
町並みは中世ヨーロッパ風な気もしなくはないが、日本料理が普通にあるようだ。
村や街の外に出るとモンスターや盗賊に襲われることもあるが、村や街中であれば、安全だ。
どうやら、村や街中内では、不思議な力で守られているようでダメージを受けない。
泊まっている宿屋にてナイフで、購入したリンゴの皮を剥こうとしたところ、手を滑らせ、指を切ってしまったが、血が出ることもなく痛みも感じなかった。
触れたという感触はある。
この3日間を振り返ると、他のさまざまな者たちは、各自パーティーを組んでモンスターに挑んだり、誰かが立ち上げたギルドに加入したりとした姿、戦闘は行わず生産系を行なうようなものが見受けられた。
黒雲の人の言う目的が何か判明していない為、推測して、このファンタスターに存在するダンジョン(俺たちのスタート地点であるファーストの街の外の比較的近い場所にて、発見)の攻略を行なおうと言っている者。
NPCに聞いた情報で、伝説の鏡を探しに行く者などさまざまいた。
「そう、そいつの弱点は、頭だよ。頭を狙って」
俺は、闘技場で隣にいた女の子に話しかけられて、パーティを組むことにした。
ついでに、ギルドも立ち上げた。
ギルド名は『魔法少女 星月』
俺とその女の子の名前から一文字ずつ取った。
俺は女の子ではないのだが、魔法少女にあこがれていた愛月の強い要望により、受諾した。
女の子の名前は、『早川 愛月』
年齢は10歳で、身長は140cmないくらいの黒髪のショートカットの女の子。
ジョブは俺と同じ魔法使い。
俺が、ギルドリーダーで、愛月が副リーダーだ。
因みにこのファンタスターのジョブは、かなり複数あることが判明した。
魔法使い、剣使い、斧使い、弓使い、槍使い、鍛冶士、料理人などなど。
剣使いであっても、魔法を覚えていれば魔法を使える。
だが、適正というものがあり、俺と愛月は魔法使い一択。
初日の闘技場で、愛月と話していた際に、聞こえてきた話によれば、適正ジョブが剣使い、槍使い、弓使いなどの3択から選べる者もいた。
ジョブは、そのジョブに見合ったスキルや魔法を覚えやすいなどの他に、LP(LIFE POINT)・MP(MAGIC POINT)その他、AP(ATTACK POINT)、GP(GUARD POINT)、SP(SPEED POINT)が成長しやすいなど差がある。
LPは、生命ポイントのことであり、0になれば死ぬ
MPは、魔法やスキルを使う際に消費するポイントのこと。MPが足りない際は魔法やスキルは発動しない。
APは、攻撃力ポイントといえ、高いほど攻撃時のダメージが増加する。APは剣使用時の攻撃補正だけではなく、魔法使用時の攻撃補正もある。
GPは、防御力(守備力)ポイントといえ、高いほど、ダメージを受けた際のダメージを軽減する。
SPは、俊敏力ポイントといえ、高いほど、素早く動ける。SPは、剣を素早く触れるなどの補正効果の他に、魔法使用時の魔法の動きの速さも補正効果がある。
スキルや魔法には熟練度というものがあり、使用する回数が多いものほど、効果が高まったり必要MPが減少したり、特殊な効果が付与されたりするようだ。
「分かったー」
俺の言葉に返事をし、魔法の詠唱を始める愛月。
俺は、愛月と同じ宿屋に泊まっている。
愛月が夜、寝ている間に、俺は街の外にでて、モンスター討伐に励んでいたため、正直そこそこ強い。
10歳の女の子を守るためには、俺が強くならないとね。
俺の魔法本には、初期魔法として、水魔法が記載されていた。
【魔法名】水魔法
【呪文名】ウォーター
【M P】 1
【詠唱文】我が名(自身のことを言えばよいため、私の名でも良い)は星斗、生命の源、いでよ、清らかなる水、ウォーター
【熟練度】 1
