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幼児退行  作者: 藤原
結の序章
71/104

分離

「俺は、裕福な家に生まれた。自分で言うのもなんだけど政財界にかなり強い影響力のある一族だと俺は認識している。

 俺は何も不自由することなく育った。だが、ひとつだけ満たされていなかった。それは、親から認めてもらいたい。でも、親とは全くと言っていいほどに話すこともない。

 俺の心は幼少期から歪んでいった。俺は成績は良かった。全国模試でも一桁を取ったことがある位だからこれは自信をもって言える。

 でも、成長するごとに素行は悪くなっていった。周りに多くの迷惑をかけるようになっていた。だが、それは成績の良さで黙らせていた。

 そんな生活を続けていたけど、ある時を境にして、事態は急変した。そう車を猛スピードで運転していた。さらに、酒も飲んでいた。免許は持っていたが未成年だった。にもかかわらず酒を飲んでいたんだ。…そして、事故は、いや事件は起きた。俺はその時、何かを引いた記憶はあった。だけど、怖くなった。怖くなって逃げた。

 葬式にも出席した。怖さ故に自分を肯定するような傲慢な態度をとった。葬式に出席してからというもの…いや、轢き殺してから俺はその時の光景がフラッシュバックして被害者に呪われる情景を脳裏に思い浮かべてしまうようきなっていった。これは、エスカレートしていって日常生活にすら支障をきたすようになっていった。

 俺は、父親に頼んだ。楽にしてくれと。そして、しばらくした頃に、寝ている間に全く別の場所に移されていたらしく目が覚めたら赤ん坊の状態さ。全くあの時は驚いたよ。なにが起こっているのか全くわからなかったからね」


「…あいつに対して今どう思ってる?」


 和人の、聴くと背筋が凍りそうになるほどの、冷たく感情がなにもこもっていない声が署長室に響いた。


「そ、それは…」


「答えられないのか?」


「俺は、俺は…そのえっとあのいや、あ、あ、あぁ…」


 それしか口にしていない義孝は、震えていた。身体が全身細かく痙攣していた。痙攣してさらに、過呼吸に陥っていた。しかし、そんな状態でも和人は止めなかった。


「それは、俺たちの大切な人間を殺したことを、自身の手で殺めたことを、何も感じていないと認識して構わないんだな」


「はぁはぁ…あぁい…い、やち…がう」


「どう違うんだ!!!」


 和人は、義孝に近づくと、胸ぐらを掴む動作を始めた。そのゆっくりとした動作を見ると、加藤所長は動いた。


「これ以上はいけない」


 これだけ言うとゆっくりと丁寧に和人の手を義孝の胸元から離させた。


「これ以上するということは君も人を傷つけるということだ。恨みにあかせて」


「…俺だって龍成が死んでショックで暴れた。だからここにいる。

 …身勝手かもしれないけど俺はもう人を傷つける行為はしたくない。今はそう思ってる。いや、そう思えるようになったんだ。

 それについては加藤所長、貴方に感謝しています」


「それは光栄なことですね。ですが、今は攻撃しようとした。まだまだ、感情の制御が下手ですね」


 加藤所長は和かだった。義孝は胸元から手を離されると、床にドサッと座り込んだ。


「俺は何で気がつかなったんだ…何故?」


 その誰に向けたものでない言葉に加藤所長は答えた。


「君が愚かで反省していなかった。それだけです。それも知らずに私を断罪しようとは…まずは自分の事を片付けてから来なさい。さあどうしますか?」


「虫のいい話なのかもしれない。けどもう一度やり直せるのなら俺とお前と。みんなと。

 …すまなかった。本当に申し訳ない」


「それは、単なる甘えだ。…でも、これは自分自信で償わなければならない罪なんだ。俺が、俺たちが何かできる代物でもない。だから、許すことはない。けど仲間として今までして来たことも消えない。だから信頼はしている」


「懸命な判断ですね。君ならもう少し違う結論を出すかもしれなと思っていましたが、どうやら私の予想は外れたようだ。しかし、そうやって腹を割ったとしても私を打ち砕くことは君たちにはできないはずです」


「貴方にも過去はあるのでしょう?」


 和人は静かに投げかけた。

 加藤所長は微かに口角を上げた。和人にその真意は分からない。


「言ったでしょう。私はとうの昔に人間としての倫理観…感情を捨ててしまったと」


「…捨ててしまったのなら、人を平気で傷つけるんですか?体に傷は残らなくても、心に傷をつけることは許されるんですか?それとも所長だから許されるんですか?

 …私のトラウマを解消できるんですか?できるなら言ってください。どんな方法があるかを」


 美香は怒っていた。当然と言えよう。自身が加藤所長の作り出したものによって心に傷を植え付けられた。消えることのない傷を。それは、美香にとっては辛い経験であり、今すぐにでも消し去って闇に葬り去りたい記憶だった。

 即ち、封印したい記憶だったのだ。しかし、人間の記憶は美香や和人たちの知るところでは現状、改竄したり、消去する方法は地球上には存在していなかった。もっとも、加藤所長は生み出していふのかもしれないが。


「その件については謝罪します。しかし、感謝もしています。お陰で貴重なデータを集めることができましたからね。これだけは、外部の人間には知られてはいけないことですし、何よりもこのような非人道的な人体実験が国にも認可されるわけがありません。

 たとえ国の関与している巨大プロジェクトであったとしてもね。

 だからこそこの施設を作った。先程述べたような実験を行う為に。犯罪を犯した者…身寄りのない者や、金銭で解決したこともあります。もう誰からみても私は極悪人です。が、それでもやめるわけにはいかない。

 その理由が君たちにわかりますか?」


「分かりたくはありません。ですが、それが貴方の求める答えなんですよね?」


「その通りです。これが分かればたいしたものです。素晴らしい洞察力、推理力をお持ちだと敬意を表しますね」


 加藤所長はかかってこいと言わんばかりに両腕を広げた。同時に窓からは太陽の光が差し込み、加藤所長を光らせていた。それがより大物感を出していた。

 これが壁なのか、これが力ある者の貫禄なのか、オーラなのか、と和人も義孝も、もちろん美香も感じていた。その全てに畏怖して身体が怖気付こうとしている。しかし、三人もここで諦めるわけにはいかなかった。ここで諦めたら全てが台無しになる。そう思ったから。

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