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11 階段の怪談


 9月になってもまだまだ暑い。暑い時期につきものなのは怖い話。学校で怖い話の定番っていくつかあるよね。でもうちの学校って、けっこう新しくて伝統とか無いし、校舎も普通の鉄筋コンクリで風情も何もない。下足室の壁は去年塗り替えられて、雨が降っても『お化けの姿』は出なくなった。トイレは、今年の春休みにすっかりきれいに改造されてしまって、どう考えても花子さんの居場所になりそうもない。


 そんな感じで怪談なんて無さそうな学校だけど、2学期が始まってから不思議な事が始まった。

 放課後、下校時間のチャイムが鳴るまで、一人で校舎に残っていると、西階段を上からボールが転がって来る。全然弾まないけど転がるのは速い。追いかけて拾おうとするけど捕まえられない。下で待ち構えていると、角を曲がるわずかの時間で消えてしまう。直前の時間前に階段のまわりあちこち探してもボールは見つからない。そしてちょっと目を離したすきに現れて転がる。階段の途中に障害物を置いておくと出ない。何人かで待ち構えていると出ない。ボールが何かしたわけじやないけど、それでも何なのかわからないのはちょっと怖い。これが「階段の怪談」。真実の物語は不明だけど、オカルト好きたちがあれこれ怖そうな物語を創作した。


 どうやら最初の目撃者は4年の男子。翌日は6年の女子。最初は「不思議だね」ぐらいだった話だけど、目撃者が増えると勘違いや見間違いじゃすまなくなる。そうなれば、わざと校舎に居残って目撃しようとするのが出てくる。そして先生に見つかって怒られた。チャイムが鳴る前に先生が見回って居残りを追い出すようになった。どうやら、謎のボールは先生には見えないらしい。

 怪談はちょっと下火になったけど、それでも用事で遅くなった子が目撃するという事が何度かあった。まあ、ボールが転がって行くだけで何も起こらないので、気付かないこともあるだろうし、気付いても何か起きることも無い。そのまま半月ぐらい経つと、あまり話題にもならなくなった。


 私も階段の怪談の事は忘れていたよ。係の仕事で遅くなって、それから忘れ物を取りに教室に戻って、階段を下りている途中で下校チャイムが鳴った。そして、階段の上からボールが転がって来た。そして、そのまま足もとを通り過ぎると思ったのに、突然大きく弾んで私の方に来た。思わず受け止めそうになったけど、手をすり抜けるように薄れて消えてしまった。やはり実体は無い感じ。幽霊ボール?

 チャイムが鳴ると転がって来るのは皆の話と同じたけど、向かってくるとか手もとに弾んで来るなんてパターンは聞いたことがない。なぜ? 私がネコだから? 何か私に用事でもあるのかしら。



 私に用事があるなら、きっと時間前でも姿を現すはず。次の日の放課後の先生の巡回より少し前の時間、階段を下から上に登ってみた。何かいれば気配でも感じられるかもしれない。気をつけて登って行ったけど、途中は何も無かった。最上階の広くなった所にガラクタを詰め込んだ段ボール箱がいくつも置かれていた。ゆっくり目でなぞって見ると、その中から不思議な気配がぼんやり。なにか丸い形・・・あれ、ボール?。

 段ボール箱には、大きな三角定規の壊れたのやら地球儀の潰れたのとかいろいろ入っている。そっか、音楽室の隣の倉庫を片付けたんだ。あそこ、教室で使ういろんな道具とか仕舞ってあるんだけど、壊れたり古くなった物が溜まっていたんだね。


 弱い気配がするのは2つ目の箱の中。忘れ物か何か、箱の中は壊れた傘と破れた靴とかかが入っている。全体がキナコ餅みたい薄茶色になってる。この中に問題のボールがあるはず。ホコリがなるべく舞い散らないように、そっと掘り下げてゆくと、丸い形の物体に行き当たった。やっぱり、みんなに目撃されたのと同じ黄色いゴムのボール。でも、空気が抜けてだいぶ潰れて、ゴムはすっかり硬くなってる。これじゃ弾むどころか転がらないよ。でも、なんでここに1個だけボールがあるのだろう。


 先生に見つからないようにと、急いで「ボールだった物」を引っ張り出して、ホコリをなるべく落とさないように気をつけながら廊下の角の水道の所へ。とにかく、一度洗ってきれいにしなきゃ。このままだとあちこちホコリだらけになっちゃう。

