6・諸島の知識はホウフではなかった。
こんにちは。
今回は主人公の知識を披露する回です。
ベルに酷く怒られた次の日、フランは一人で店番をしていた。
朝は忙しいので(といってもあまり人が来ない)フラン達全員、食事処で料理を作ったり、出したりするのだが、今は朝食ラッシュが終わり暇な時間なのだ。この時間にはベルとラジルは買い物にでかける。
「それにしても、いつもの"あれ"は毎回不思議だな。」
フランはカウンターで頬杖をつきながら、独り言を言う。
そう、この世界では不思議なことが起こる。それは料理に関することなのだ。
この世界の料理は同じ材料、調味料などを使っていても、味が変わってしまうことがあるのだ。別に失敗をしているわけではないけど、時には美味しく、時には物足りない味になる。この現象は世界中で起こっているらしく、誰にも解明されていない。
1日ごとに味が変化する料理に、世界中の学者がいくつかの説を出しているのだが、どれもただの仮説であって証明したものはいない。
「まっ!私は天気みたいな感じに見ているけどね。」
そういって自分を納得させて、深刻に考えることもなく、ただボォ~っと店番をしている。
バン!
フランが何も考えずアホみたいな顔をしていると、突然勢いよくドアが開き、男性が入ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
走ってきたのか、その男性は息が凄く荒かった。
「いらっしゃいませ。ご注文はなんですか?ちなみにうさぎ料理はありませんよ?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
すごい勢いで走ってきたのか、何も喋れないくらいに息遣いが荒い。
「も、もしかして!!」
フランは大袈裟に驚いたふりをする。
「そんなに発情して。17歳である私の体が目的なの?初めてだけど・・・・・いいよ。」
フランは恥じらい目を左に反らし、右手の人差し指を立て唇に持っていき、左手でほんの少しだけスカートを上げもじもじした。
「はぁ、はぁ、はぁ、ち、違っ・・・ゴホ!ゴホ!」
疲れて息が荒いのに無理矢理突っ込もうとしたので、むせてしまったようだ。
「ちなみに私はとても激しいのが好きだよ!」
「ゴホ!ゴホ!ゴホ!」
フランが変なことを言うから、男性は再びむせてしまったのであった。
ーーーーー
「はい!お水でございます。8yでなく1yですので安心して飲んでください。」
落ち着いた男性は『水をくれ!』と言ったので、少し大きめのコップに水を入れ差し出した。
「ありがとう。」
男性は少しだけ水を飲んだ。
「ふう。助かった。」
男性はコップを置き、安堵のため息をついた。
「一体何があったんだ?」
フランはなぜあんなに疲れていたのかに興味が湧き、男性に尋ねてみた。
「俺はジャッペング諸島から来た『サトウ・ハタロウ』だ。逃亡師として世界中を旅をしている。」
「ええっ!サトー・ハタローさんはジャッペング諸島の人なの!?」
フランは目を輝かせ身を乗り出した。そう、ジャッペング諸島と言えば"黄金の国"といわれている国なのだ。
ここからはフランの個人的に調査をした情報である。
ジャッペング諸島には独特な職業があり、有名なのは『チヨマゲ』、『ニンニン』、『ゲーシャ』というのが人気である。
チヨマゲは頭の上の方の髪を剃りてっぺんに太巻きを乗せ、『カタナ』という変わった剣を持っているのである。
ニンニンは全身黒い服を着ており、『ニンポー』という不思議な技を使うらしい。
ゲーシャとは女性の職業で服を脱がされて遊ぶという変な職業らしい。
その他の知識として、ジャッペング諸島では暑い日と寒い日に大きな戦があるらしい。
その戦いは『コミバ』と呼ばれ、確か、コミュニケーションバスケットの略語だ。
『コミバ夏の陣』、『コミバ冬の陣』ではたくさんのジャッペング人が集まるらしい。
ルールは、施設の中では『カイテ』『ウリテ』に分かれて戦い、まずウリテがカイテのところに行き「見せてもらってもいいですか?」と宣戦布告するのだ。その次にカイテが「どうぞ!」と言い相手の出方を伺う。
「ありがとうございます。」と言ったらウリテの勝ちで、「○部ください!」と言ったらカイテの勝ちらしい。
一方、施設の外でも激しい戦いが行なわれており、こちらでは『レイアー』と『カメラ』が戦っている。
最新の情報では、カイテにカリスマオーラを纏っており、ド派手な衣装の歌手(通称エクストラボス)が助っ人として参加してウリテをバッタバッタ倒しているらしい。ウリテの方も宝石のように美しい姉妹が助っ人として参加してカイテをバッタバッタ倒しているらしい。
ということでフランの結論からいうと、ジャッペング諸島は黄金の国で理想の国なのだが、戦が絶えない危険なところなのだ。
そして、逃亡師というのは名前の通り、モンスターから逃げる職業の事である。
モンスターに出会ったときの選択肢は『戦う』か『逃げる』である。
勝てないモンスターに出会ったときは逃げるのがとてもいい選択である。しかし、逃げる事が100%成功するわけではない。時々モンスターに捕まってしまうのだ。
つまり逃亡師というのは一切戦うことをせず、モンスターからうまく逃げられるかどうかという、命がけのスリルを味わう職業なのだ。
「いやぁ~。まさかキョッボウベアーの群に出くわすとはね。今までにないくらいに走ったよ。」
サトーは苦笑いをしながら話した。ちなみに世界にはキョッボウベアーよりも早いモンスターはたくさんいる。
「サトーさんはどうしてアディアホ村へ?」
フランは不思議に思い尋ねてみた。
「ここは自然が豊かでのんびりしているからね。まったりと過ごす場所がほしかったのさ。」
サトーさんは自慢するように言って水を飲む。
「ジャッペング諸島のエクストラボスとか、宝石のように綺麗な姉妹って凄いの?」
「ああ!大森 辛子や古屋姉妹の事だな。彼女たちはとても凄いよ!」
などという話を私はサトーさんと楽しくしていた。
「ねぇねぇ!サトーさん!!」
「ん?なんだ?」
「店がたくさん儲かる方法知らない?私、店でがっぽり稼ぎたい!!」
フランはサトーさんに寄り添って子猫みたいに甘えた。
「むう・・・。そうだな・・・。じゃあ、"まねき猫"とかどうかな?」
「まねき猫?」
「うん、猫が前足で招いているポーズをした置物なんだけど、確か、右手を挙げているのが"お金"を招いて、左手を挙げているのが"お客さん"を招くらしいよ。」
サトーさんはまねき猫の事を丁寧に説明してくれた。フランは初めて聞くまねき猫の話に夢中になった。
「へぇ~。じゃあ、両方挙げてるやつは?欲を出して両方招きたい!」
「それはただの万歳だな。確かにあるけどね。」
フランの提案にサトーさんは苦笑いをした。しかし、両手を挙げているまねき猫は実際にあるようだ。
「俺の国ではほとんどの店に置いていたからね。ここでも飾ったりするといいと思うよ。・・・・・・・・ごちそうさま。お代はここに置いとくね。」
サトーさんはまねき猫を勧めたあとに、残った水を飲み干してお代をおいて帰ろうとしていた。
「よぉ~し!野良猫を捕まえるぞ!!」
フランは大声で言い、右手をグーにして天井に掲げた。
「えっ!?本物を捕まえるの!?」
店のドアを半分くらい開けたサトーさんはフランの発言に驚き、振り返るのであった。