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幼児退行  作者: 藤原
結の序章
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解答

「なぜ、なぜこんなことをするんですか?なぜそこまでして俺たちを…いや、人間を使った実験をするんですか?」


「………」


 加藤所長は、窓を見つめていた。窓枠に手を置いていた。窓は開いており、時折、朝の冷たい風がなんの予告も無く部屋の中に吹き込んでくる。同時に風によって、加藤所長の髪も靡いていた。そこにあったのはいつもいる巨大な姿ではない別の何かだった。窓に微かに映る加藤所長は、眼光も鋭く殺気と言われるものを濃厚に放っていた。それは、少し離れていた二人にも、その様子を和人のポケットに仕込まれていたカメラから見ていた、美香ですら恐怖を感じる程だった。

 加藤所長はその鋭い眼光も、殺気も納めることはなかった。寧ろ、強くしながら喉を振動させた。その音は、よく通るもので、いつも二人が聴き慣れている加藤所長その人の声に、間違いない。


「私は後悔などしていない。私の計画はあと少しで完全に成功する。だから、できることなら止めないで欲しかった。たった一人の我儘から始まった。しかし、年月を経る内に一人の我儘ではなくなっていった。

 どんどん大きくなっていった。勿論私は自身の計画の成功の為に手段を選ぼうとはしなかった。

 その為に力を欲した。やりたくないこと…汚れ仕事も多くやった。どれだけの人の人生を潰してきたのかもう手では数えることはできない。

 私はもう罪深き人間なんだよ。そうまてまして私が成し遂げたいこととはなんだと思う?」


 加藤所長は質問した。質問した時には窓から離れて椅子に座った。しかし、まだ窓の方を見つめて二人の方を向いていない。二人には一体、加藤所長が何を考えているのかほとんどわからなかった。かろうじて口元の動きが、窓にうっすらと映る加藤翔也を凝視してようやくわかる程度のものだった。


「貴方がやりたいことは分からないしもし聞いても永遠に理解することはないと思う」


「…紀基義孝君、私の質問に答えてくれるかね?君と解答は解答ではない。唯、自分の言いたいことを感情のままに言っているだけだ。

 もう一度聞こう。これには、田中君も答えてほしい。

 私が成し遂げたい計画とは一体なんなのか。これを答えてほしい。何故答えろと言われているのかわからないという表情をしているな。これについては、理由を知ればわかるだろう。勿論それを話したところで私は失脚などしない。しかし、万が一があった時に私は全てを捨てる覚悟もできている。君たちにその覚悟があるのか?」


 普段の加藤所長ならば絶対な使わない言葉だった。濃厚に放たれている殺気に寄与していた。


「俺は、俺はあんたが!!加藤翔也という人間に失望した!!」


「ほう?それはどういうことでしょうか?」


「俺は、こんなことをされるとは聞いていなかった。誰からも!!」


「罪の意識から逃げたい…と持ちかけてきたのは貴方ではない。貴方の父親だ。私は、君の父親に全てを話しました。その上で、君には黙っていて欲しいと頼まれましたから。

 その時君の父上はこうおっしゃっていましたよ。


 私は義孝の育て方を誤った。あの子を正しき方向に導いて欲しい。


 これは、一つの答えを示しています。義孝君の御両親は確かに君のことを愛してくれていた。大切に思っていたということがです」


「くっ…でも、それを父さんに言ったのは俺だ!!そしたら、いつの間にかこうなっていた。俺はあの日寝ていたんだ。そして起きたらその時には既に拘束されていた。その時にあんたが来た。言ったよな。

 ここは罪を償う場だと。そのためにここはあると。そして、また眠った。起きたら今度は姿すら変えられていた。これは俺の罪を償うものなのか!?」


「…君は分かっていない。君の父上が私に頼んだことの意図も。私が君望んだことも。全て」


 加藤所長は、義孝に完全に軽蔑の視線を送っていた。それは、義孝が計画の一端すらも理解することができないないだけでなく、父親が…義孝を愛してくれている存在の意図することすら、分からないことに対して送られたものだった。

 しかし、そんな言葉に対しても義孝は体を小さく震えさせていた。その全身から出ていたのは怒気。それも凄まじい程の。それは、和人が今まで見たことのない類のものだ。


「何故これが俺の罪を償うことになるのか教えてくれ」


 苦虫を噛み潰したように義孝は言った。加藤所長に答えを求めたくなかったのだろう。怒りというものがあっても、答えに辿りつかない方が義孝は嫌だった。だから、己のプライドを、考えを捻じ曲げてでも聞いたのだ。義孝に取っては一つの大きな決心と言えよう。しかし、そんな義孝の決心すらも嘲笑うように加藤所長はため息を吐いた。


「何かあった時に誰かに答えを求めれば、必ず答えてくれる。そんな環境ここには有りませんよ?君の父上はもう一つ仰っておられました。


 もし仮に義孝がこれの意図を聞いて来た時には答えを与えるなと。


 私はあくまでもこれに従わせてもらいます。ただ、あえてヒントを与えましょう。もしこれで分からなかったとしたら貴方はどうしようもありません。


 田中君。君はまだ恩人であるを五十嵐龍成君の事故を起こした被疑者を恨んでいますか?まだ怒りの気持ちはありますか?」


 唐突だった。その質問に和人は困惑した。何故今そのようなことを聞くのか全く理解できないのだ。しかし和人は、今の自分の気持ちに正直に答えようと思った。和人の頭の中には五十嵐や仲間たちと過ごした自分を変えてくれたかけがいのない日常が駆け回っていた。

 喧嘩したこと、嬉しかったこと、一緒に笑いそして泣いたこと。

 本当に様々な日々だった。それが誠の思い出なのであろうと和人は容易に感じた。


 和人は気持ちを本音を言う前に大きく息を吸った。そのまま肩は上がったが何を考えていたのか深呼吸をすると少し息を止めていた。少しして吐いた。そして閉じていた目をゆっくりと開けた。


「俺は正直まだ許せないでいます。どこの企業の御曹司かは知りません。ですが、葬式の時に五十嵐を侮辱した。そして、自分を優先させた。それに関しては許せない。五十嵐に…五十嵐龍成の墓前でしっかりと謝って欲しい。それが俺の本音です」


「…ありがとうございます」


 加藤所長は頭を下げていた。なぜこれで頭を下げていたのかも和人には理解できなかった。

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