 ササっと洗ったら、ボールには名前が書いてあった。まさし君のボールだったんだ。「君は忘れ物??」って、なんとなく呼びかけてしまった。するとボールから何か伝わってくる。ボールの意識?? 『マサシ、友達と遊ぶのに僕を学校へ持って来たんだよ。それで教室に置いてたんだ。だけど、マサシは家の都合で転校することになって、でも持って帰る物が多くて一度では運べなくて、ボクは後で取りに来るって言われたんだ。でも、マサシは来なかった。きっと引っ越しが急になって来れなかったんだ。』それで、取りに来るまでって先生が預かってて、そのまま倉庫の中に置かれていたんだ。でも、ボール君、なんで今になって放課後の校舎に出てくるようになったんだろう。

 『置き去りになってしばらく、マサシがボクを取りに来るかもしれないって思っていたよ。先生もそう思っていたのかもしれない。でもマサシは来なかった。たぶんもうマサシはボクの事は忘れているだろうね。いや、忘れていて欲しいなあ。取りに来れなかったことをいつまでも悔やんでいたら嫌だもの。』 ボール君、マサシ君が好きだったんだね。置き去りにされて恨んでないんだ。

 『ああ、ボクは子どもと遊ぶために生まれたんだ。飽きられたり嫌われるのも運命。それで壊されたり捨てられても恨んだりしゃいけない。それはわかってる。でもね、やっぱりこのまま捨てられるのは残念なんだ。できたら、もう一度、子どもたちと遊びたい。』 仕舞ってあった箱が倉庫から出されたんで、子どもたちと遊びたくて姿を見せていたんだね。


 『ねえ、キミ、なんでボクと話ができるのかかな。不思議だよね。』 そう、不思議だよね。たぶん、神様から貰った力のせい。私が精霊や妖怪が見えるのと同じたろうね。そうだとすると、このボール君はそこそこの妖怪って事?

 『ボクの力では、一日に一度少しの時間、姿を見せるのがせいいっぱい。やっぱり、実体が無いので一緒に遊べなかったんだ。』 やっぱり遊びたいんだね。私とじゃダメかな?? でも・・・ゴムが古くなってヒビ割れしてるから、空気入れたら破れてしまいそうだし・・・

 『ありがとう、ネコ。このままでいいから、運動場で思いっきり強く蹴ってよ。一度でいいから。』 そう言われても、強く蹴ったりしたら破れてしまうよ。きっと。

 『そうだね。今から元気な姿には戻れない。だから皆と一緒に弾んで転げ回って遊ぶことはできない。でもね、それは仕方ないこと。このまま居てもじきに箱ごと捨てられるんだ。それなら、元気な子に蹴られて、破れても遠くまで飛んで、それで最後になるって、それは遊び道具の使命を果たしたことになるんじゃないかな。』


 私は運動場の真ん中で、思いっきりボールを蹴った。空気の抜けたボールはボコって音がして、それでもけっこう飛んだ。やっぱり、ボールはバリバリに割れてしまっていた。それを拾って、ゴミ倉庫の中の方の壊れた物の所に運んだ。そこには傷んで捨てられたボールがいくつかあった。



 あれで残されたボールの思いは満足したのだろう。あれから階段でお化けボールを見たという話は出なくなった。それでも「階段の怪談」としてしばらくは残るんじやないかと思う。

 って、ボール君の話。ツルとタヌキにしたら、おもいっきり怒られた。ひとりで面白いことをやってた、なんで誘ってくれなかったって。

 そして、数日後。夢に繭神様が出てきて、おもいっきり怒られた。 『ネコちゃん、危ないことしちゃダメよ。古い物に憑いている念の中には良くない想いのものが多いんだから。それに悪意は無さそうでも、面倒な頼み事したり勝手に頼って来るのもいるんだから。』あはは、瓜蔓くんもそのクチだね。って、繭神様も同類でしょ。

 『とにかく、ネコちゃんは安全に長生きさせなきゃいけないって、大神様から言われてるんだから。』 うん、転生の時の約束は覚えてますよ。そうでなくても、もう二度と竜の前を走って剣を握ったりしたくないですよ。


諸事情で見直しと校正が遅れがちになっていて、

投稿が途切れがちになってしまってます。

この後もしばらく隔週ぐらいのペースになりそうです。

よろしければ、ブックマークして気長にお待ちください。

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