3/8
平野奏:10年前 婚約破棄
平野奏は、幸せの絶頂だった。
半年前雪降るクリスマスイブに恋人の在原稔にプロポーズされ、今年のクリスマスには、結婚式を挙げることが決まっていた。
会社の皆にも祝福され、ただただ婚約者となった恋人と結婚式の話をしたり、結婚後の家について語ったり、幸せに暮らしていた。
だが、その大切で愛おしい婚約者から告げられたのは、残酷な現実だった。
「他に、好きな人ができたから、別れてほしい。お前と、婚約破棄する。」
「どうして?私、じゃダメだった……?」
「………っ、そうだよ、お前じゃダメなんだよ。あの子のほうが俺を愛してくれる。………俺が、悪いのは分かってる。慰謝料を請求するなら、早めにしてくれ。そして、もう、俺はお前の前には現れないから」
彼は、捲し立てるように、そう言うと、逃げるように走り去った。
その薬指に輝くシルバーリングが自棄に目に突き刺さったのだけは覚えていた。
平野奏:当時、デザイン会社に勤める。婚約者のことを本気で愛していた。突然の裏切りに、怒りよりも絶望が勝る。