利用するかされるか
『犯罪者の人権について』
犯罪者は確かに人間である。だが、罪を犯した人間は、果たして人権というものを有する資格があるだろうか。我々は甚だ疑問である。
しかし、無下に扱うことも許されることではない。いくら犯罪を犯しているとしてもそれは人間の作ったルールであり、自然の節理には反していない可能性もあり、人間として生を受けている以上は人間として暮らすというある種の責任も有しているからだ。
では、どのような手段をもって罪を償わせるのか。ある一定期間拘禁し、労働させるのも悪い方法ではない。歴史からもそれは明らかであろう。しかし、費用面を考えると効率的とは言えない上に、絶対に再犯をしないとは言いきれないものであることも明白である。よって、我々としては安全な法治国家のために、この方法を改めなくてはならないのだ。
我が国は少子高齢化、巨額の財政赤字、技術力の低下、赤字のために研究予算は減らされるなどの様々な問題を抱えている。そこから有効的に、彼らの罪を償わせ、そして再犯率の低いようにするというのならば、我々の答えは最善手の一つであるといえよう。
それは、犯罪者を人体実験に使用してしまうという方法である。罪の重さによってそこの具合は決めていけば良いのだろう。そして、人体実験というと聞こえは悪いが、医療目的である。臨床に持って行く前の複雑な手続きを抜きにして行えるメリットは大きい。死刑も廃止した方が良いだろう。若ければ、技術を学ばせて、開発に、歳を取っていれば、刑務所内の雑用であろう。臨床の重い実験を加えてもよいだろう。
さすれば、刑務所内部の治安を心配する声も上がるだろうが、対策を講じる必要がある。我々は電気が人間の脳に与える影響を研究したこともある。そこからある一つのものを開発している。それは脳波の測定を行い、そこから、怒りにおいて生じる興奮というものを感知して際に身体に装着したなんらかの器具からスタンガンのような衝撃を与え沈静化を図るといったシステムを持つ言わば安全装置のようなものと考えても良いだろう。
それの形状として、我々は首輪を想定している。屈辱という面から考えても精神面での抑制効果は極めて大きいだろう。
また、上記のことは成年しているものの場合である。未成年者においては別個の対応が必要だろう。
教育に対する実験に協力するのが、もっとも適切であると我々は考えている。無論、臨床も行なって構わない。さらに、回復といった最新面の実験も彼らで行うべきであろう。勉学を強制的にさせることで、学力、思考力の飛躍的な向上も図るべきである。また、倫理の授業をしっかりとやるべきではなかろうか。道徳という授業をするよりも、過去の偉人たちの思想に学ぶ方が余程、倫理とは何かをつかむことができる筈である。
その段階で脳に対する教育の与える影響などを調べれば、更生される上に、社会的に非常に有益な人材が完成するだろう。
我々は以上の考えを持って犯罪というものに向き合うことを考えている。例え現在愚かに見えていても、未来では愚策ではなくなっていることだろう。
全てを読み終えた時、加藤の表情は驚愕に満ちていた。勝樹はというと、こんなの許せないと息巻いている。
「こんなことを教授達は考えていたのか」
「少なくともこの文章から判断するとそうなるよね」
紀基は淡々と言う。
「でも、こんなこと本当にできるのかな?」
朱莉はとても不安そうな声色だ。そして、それに加藤も同意する。
「確かに。こんなの人権団体とか国民の反発が大きいんじゃないのか?」
紀基は甘いと言わんばかりに肩を落とした。
「一つ、そもそもこれは革命だ。何が起きても不思議じゃない。
二つ、意外と人間は自分たちより弱い立場の者を知らず知らずのうちに卑下する傾向がある。ナチズムとかがその典型例。
三つ、勝樹くんの父上は知らないが、教授は恐ろしく弁がたつ。
四つ、この計画が破綻していない。少なくとも論理的にはね。
だから、僕は十中八九これが実行されると踏んでる。あとはそれが運用されたりとこの国のシステムが変わった時にどのような対応をして自分の研究を促進させるかが、僕ら研究者のなすべきことだと思うけどね。つまり、利用しろってことさ。全てをね」
「利用しろ…か。間違ってはいない。間違ってはいないけど。でも、俺はそんなことしていいのだろうか? 研究者云々の前に人間として」
「そんなもん、ダメに決まってるだろう!!」
勝樹は少し興奮している様子だ。対極にいるのは紀基。周囲では、加藤は迷い、朱莉は俯いている。
「ダメ……だよな。ダメだ。頭ではわかってるんだ。でも、那月のこと考えると俺は人間を捨ててもいいのかもしれない」
その時だった。パシィン!という乾いた音が響いた。加藤の視界は一瞬歪んだ。何が起きているかわからなかった。加藤は目線を戻すとそこには目尻に涙を溜めた朱莉の姿があった。
「あなたの守りたい人は那月ちゃんだけだったの!? 研究のために人間やめる? ふざけたこと言わないで!
そんな風に都合のいいように考えちゃダメなの。認めたとしても冷静に考えた上でないとダメなの。
そうじゃないと、きっと君は目的を失ってしまうよ。私怖いよ。君が君で亡くなっていくような姿を見ることが」
朱莉の必死さが伝わってくる。それでも悪魔の誘惑は重くのしかかる。
「そんなに決められないのならさ、一度会ってみればいいんだよ。元々そうするつもりだったんでしょ?
教授達は報道を見る限りでは官邸にいるようだ。会いにいくのならヘリコプターがいいだろうね。さて、どうする? 僕が協力してあげてもいいけど」
紀基の誘惑。正に悪魔の囁きそのものであろう。しかし、当の本人達はそれに気がつくことすらない。紀基だって利用する可能性があることにすら気がつ余地などない。
徐に、加藤は立ち上がった。そして、目を一旦閉じ、息をゆっくりと吐くと、カッと見開いた。
「行こう。教授と勝樹の親父に会いに」
ーー加藤の覚悟そのものであった。
今日更新する気はありませんでしたが、色々とありまして、更新します。
残念ながら四月以降も一月に一回の更新となります。
ついでに言うと、それすら崩れる可能性は大いにあります。
追加で言うとストックは六話ほどですから、まーなんとかなるっしょといういい加減な方針で進めておりますからどうか不安になられぬようにお願いします。
できら限りは頑張ります。自分の今後が壊れない程度に。




