12-3 はじめてのおつかい(3)
蓑上の村の中で道に迷っていた狐っ子は、大畑の稲荷神社に最近やって来た見習いさんだった。このあたりの6つの神社を回って挨拶して手紙を届ける。これって「はじめてのおつかい」ってやつだね。4つ目は水神様の所で、残りはあと2つ。
鳥居の所でちょっと待ってると、新米守狐の顕太君が戻って来た。用事は済んだみたいだね。おや、誰か来たよ。
「ネコ殿、ツル殿。水神の眷属で神使を務めている瞭牙と申します。このたびは稲荷神のお使いの者を案内していただきありがとうございます。」 わお。背の高い中年、ナイスミドルって言うんだっけ。水神様の神使ってことは、秀牙さんの上役だ。
「顕太殿、ご苦労様でした。稲荷神様にはよろしくお伝えください。お務めでなくとも、近所に来られた際にはぜひお立ちよりください。秀牙、お使い様を途中までお送りしてください。」 秀牙さん、途中まで送ってくれるんだ。
「では、顕太殿、この先の村の境まで送りましょう。さきほど、ネコ殿と話していたのですが、次は榎の苗代神様の所へ回るのが良いでしょう。その方が道が分かりやすいです。」秀牙さん、上役さんの前だから、きっちり仕事モードだね。
さっきからツルがスマホを触っていたけど、タヌキにメールしたみたい。最後が稲荷神社って事はタヌキの家の横だからちょうどいい。顕太君とお散歩して、それからタヌキの家へ押しかけて遊ぶかな。
自転車は神社に置かせてもらって、4人で歩いて県道の交差点まで来た。そこにはタヌキがいた。ちょっとふうふう言ってるけど、ツルのメール見て走って来たんだ。
「間に合って良かったよ。ワタシ、タヌキ。アダ名ね。ケンタ君だっけ、稲荷神社のお狐さんなんだよね。ケンタ君って呼んでいいよね。」 タヌキ、テンション高すぎだぞ。顕太君が驚いているよ。
「えええっ、ととと。。。。タヌキ様、大畑の稲荷社に守狐の見習いで来ました顕太と申します。よろしくお願いいたします。」 おおっ、今度はちゃんと言えたね。「あのお・・・タヌキ様もどちらか神様の御縁のお方でしょうか。」 でも、顕太君、そんなに緊張しなくてもいいよ。
「あはは、そんな大げさなものじゃないよ。そこのネコの手伝いで、ちょっと神様の頼み事をしただけだから。」 そう、繭神様の依頼って簡単な事だったんだから。それで加護は貰ったけど、特に偉くなったんじやないから・・・そうだよ。
「だから、ワタシの事、様呼びしないでね。ツルもネコもそうだよね。普通に子どもどうしの話し方でいいよね。」 そうそう。堅苦しいのは良くない・・・っか、あの調子だと私たちがしゃべれない。
「えっと、タヌキ・・・さん?」 「そうだねぇ・・・タヌキお姉ちゃんって呼んでくれるとうれしいなあ。」 お姉ちゃんねぇ。タヌキって、瓜蔓君の時もそうだったけど、やっぱりそういう系なんだ。まあ、私も可愛い狐っ子にお姉さんって呼ばれるとちょっとうれしいかも。
秀牙さんはの道案内はここまで。あとは私たち3人が一緒。スマホの地図もあるから、迷ってもたいした事はないよ。
「この道の所が昔の村の境です。ここから少し先、道の横の細道に入って、そのまま真っすぐ行けば榎の素戔嗚神社です。そこから浜の神社へは、集落の中を斜めに抜ける道があったはずです。苗代神様の所の社守が道を教えてくれるでしょう。」 うん、確かに道は地元の人に訊くのがいちばん。質問して教えてもらうのもおつかいで大切な事だよ。
私とツルは時々スマホの地図で確認しながら歩いて、タヌキは顕太君と話しながらその後ろを歩く。お姉ちゃんと弟って感じ。稲荷神社の事から、守狐になったいきさつや狐里の暮らしとか、いろいろな話が聞こえて来る。タヌキったら、いつのまにか、顕太君の好きな物とか訊いてるよ。
そのまま15分ほど歩くと榎の神社。私たちは鳥居の所で待ってて、顕太君はお手紙を届けにお社へ。神社もそれぞれずいぶん雰囲気が違うね。ここは境内は広くないけど、まん中にすっごく大きな木が生えている。鳥居が木製だ。
次は浜の神社の竈神様の所。今度は顕太君が先頭。ちゃんと道を教わって来たんだね。家の間の細い道を抜けたら川沿いの道に出た。その道を進んで橋を渡って、斜めに行くと、こんもり緑が見えて来た。うん、これは近道だね。
ここの神社の境内は大きな木に囲まれて森の中みたいだ。木に囲まれた奥にあるお社はずいぶん古そう。これは顕太君のおつかいだから、鳥居から先は一人で行かなきゃね。私たちは鳥居の前で待ってた。
おつかいはこれで終わり。あとは稲荷神社へ戻るだけ。鳥居の前の道を少し進むと広い通りに出た。ここからは私もわかるよ。この道を右に行って、そのまま進むとタヌキの住むマンション。稲荷神社はその隣だったよね。ここまで来ればあと20分もかからないね。
「ちょっと休憩。」 言い出したのはタヌキ。コンビニで冷たい飲み物でも買おうってんだね。話しながらゆっくりだから感じなかったけど、確かにけっこう歩いたね。私もちょっとのどが渇いた。でも顕太君はひと回りずいぶん歩いたんだよね。んで、私たちは顕太君も連れて中へ。顕太君は何飲むのかな。お姉ちゃんたちが出してあげるから。
顕太君は麦茶を選んだ。水神様の所ででおた水を貰ったって言ってたけど、やっぱりのどが渇いたよね。あれれ、タヌキがレジの所で呼んでるぞ。「焼き鳥、好物だって言ってたでしょ。ここのはけっこう美味しいんだよ。あ、腿でいいよね。タレがいいかな?塩の方がいい?」 狐っ子に餌付けしようとしてる。まあ当然だけど顕太君は遠慮している。仕方ないなあ。私たちも1本づつ買って一緒にイートイン。
ちょっと休憩して水分と栄養を補給したからかな?足取りも軽くなった感じ。その勢いで歩いて行くと、じきに稲荷神社が見えて来た。鳥居の所で別れるつもりだったんだけど、鳥居の所に誰かいる。
「あ、神使様だ。」おつかいの帰りを待ってたんだね。それじゃ、私たちはここまでにするね。そのうち、稲荷神社に遊びに行くからね。そしたらまた会えるかな。
顕太君は赤い大きな鳥居へ向かって走って行く。それを見つけて、神使さんは顕太君に向かって片手を挙げた。それから、こっちへ向かって、ゆっくりおじぎをした。あはは、私たちのこと気づいてたみたいだね。私たちも神使さんに一礼。今度、ちゃんと挨拶に行こう。
このエピソードはこれで完結。次に後日話が続いて一段落します。
ひとつのエピソードはなるべく間を開けずに投稿したいと思っているのですが、
どうしても遅れがちになってしまってます。目標は毎週投稿、せめて隔週ぐらいで続けたいと思っています。