03-1 私たちのしなければならないこと (1)
南の魔の森に大きな暴竜が出ました。魔の森には大小の魔獣がいて、時々村や街を襲って来ます。なぜそんな物がいて、なぜ森を出て村や街を襲いに来るのか。昔々この世界は2人の強い神によって作られて・・・なんて話から始まるのだけど、結局は些細な方針の違いから仲違いして、途中からそれぞれ好みの生き物を作り、それが元で争いが始まると、力を与えて戦わせた。不遜な言い方をするなら、私たちは神様のしょうもない喧嘩の肩代わりをさせられていることになるのではないかしら。
昔の事はどうしようもないけれど、ときどき魔獣の群とか大きな怪物とかが襲って来るのは何とかなって欲しいです。このあたりは100年ぐらい無事だったそうですが、今来ているのは暴竜という大きな怪物。どうやっているのか判らないけど、村を見つけて家を踏み壊して、人を喰い殺すとても恐ろしい相手です。魔の森から現れて道沿いに街へ向かっています。ここまで2つの村を潰して、私の村が3つ目。街を守るため、領主様はここで暴竜を食い止めるよう命令を出されました。
私の村は犬人と猫人の獣人が住む開拓村です。城壁に囲まれた街より税は軽いですが、そのかわり平原の獣が襲って来ます。そして今度のように森の魔獣が来た時には先兵として戦うことが定められています。
暴竜は大きいので見た目より動きは早いのだそうです。そのかわり、早く動くと体が熱くなるのでしばらく休憩が要るらしいです。そこで、広い場所で挑発して走らせ、疲れて動きが鈍ったところに近寄って斃すのが定石だとか。しかし、ただ体が大きいだけでなく、皮が厚く硬いので丈夫な鉄の槍でなければ傷つけるのも難しいのだそうです。
ひとつ目の村は準備が間に合わず踏みつぶされました。村人もたいがいは逃げる間もなく殺されました。その知らせによって、2つ目の村は村人が散らばって逃げる時間がとれました。暴竜は村の周囲を歩き回り、逃げた人を執拗に探して殺しました。そのため生き残れた者は少ないのですが、結果的には1日あまり足止めした事になりました。
その間に、領主様は大きな鉄の槍を持った騎馬の兵士の一団を派遣されました。騎馬隊を支援して戦う徒歩兵として、村の男の大人たちが大勢徴募されました。形は募集だけど3人に2人の割り当て。私の父様は籤にあたってしまい、討伐隊に加わって隣村との間の平原へ出て行きました。
徒歩兵の役割は暴竜を挑発して走らせ、物陰に待機している騎馬兵の前を横切るように誘導すること。つまり囮役。暴竜が囮を追っているところへ騎馬で突進して、皮の薄い腹を槍で突くという作戦です。騎馬の勢いで鉄の槍を突けば竜の皮を貫けるはずです。しかしこれはうまく行きませんでした。
走る暴竜の早さは足の速い大人ぐらいらしいので、懸命に駆ければ追いつかれないはずですが、やはり竜の方が体力がありました。距離が詰まったところを狙って竜はブレスを吐き、徒歩兵つまり村から徴募された大人はほとんど殺されました。仕方なく騎馬の兵士は正面から突進したそうですが、やはり槍は弾かれて通らず、騎馬はすべて失われ兵士も多くが死にました。
戦いのあと暴竜はしばらく休憩し、そのまま夜になりました。暴竜は夜は進行を止めます。村を踏みつぶしに来るのは翌日。つまり今日の昼前頃です。