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幼児退行  作者: 藤原
真実の昔
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何もなければいい

「これからどうするか考えよう」


「それしかないか……」


 加藤はとても悔しそうな表情を浮かべている。兄として悔しくない方がおかしいだろう。妹を救うチャンスが離れていくようなものなのだから。朱莉も唇を噛み締めていた。

 三人は真夜中の病室で項垂れていたのだ。

 ……そしてそのまま意識は遠のき、気が付いたら朝だった。そして、一番最初に目覚めたのは加藤だった。


「おい朱莉、勝樹、起きろ。朝だ」


「もうふぉしらけ〜」


 勝樹の甘えた口の回っていない言葉が加藤の耳に入ってくる。そのような言葉できることなら男ではなく、女の子から聞きたい。そんな願望を加藤が抱いていた為か、そんなものも御構い無しで加藤はさっさと起きろと、軽くチョップを勝樹にかました。

 もちろん朱莉は優しく起こした。


「朝だな」


「そうだな」


「ご飯どうするの?」


「俺の家で食べるか?」


「親とか大丈夫なのか?」


「問題ないね。俺の親今少し海外行ってていないから」


「よし、なら勝樹の家に行こう。朱莉もそれでいい?」


「いいよ」


 三人の淡々とした寝起きの短い会話が静かな病室の壁に反射している。この病室は特別なものでかなり防音性も強い。そのせいで普通の建物と比べ尚一層反響しやすくなっていた。


 病院の廊下を歩く三人。そこに会話はない。

 加藤は時計を見た。時間は午前6時。思ったより早かった。それ以外は考えることなく歩き、やがて駐車場に着くと、加藤たちは車に乗り込み、勝樹の家に向かった。


「勝樹くんのご両親って、何をされてる人なの?」


 朱莉が聞いた。二人揃って海外に行ったというのが気になったらしい。


「親父もお袋もジャーナリストだよ。今ちょっと政情が不安定なところに行ってる。二人とも海外が重なることは少ないだけどな。多分これが最後だろうなって思うけどな。もう年だし」


「そうだったんだ。すごいね二人ともジャーナリストなんね」


「思っているよりもいいもんじゃないぞ」


 勝樹は吐き捨てるように言った。加藤はそれを見て思い出していた。勝樹が昔言ったことを。


『なあ翔也。僕のお父さんとお母さん。そんなに悪いことしてるのかな?何でいろんな人にいろんなこと伝えるのが悪いことなのかな?』


 幼き日の勝樹の嘆きの目だった。勝樹は寂しかった。忙しい両親が構ってくれないから。一番構って欲しい時にそばにいてくれなかった両親。そして、時々遊んでくれる時は優しくて大きい部屋かだと思った大好きな両親の書いた記事が世間にバッシングを受ける。それを知った幼い日の勝樹はどれだけのショックを受けたのか。

 当時の加藤には勝樹が何を言っているのか理解できなかった。理解できたのは寂しそうな奴ということだけだった。

 だが、今は勝樹の言葉の意味が理解できる。加藤がやりきれない思いになったのも無理はない。


「……勝樹、お前は今は…いや、なんでもない」


「いや、今はもうなんとも思っちゃいねえよ。俺だって、なんだかんだで社会人だし、親父とお袋が世間から叩かれていた理由もわかったしな。ま、それだけいろんな人がいるってことで納得はしてる。とりあえず命さえあればいい。

 それに、もしかしら俺だって、お前らだって記者に尻を追っかけられる日が来るかもしれないからな」


「ご立派なご忠告をどうも」


 加藤は肩をあげた。


「さて、そんな雑談はやめとくとしてそろそろ着くぞ」


「久しぶりだな。俺が勝樹の家に上がるのは」


「いつ以来だっけ?もう二三年経つんじゃないか?」


「もうそんなに経つのか」


 加藤は遠い目をした。その目は過去を見ている。思い出を頭の中に張り巡らせているのだ。そして、時の流れは速いと実感していた。

 勝樹もそれは感じていたことだ。だが、それは誰にも止めることのできない理だ。


「お前の部屋相変わらずなのか?」


 加藤は気を紛らわすために少し話の方向性を変えようとした。


「いんや、全く変わってないぞ」


 勝樹は平然と答えた。そして、加藤は勝樹の回答に笑った。


「そんなんだからいつまでたっても彼女できないし結婚もできないんだよ」


 勝樹は少し落ちこんでしまった。自覚はあるようだ。しかし、加藤も甘くはない。こんなやり取りはもう幾度となく繰り返し、その度にこんな反応をしている。つまり、勝樹はその一瞬しか考えていない。それは改めて彼女をまじめに作り口説き落とそうなどとは毛頭思っていないことを示しているに等しい。


「お邪魔しまーす」


「うん、懐かしいな」


 朱里と加藤の反応は異なっていた。朱里は興味津々で、加藤は懐かしさを実感しているようだった。


「そりゃなんも変わることないよ。変わったのは家電とかぐらいだろ。で、何食べるんだ?結構いろんなものあるけど」


「私に作らせて!」


 朱里が名乗りを上げた。少し胸を張っている。相当に自信があるのだろう。加藤はそれを見て、勝樹に耳打ちした。


「朱里の作る料理は絶品だ。腰抜かすかもしれないぞ」


 ニヤりとしている。加藤は嬉しいのだ。結婚したてで奥さんの手料理を食べられることに。愛する家族である朱里に。


あけましておめでとうございます。本年度も変わらぬお付き合いをよろしくお願いします。


さて、2019年度最初の更新となるはずです。因みにこれを書いているのは2018年9月某日です。すみません。頑張っていけるところまでは予約投稿でしようかなと考えてこのようなことになっているのですが……

この時に僕は恐らく死にかけている事でしょう(成績不振により)。

ともかく、まだまだ続きます!

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