結婚式
「とりあえず婚約おめでとうと言っておこうかな」
「親友の婚約なんだからもうちょっと素直に祝ってくれよ」
「お前もズケズケと物事を言うようになったな…。俺は辛い」
勝樹が辛いと言うのは無理もない。勝樹は、女癖も派手だったが一人に定めることも少ない。更に、浮気ぐせまでまあるためにモテるのにすぐに離れてしまう。そのため本気で結婚しようという女性はいなかった。自身もそれを憂いてはいるのだが、中々今までの習慣を変えるのは難しいらしく、踏みとどまっていたのだ。
「自己責任だろう?ま、頑張れよ」
そんな勝樹を加藤は、少し生暖かい目で見た。勝樹はそれを見て、翔也のくせに、と地団駄を踏んでいた。
「それから、これ。結婚式の招待状な。こんなこと頼むのどうかとも思うんだけどさ、挨拶頼みたいんだ。ダメかな?」
「ダメじゃないさ。幼馴染の一世一代の晴れ舞台の挨拶。この四季ヶ浦勝樹喜んで引き受けよう」
断られるか、少し悩むかもしれないと思っていた加藤からすれば驚きだった。
「ありがとう」
この一言が全てを表していた。その言葉だけで充分だった。
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結婚式当日は雲ひとつない快晴の空だった。結婚式を挙げるのなら梅雨時と言うこともあるが、二人は六月ではなく、翌月の七月だった。
七月は英語でJuly。これは、ローマの政治家ユリウス・カエサルにちなんでいる。彼の英語表記はJulius Caesarであり、そこからであった。そして、カエサルは加藤と朱莉の好きな歴史上の偉人だったのだ。そんな月に式を挙げられるのは二人にとっては本望であったに違いない。さらに、加藤が朱莉に送った婚約指輪の宝石はルビー。そして、七月の誕生石はルビーだ。それは加藤も予期したことではないが、そんなことも運命だったのかもしれないとそれを知った加藤は感じていた。
「遂にきたのね」
「緊張するな」
お互い硬く手を握り合っている。二人は神前式での挙式だった。そして、その二人は、今この瞬間に儀式の会場たる場所に入ろうと、扉の前にいた。その目の前にある何の変哲も無い扉は二人にはこう見えていた。
重く、硬く、なによりも強く、絆の証になる扉であると。
ドアが開かれた。
そのまま二人は会場に入った。はいり、儀式を厳かに行った。行ったらあとは披露宴だ。そこでは勝樹のスピーチがある。どんなことを言うのだろうと加藤は内心楽しみだった。もちろん顔には出していない。だがこれだけは確信をしていた。加藤のしている予想の斜め上のことをするだろうということだ。
「それでは、私、四季ヶ浦勝樹がお祝いの挨拶をさせていただきます。
…最初に結婚おめでとう。我が親友よ。そして、最高の仲間よ。心から祝福しよう。この幸せが永遠に続くことを願い、安寧を願おう。
さて、私と加藤君とは幼馴染であります。彼とは長い付き合い、かれこれ20年以上、もう30年近いですね。それをもってしても彼の人間性を把握することはできておりません。理由は単純です。突拍子もない行動をとるから読めないのです」
『それをお前が言うな』
そこにいた友人達が一斉に笑った。加藤も笑っている。
「それはお前の方だぞ」
思わず加藤は呟いた。だが、その呟きを勝樹の耳は捉えていた。
「そこにいる、新郎も笑っておりますが事実であります。そして、そんな行動をとる彼と研究や遊び含め様々なことをしてきましたが、彼といると楽しい。楽しくてずっと一緒にいたい。友であり続けたい。そう思える人であると、私は思っています。
加藤君は私よりも先に結婚すると言う愚行をしています。小学校の時でしょうか…僕はこう言いました。
大きくなったら一緒に綺麗なお嫁さんと一緒に結婚式をしようぜと。私は覚えています。残念ながら私は相手を見つけることはできませんでしたが、加藤君はその夢が叶ったようです。加藤君は今まで生きてきた道は決して楽なものではなかったはずです。困難な道はまだ続くでしょう。ですが、幸せに生きて欲しい。そして、自分一人で抱え込まないようにしてほしい。笑顔でいて欲しい。明るくいて欲しい。
今なら……今からなら、それができるはずです。
改めて翔也、結婚おめでとう!!