【説明書】飲み水。水魔法に適性のある魔法使いの取得難易度F。水属性にて最下級の魔法
【魔法名】水魔法
【呪文名】アイスダーツ
【M P】 5
【詠唱文】我が名は〇〇、凍てつく氷を欲する者、鋭き氷よ。我が手に宿れ、アイスダーツ
【熟練度】 1
【説明書】鋭い氷を出現させる。水魔法の上位に位置する氷魔法の低級魔法。
【魔法名】水魔法
【呪文名】アクアヒール
【M P】 5
【詠唱文】我が名は〇〇、癒しを求める者、癒しの水よ。我が手に宿れ、アクアヒール
【熟練度】 1
【説明書】HPを回復する回復魔法。回復魔法は、水魔法使いが覚える
「わたしのなまえは、あづき。ビリビリを愛する者、雷雲ちゃん。あづきのお願いを聞いて欲しいな。サンダークラウド」
【魔法名】雷魔法
【呪文名】サンダークラウド
【M P】 5
【詠唱文】我が名は〇〇、ビリビリを愛する者、雷雲よ。我が求めに答えよ、サンダークラウド
【説明書】雷雲を出現させ、魔法使用者が対象の頭上付近までコントロールし、雷を放つ。雷魔法の初級魔法。
詠唱文は、少し変わっても発動することが分かっている。
因みに、俺は消費MP1のウォーターを愛月と一緒に街の外に出ている際、歩きながらだったり、愛月がモンスターと戦っている際だったり、ずっと繰り返し使用していたこともあり、今では、指パッチンするだけで発動可能になった。
熟練度100です笑
俺の泊まっている宿屋の店主(NPC)と話して分かったことは、生活に使える魔法で攻撃性が乏しい魔法は、熟練度が上がりやすいのだとか。
「今日は、これくらいにしようか」
サンダークラウドを当て、討伐したスライムのドロップアイテムを拾う愛月に声をかける。
「お兄ちゃん。あづき、もっと強いモンスターと戦いたいな」
そろそろ言ってくるとは思っていた言葉を発する愛月。
ファーストの街から離れすぎない場所で討伐を主にしている俺たち。
このファンタスターの世界で、2,3日は他の者たちもファーストの街付近でモンスター討伐をしていたが、1週間をすぎると、それもちらほらとなり、10日目の今日は、誰も見ていない。
ダンジョン攻略を目指す者、次の街を目指す者さまざまだ。
ファーストの街の広場に地図があり、次の街『セカディア』の街があることは分かっている。
場所的には近いようで、馬に乗り片道1日の距離みたいだ。
「レベルいくつになった?」
「10レベルだよ?お兄ちゃん」
お兄ちゃんと呼ばれる理由は、俺が兄に似ているらしいから。
闘技場で声をかけてきたのもそれが要因らしい。
「わかった。じゃぁ、明日はダンジョンに挑もう」
「いいの?お兄ちゃんやったぁー」
嬉しいのだろう。
わかりやすく飛び跳ねる愛月。
~宿屋のお食事処~
現在、俺と愛月はファーストの街に戻り、1階のお食事処で、カレーライスを食べている。
俺は、中辛、愛月は甘口だ。
食欲のそそるスパイスの効いた香り。
宿屋に戻ってきてその香りが鼻を通った瞬間、俺と愛月のおなかが『ぐぅー』と合唱した笑
「おいしいねぇ。お兄ちゃん」
そう言って、スプーンですくいカレーライスを口に入れる愛月。
「そうだな。愛月、にんじんも残さず食べるんだよ?」
愛月の食べているカレーライスにオレンジ色のニンジンが残っている割合が多い。
ニンジンが苦手なのは、この10日間で知っている。
「お兄ちゃん代わりに食べて」
そう言って、俺の皿に、一口サイズのニンジンを次々と入れてくる。
「分かった。でも、少しは食べようね」
愛月と一緒に現実世界に戻ったことを考えると、保護者代理だと思っている俺は、愛月にニンジンを食べるように言った。
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