08-2 調達依頼 幻のフルーツをGETせよ(2)
突発クエスト「幻のフルーツ“かんろうり”を」探し出して1個を納品せよ。依頼主は謎の男の子・・・って、あの子、人間じゃないね。これって、依頼を受けたことになるのかな? 期限無し失敗ペナ無しって事でいいよね。
道中に変な出会いはあったけど、まずは商工会へ行って市内の絹糸絹や織物の生産について質問。
残念ながら、昔の町が合併して市になってからの資料しか無いって。そしてそこには絹糸や絹織物の生産高は載っていない。というか、商工会の人がここで昔養蚕がおこなわれていた事を知らなかったみたい。
次に農協へ。農協の統計は市になる前の町の区域ごとに集計されてる。あのへんは篠地区なんだ。農地の利用の欄には桑畑もあるけど、記録のあった1990年からずっとゼロ。どうやらその頃には桑畑は完全に無くなっていたみたい。それでも、資料室に昔の村の様子を書いたものがあるかもしれないので、探してコピーしておいてくれるって。アリガトウゴザイマス。
今日は水曜日で、産直朝市の日。農協の建物の隣の駐車場で野菜などが売られている。朝のうちにだいぶ売れてしまったみたいだけど、なんか伸びすぎなナスや太りすぎたようなキュウリが並んでる。どれも100円って、テキトウな値段付けだね。残念、トウモロコシは売り切れだ。
おおっ、網目模様のメロンがある。1個300円。安いのは形が歪んでいるからかな? 瓜もいろいろあるね。漬け物にする瓜は『しろうり』って言うんだ。こっちの縞模様のは『まくわうり』って、あの子が“マックァ”って言ってたのはこれだろうね。でも、やっぱりカンロウリって無いね。念のため訊いてみよう。「あのぅ、カンロ、カンロウリっての、ありせんか?」
「甘露瓜ねぇ・・・。ちょっと訊いてみるから。」ピーマンみいたなでっかいシシトウを運んで来たおばさんに訊いたら、まわりの農家の人に声をかけてくれました。「甘露ってさぁ、アジウリのことだぞ。」「味瓜なら・・・ そういえば、最近は見ないねえ。誰も作ってないのかしら。」「ああ、オレもここしばらく食ってないぞ。」
どうやら、最近はこのへんでは作られていないみたいです。おじさん、おばさんたちの話はちょっと脱線してます。
「子どもの頃は、あの甘い味がうれしかったんだけどね。」「甘さも香りも洋物のメロンにかなわないからなあ。」「こんな話してると、また食べたくなっちゃったな。」「あ、わたし、こないだ松井さんのとこで御馳走になったよ。懐かしいからって、自家用に植えてるんだって。」
なんと、自分の食べ用に植えている人がいる。それなら1個分けてもらえないかなあ。
「ちょうど食べ頃のがいくつかあるってさ。今から行くかい?」 おばさんが携帯電話で訊いてくれた。なんて親切なんだろう。で、場所はどこかな。自転車で行ける?
「松井さん家って、上篠の小学校から下の、川の近く。あんた、時間ある? それなら、今から松井さん家に連れて行ってあげるから。自転車は後ろに積んでさ。」下篠なら家と同じ方向だ。
垣谷さんっておばさんの軽トラに載せてもらって松井さんの家へ。自転車は荷台に載せて。
味瓜を作っているのは松井さんのおばあちゃん。私はアリマツネコでアダナはネコって自己紹介したら、「それじゃ、あたしもネコだね。」って。おばあちゃんの名前はタネコさんだって。
松井さんのお宅は、戸建ての家の中に埋もれたような古い大きな家。まわりの畑が宅地になって元の農家の建物だけそのまま残ったんだね。「もう農業はやってないけど、昔はちょっとは大きな農家だったんだよ。それでね、今でも自分の食べたい物とか、ちょっとづつ作ってるんだよ。」昔は農家だったけど、息子さんたちは会社勤めになって農業をしなくなって、それで家の前の少しだけ残して畑を売ってしまったんだって。お孫さんが中学生だって。
「持ってくのは1つでいいんでしょ。それなら、ひとつ、ここで切って食べようかねぇ。」緑色でコロっとした小さな瓜。切ると優しい香りがする。「あまり冷やさない方が美味しいんだよ。それから、こっちのはコガネウリ。甘さは少ないけど、シャキっと歯触りがいいんだよ。」もうひとつ、黄色い瓜を切ってくれた。“コガネウリ”って黄金瓜だろうね。メロンとか食べ慣れたフルーツと比べたら味も香りも全然少ないけど、すっきりさわやかで優しい感じ。
縁側に座ってウリを食べながら、息子さんやお孫さんの話、野菜や昔の食べ物の話とか。「昔から畑でいろいろ作ってたからねぇ。季節に合わせて次ぎは何を植えるか考えてね。それでね、やっぱり時期になればその時期の物が食べたくなるんだよね。」スーパーに行けば季節に関係なくいろいろ売ってますよね。キュウリもナスも夏ってイメージ無いです。そっか、あの謎の子、昔に食べた瓜の事が気になってるのかな?
