疑惑
「週直だから先行くねー!」
紗英が寝ぼけた最勝に声をかけ、出て行く。
その声で最勝は目が覚める。
.....8時か.....時間ないな......
よく開かない目で見ると、最可が寝ている。
「あぁ...ほら、最可起きろ」
欠伸をしながら最可の体を揺らす。
「...」
無言でむくりと起き上がり、寝ぼけながらもしっかり布団を畳みだす。
「ご飯冷めるわよー」
おばさんの声だ。
そろそろ行かなきゃ。
「はーーい」
ーーーー
今日の朝飯はウィンナーと海苔、卵焼き、ご飯、サラダだ。
「いただきます」
最勝と最可が食べ始める。
俺の一日はこんな感じで始まる.....だが、最近不思議なことがある。
「おいしい...」
最可が小さく呟く。
最可はポーカーフェイスだが、思ったことがすぐ口に出てしまうのだ。
「くっ...」
箸でウィンナーを取ろうとするが、油で滑ってなかなか取れない。
...あ...うぜぇ......
ボキッ!
片方の箸が親指のところで折れる。
「あ!ごめんなさい...」
「また⁉︎もう〜」
不思議なことというのがこれだ。
最近、力を入れてないのにこういうことがしばしば起きる。
だが、ある時は思い切り力を入れても箸は折れなかった。
全く意味が分からない。
「あと2本折ったらこれからは割り箸で食べてもらいますからね!」
おばさんが新しい箸を探しながら怒る。
「はい....」
ーーーー
最勝は高校に着いていた。
なんか今日宿題あったっけなぁ...
そんなことを考えながら靴箱を開けると何か紙が入っている。
ん....なんだこれ....
その紙には...
モズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ねモズク死ね
ーー隙間なく書かれた「モズク死ね」の文字。
「なんだ....これ...」
最勝は唖然としていたがあることに気付く。
...........紗英の字だ.............
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ー放課後の教室ー
最勝はキョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないことを確認する。
「なあ、紗英。これ見てくれ」
見せたのは、さっき靴箱にあった紙。
「え....何これ...」
紗英は驚きを隠せない。
それと同時に少し怒っていた。
....最勝にこんなことするなんて......!
「.......まさかとは思うけど、いや本当にまさか何だけどさ、紗英が書いたりしてない?」
恐る恐る最勝が聞く。
どっかの本で読んだのだが、人は疑いをかけられたとき、否定するか怒るかするらしい。そして怒る時は濡れ衣を着せられた時。
「はぁ⁉︎私が書くわけないじゃん‼︎」
もちろん紗英は怒る。
.....やっぱそうだよな....
「でも.....他に心当たりがねえんだよ。男に恨まれるんなら分かるけど女とはろくに関わってねえし....何より字がお前にそっくりなんだよ」
もう一度最勝は紙を見せる。
「確かに....そっくりね...」
「この紙を靴箱に入れてなかったとしてもさ....お前がいつか書いた俺の悪口の紙を誰かが持ってて.........⁉︎」
そこまで言って最勝は喋るのをやめた。
紗英の目が涙で揺れていたからだ。
手にも力が入って震えている。
「私は.....!一度もあなたのこと......もういい‼︎」
紗英が鞄を持って立ち去る。
何やってんだ俺.....紗英が犯人なわけねえだろ.....
最勝はこの手紙の犯人がもっと分からなくなり、不安が募った。
ーーーー
「もう...最勝なんか...最勝なんか.....」
紗英が目をこすりながら廊下を早足で歩いている。
「ん⁉︎おい、どうしたんだよ」
偶然通りかかった竹田が心配する。
「何でもありません....」
必死に涙を隠す。
「大丈夫だって!何でもいいから話してくれ!」
ーーーー
「.......というわけなんです」
紗英が事情を説明する。
「う〜ん....新橋は絶対にやってないんだろ?」
「はい!酷くないですか!最勝の奴」
紗英はすっかり泣き止んで今は少し怒っている。
「.....だとしたら....犯人は池ケ谷なんじゃあないか?」
「⁉︎.....何言ってるんですか.....!」
「だってお前の字体を良く知っているし」
「先生」
「何か理由があるとするなら」
「先生!!」
「別れたいからじゃないのか?」