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幼児退行  作者: 藤原
結の序章
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苦悩と集合

「…ここからは完全に田中和人という一人の人間の邪推です。だから間違っていても不満や愚痴をこちらに向けないたいうのならば、俺は自分の推察を話します」


 加藤所長は「分かりました」と答えたので和人は話をゆっくりと息を吸ってから始めた。


「貴方は、何か大切なことがあってこんなことをしているのではないですか?何か守りたいものがある、もしくはそれをしなければ宝が失われる」


 その言葉に加藤所長の眉が一瞬動いた。しかし反応はそれだけだった。


「答えて下さるんですよね?」


「……」


「沈黙は肯定と捉えますよ?教えてください。なぜ、そこまでこの研究に執着するのかを」


 そこまで言うと、観念したように加藤所長はポツリポツリと語り出した。

 自身の重い過去について。

 加藤所長ですら、二度として思い出したくない壮絶なる過去を。しかし、現在までの行動の原理となっと過去を。

 三人も、全てを聞く全身全霊で聞く。それを聞いて今後のことを話し合う。そう決めた。

 この場にいないのは二人。和人は美香に頼み二人に…稲村と田村に連絡を取ってもらい、来るように言った。

 そのまでに話は始まってしまっている。しかし、ここまで一緒にやってきた仲間として、仲間全員で一番倒さなくてはならないと考えていた人物の過去を、全員があれだけ詮索し、たどり着けなかった過去を本人の口から語るという。その事象を見逃すわけにはいなかった。


「…今日は風が強い日です。あの日もそうでした。

 あの忌々しい私に取っては生涯忘れることはできない出来事がありました。あの出来事さえなければ私はこんなことはしていない。いや、するはずもなかった。ただの一人の大学に所属する医学の研究者としての人生を歩んでいたはずです」


 そう切り出した。

 いつもと変わらないように話していたが、どこか趣も硬く普段の加藤所長とはどこか違った。


 ーとその時、扉がバン!と大きな音を立てて開いた。

 扉が開いたその先には、つい先ほど美香が呼んだあの二人がいた。

 二人は相当に急いだのか、肩で荒い息をしていた。


「間に合ったのかな?」


 と呟いた田村の額には、汗がほんのりと浮かんでいた。普段あまり運動しないのがたたったのか、そもそもの代謝がいいのかはわからない。そしてそれに呼応するように稲村も言った。


「いや、間に合っていないだろう」


 痛烈な一言と言い表せる言葉だ。勿論、稲村にもあわよくば…という気持ちはあった。が、それを強く望む程によくは強くないし周りを否定することもない。


 そんな痛烈な一言を発した稲村は、加藤所長の方に歩み出した。


「私たちにも聞かせて貰えますよね?」


「ここにいるのは全員が協力者です。私が話すと言ってその仲間が聞きたいと言っているのに私に断る権利はない」


「感謝します」


 稲村は頭を丁寧に下げた。なぜ、ここまで丁寧にするのかは、義孝には理解することはできなかったが、和人は少しだけではあったものの理解することができていた。


「さて、話を続けましょう。

 私は昔は遊ぶことが大好きでした。いろんなものを見て、それについて考えることが好き。そんな少し変わっているかもしれないけれど、本当に一日中外を駆け巡っていた。私の地元が田舎だからこそできた所業でもあります。

 今となってはできないですね。とてもじゃないですが、体力がもちませんよ」


 加藤所長は笑った。昔の楽しかった少年と日の思い出を振り返って、頭に浮かんだその自然豊かな山や、木々に囲まれて生活していたあの頃に戻れたらいいという叶わぬ希望に対する望みを失った、乾いた瞳でもあった。


 これは二度として戻らないことを誰にでも悟らせていた乾いた笑いだった。


少々短いです。ごめんなさいと先に謝っておきます。

さて、物語も佳境に入ってきております。

次回からは遂に加藤所長の過去編に入ります。それが終わると、最終章です。

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