在原稔:10年前 診断
在原稔は、幸せの絶頂だった。
半年前のクリスマスイブに恋人にプロポーズして、今年のクリスマスに結婚式を挙げることが決まっていた。
会社も順調で、大きなプロジェクトを無事成功させることができて、社内でも一目を置かれるようになった。
それが、6月のことだった。
雨が降り注ぐなか、2歳下の弟、寿と遊び半分で人間ドックを受けに行った。
すべての検査が終わり、後は帰るだけと言うときに、なぜか彼だけ追加の検査を受けることに為った。
それを受け終わり、待合室で待っているようにと、医者に指示される。
そして、呼ばれた診察室。
心配する弟に、「大丈夫だよ、きっと。」と言い残し、診察室に入る。
そこで、告げられたのは──
「在原稔さん。貴方の胃に、悪性腫瘍──『ガン』が見られました。だいぶん進行しており、ステージ2と見られます。さらに、膵臓と胆嚢・胆管、肺にも小さいですが、腫瘍が見られます。残念ですが、今の技術では、…………」
なにを言われてるのか、最後の方は、聞き取れなかった。
ただ、自分が『ガン』である、と言うことと、入院が必要だと言うことだけが、自棄に耳に残って離れなかった。
在原稔:当時服飾関係の会社に勤める若手サラリーマン。弟と行った人間ドックで、『病気』が発覚する。