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幼児退行  作者: 藤原
真実の昔
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覚醒

「うっうん?こ、ここは?」


 少年は、風が穏やかに吹いた日に意識を覚醒させた。その際、側には友人である、勝樹だった。


「おい!大丈夫か!!記憶は!?死んでないよな!」


「耳元で叫ぶなよ…」


 余りに弱々しい声に勝樹は絶句した。そこで本当に少年が死にかけたことを悟ったようでもあったのと同時に、勝樹は少年に那月の事を話すべきか、今は話さないべきか悩んだ。


「なあ…」


 その言葉は言う事なく、少年が遮った。


「…那月は?」


 勝樹はおもわず目をそらした。反射的にそうしてしまった。考えるより先に体が反応してしまったのだ。勝樹も現実をまだ直視できずにいたのだ。だが、ここで真実を話さなければもう立ち直ることはできなくなると感じた勝樹は意を決して真実を語ることにした。


「那月ちゃんは、那月ちゃんはな、まだ意識は戻っていない。戻るかどうかも分からない。

 …血を流しすぎたらしい。脳にもダメージがいっていて、もしかしたらもう意識は…」


 そこから先は意を決したはずの勝樹にも続けることはできなかった。


「そうか…」


 少年は勝樹がぞっとするほどに冷静だった。妹である那月のことを何よりも大切にしていた者の反応ではなかった。

 勝樹は、おそらくまだ現実を直視することができていないのだろうと考えていた。そうでなければ説明することはできないからだ。


「ありがとう。今日はもう寝る」

 

 少年はそう言うとさっさと折角意識を覚醒させた体をまた眠りにつかせようとした。

 が、それは少年が横になった直後に入ってきた医者によって妨害された。


「さて、意識が戻ったと聞いたんだけど少し検査したいからいいかな?」


「…はい」


 少年は医者にそんなこと言われたらイエスとしか答えようがないと思っていた。思っていたのもそうだが実際にそうなのだから余計にタチが悪い。


 その後、数時間に渡って精密検査を受けた少年は、疲れ切った表情で自らの病室に戻った。少年は気が気でなかった。まだ那月を見ていないからだ。勝樹が言ったことはあまりにも残酷だ。少年が信じられるはずもない。


 少年は疲れ切っているのにもかかわらず那月の病室を聞き出して、向かった。


「な、那月…俺を悲しませないでくれ。

 那月、那月ーー!!!」


 少年は病室に入って全身にチューブを通されて所謂生命維持装置によって辛うじて生きながらえている状態であった。顔は綺麗だ。だが、顔色は死人のように白い。

 少年は、その姿を見ると泣き崩れた。ー現実であって欲しくないと信じてやまなかったことが、自分の中で現実と化したのだ。逃避しようと思ってもできない程にくっきりとそれは指し示した。少年は絶叫し泣き崩れたが近くにいるはずの看護師や医者が病室に入ってきてその行為を止めることはしなかった。


 少年は、退院するまでほぼずっと那月の病室にいた。意識が戻ると信じていた。しかし、容態は安定しているものの意識が戻ることはなかった。


「那月ちゃんはまだ戻らないのか」


「医者には絶望的かもしれないと言われた。けど俺は信じてる。人間の…那月の可能性を。力を。そして俺自身が治す…いや、意識を戻す方法を見つけ出してやる」


 少年の目は本気だった。


「医学部にのみ許される行為だな。ならば、俺はその手伝いでもしようかね」


 勝樹は立ち上がった。そのまま隣にいた少年の肩を両手でガシッと掴んだ。


「どうした?」


「…絶対に戻るさ」


「そうだな」


 短い会話だった。その中に込められているものは熱い。二人は決意している。信じている。

 自分たち自身の可能性を。人間の生命力の可能性を。

 那月の強さを。那月が意識を覚醒させる事を。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「加藤くん。妹さんのことはわかるけど、最近詰めすぎだよ。体を壊さないようにね。それから君は学生なんだからそこも忘れないように」


「先生に言われなくても分かってますよ」


 言葉を少年こと若き日、医大生の頃の加藤翔也は答えた。

 加藤はこの日も研究室にこもっていた。

 加藤は退院してからというもの鬼気迫ったように研究や、勉強に没頭した。それこそ自分の全てを捨てたような勢いであった。その様子を見かねた加藤の所属する研究室の教授が心配して言ったのだ。


 そして、教授がいなくなって数分後加藤のズポンのポケットから音楽が鳴った。と同時に振動も加藤は感じた。そう、加藤の持つ携帯電話だ。相手は勝樹だった。


「全く頑張ってるみたいじゃないか。どうだ、今日か明日飯でも食わないか?」


「いいよ。丁度キリがいいし今日にしよう」


「さすが話のわかる友よ。俺は嬉しいね。こんな幼馴染を持ててさ。

 …で、頼んでいたことどうだ?」


「それも含めて話そう。データを持っていく。こんな連絡よこしたと言うことは何かあったんだろう?」


「ご名答」


「それなら今日楽しみだな。場所にいつもの所で頼む」


「了解」


 電話はそれで終わった。


 加藤は研究室に置いてある物を片付けると椅子にかけてある上着を着て研究室を出た。

 そのや足で向かったのは行きつけにしている大学からも近いファミレスだだた。丁度那月や加藤の襲撃された交差点の目の前にあった。


 加藤が店に入ると勝樹はすでに席に座っていた。


「全く遅いな。いつまで俺を待たせる気だよ」


「はは…悪いな。でも、どうせまたこの時間になる事を読んで少し早い時間に来たんだろう?そっちの方がよっぽど性格悪いぞ」


「おー、俺の性格よくわかってんじゃん。さすがだな」


 さすがの加藤もその言葉には失笑するしかなかった。

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