これを私の挨拶とさせていただきます」
勝樹は原稿を懐にしまうと頭を下げた。会場からは笑い声とともに、拍手がなった。
加藤は馬鹿と言いながらもその顔は笑っていた。穏やかだった。とても穏やかだった。幸せに満ち溢れていたようであった。加藤の心の中は今不幸に事など微塵も存在していないと思わせるほどのものだった。
隣にいる新婦である、朱莉も嬉しそうである。勝樹はなによりもその表情を見て己もほっこりのした感情に包まれた。己の内部から体温が上昇していき胸から全身に波打つように鼓動と同じ時に体温が伝わっていく。幸せとはこのことかと勝樹に強く感じさせる感覚である。
その後も結婚式自体は淡々と進んでいった。そして、二次会も終わった時に勝樹は誘われた。
「勝樹、一緒に行かないか?」
「行かないかってあそこにか?」
「そうだ。朱莉と一緒に報告しに行こうと思うんだ。それにその後で伝えたいこともある」
そう言った加藤の眼差しは真剣そのものだった。隣にいた朱莉を見ても同様だった。
ーーこれは何かある。
そう瞬間的に判断した勝樹は言葉を返すことはせず、首を縦に軽く振った。意味はもちろん肯定だ。
三人はタクシーで那月のいる病院に向かった。本来は入ることはできない時間帯だったが、加藤も勝樹も朱莉もこの病院の関係者であることを知っていたためか警備員も看護師も特別に許可してくれた。
三人は無言で足早に那月の病室に向かった。
那月が事件に巻き込まれてから既に10年は経過していた。当時中学生だった那月も年齢だけで言えば、20代半ばだった。そのため、身体は痩せ細っていたが、確かに成長していた。
そんな那月に加藤は語りかけた。その光景を見ていた勝樹は、昔加藤が、那月と遊んでいた時に見せていた優しい兄としての加藤の姿を思い出していた。
「那月、俺結婚したんだよ。那月に自慢してやりたいんだよ。あれだけ散々に言われていた俺がこんなに綺麗な人と結婚できたんだ。少しは兄ちゃんのこと、褒めてくれたっていいじゃないか。だから、さ早く目さませよ。俺たちも頑張るからさ」
もちろん返事ない。だが、加藤には聞こえていた。那月の声が。加藤は空耳ということは分かっている。それが自分の妄想ということも十分に理解していた。それでも悲観的ではない。ここにくれば、那月と会話できている。そう実感することができたからだ。
「那月ちゃん。目が覚めたら一緒一杯いろんな事話せたらいいね」
朱莉は短いがそこに全ての気持ちが込められていた。
勝樹は何も言わなかった。今はこの二人で十分だと感じたからだ。この二人が結婚の報告に来ているのに、自分は立ち入るべきではないと、考えていたのだ。
「それで加藤。話したいことってなんだ?俺を連れて来たからには何かあるんだろう?」
「勿論だ」
加藤は勝樹の方を向いた。朱莉も向いていた。それまでたっていた三人は、病室においてある椅子に腰かけた。この三人かなりの頻度で来るために、自分たちの椅子を持って来て置いていたのだ。そのためパイプ椅子ではなくオフィスチェアのようなものだった。
「早速だが本題に入る。俺と朱莉で色んなことにしていたんだがな、一つ道筋が見つかったかもしれない」
「それって!!」
勝樹が驚くのも無理はなかった。今まで何年も考え続けて失敗し続けて来たからだ。
お久しぶりです。11月です。考えると6月から数話しか進んでいません。怠惰な私をお許しください。……嘆こうと時間は生まれません。今しばらくお待ちください。エタることは絶対にしません。僕の信念というやつです。
そしてやっとです。やっと過去編の中核まで来たかなという感じですね。ですが、まだまだ続きます。一応これ、加藤が和人たちに向かって話していることを恐らく加藤は頭の中に思い浮かべているはずですが、それを三人称視点で書いているものとなります。