「お金? こんなの、売り物じやないからそんなの要らないよ。自分が好きで作ってるんだからね。」って、ちょっと安心。珍しい物でお金には換えられないって、逆にいくら払えば良いか判断できないものね。「味瓜1個じゃ寂しいから、こっちの黄金瓜もひとつね。それから、この豆、今年は良く成りすぎて食べきれないから、少し持って帰ってね。」うわぁ、ちょっとじゃないよ。遠慮したら逆にナスまでいただいちゃった。
自転車に乗って、帰り道にあの水神様が祀られている所へ回り道。あの怪しい子、いるかな?
祠?の所には、あの子ともう一人、見た目高校生ぐらいの男の子。でもあの服装は・・・社会科の歴史の所に載ってたような・・・やっばり人間じゃ無いでしょ。
「あっ、ネコ姉ちゃん!」おおっ、こっちに気づいた。これで甘露瓜を渡したらクエスト完了かな。って、報酬は何かあるのか・・・ ところで、横のは誰?
「私は水神様の配下の者で、シュウガと申します。ネコ殿とお呼びしてよろしいでしょうか。」って、ネコ殿ってナニ。ネコでいいよ。馴れ馴れしいウリヅルと真逆にバカ丁寧なの。
「神様じきじきの加護持ちとお見受けいたします。とても呼び捨てになどできません。」って。でも、加護って見てわかるの? 「神の側に長く仕える者ならば、どちらの神の縁の御方かはおおよそ感じられるものです」 となると、シュウガさんって、水神様の側に長くいる・・・かなりの大者?? シュウガ殿?シュウガ様? さん呼びでいいの?なら、私もさん呼びでね。
「その神力は、異国の神様と、繭神様・・・あの祠の分御霊様は・・・」 そっか、繭神様の祠って元々はこのすぐ下の桑畑にあったんだ。「ならば、ネコさんたちの働きで、無事にお戻りになられたのですね。」ずっと気になっていたんだね。
「先日、宴の時に我らが主神様が『この時期の味覚はやはり甘露瓜がいちばん』と申されたと聞いて、こいつが御前に献じようとしたんです。」味瓜を食べたいのは、ウリヅル君じゃなくて、水神様らしい。「主神様が『瓜がいちばん』って。おいら、うれしくって。でも甘露をしばらく召し上がってないって聞いて、それならおいらが・・・って思ったんだけど。」名前がウリヅルって、そっか、瓜の蔓の精霊なんだ。
味瓜と黄金瓜をウリヅル君に渡そうとすると、シュウガさんが「やはりそれを探して持って来たのはネコさんの働き。水神様に直接献じられるのがよろしいでしょう。」って。えっ、私が神様に渡すの?
「大事なのは気持ちだからね。適当に挨拶して口上を言えばいいんだよ。」って、ウリヅル君の説明は簡単すぎ。「神様をお祀りした場所で、手を打って礼をする。そうすれば神と意識が通じます。口上は、声に出しても出さなくてもかまいません。誰が誰に献じるかなどを言葉にする、それだけです。こだわるなら本式の作法もお教えますが。」シュウガさんは丁寧です。多少違っても怒られることは無いみたい。んじゃ、とにかくやってみよう。
水神様の石の前に瓜を置いて、手をパンパンってして。口上って・・・『私は有馬恒子、通称ネコ。上篠小5年生。ウリヅル君~瓜蔓の精に頼まれて、水神様に甘露瓜を持って来ました。これは下篠の松井種子さんが育てたものです。黄色い黄金瓜も松井さんがくれた物です。えっと、美味しいので召し上がってください。』って、これでいいのかな。えっ、最後にまた礼をするんだ。接続して送信して終了する?ネットに動画載せるより簡単だけど、これで通じてるのかな?
「それで気持ちは神様に届きます。気持ちと伴に、献じた供物に伴っていた精気だけが神様に送られます。」目の前で瓜が消えるかと期待したけど、精気だけなんだ。「そこにあるのは、神的には抜けがらですが、人にとっては味も栄養も変わりませんよ。」お祀りしたあと、この瓜は持ち帰って食べて良いんだね。
「瓜をくださった松井様には何かしら吉事があるでしょう。口上にウリヅルの事も触れていただいてありがとうございます。」 あ、シュウガさんの事も言った方が良かったかな?
「この瓜作ったのって、タネコ婆ちゃんって・・・う~ん、下篠のヨシ坊?の所に嫁いだ・・・この向こうの、今は空き地になってるあのへんの農家にいた子だね。」ウリヅル君は子供の頃の松井さんを知ってるんだね。そうなると、松井さん、このあたりが桑畑だったころの事知ってるはずだよね。
ストーリーの骨子はできているのですが、なかなか推敲が進まず、
投稿の間隔が開いてしまって御迷惑おかけしています。
ブクマしたまま生暖かく見逃していただけると幸いです。