施設の秘密「狂気」
その豹変した空気を変えループことができる存在は唯一、一人しかいなかった。そうこの空気を作り出す原因となって鈴木だ。当の鈴木は、10分ほど経ってもまだ、天井を向いていた。その表情は暗く、今にも気を失ってしまいそうなほど顔色も悪い。
二人はここまでくると、いよいよ不審に思いだした。
ここまで、悩むほどの情報なのかと。しかし、二人は待った。その永遠とも思うことのできる時間を待った。ただただ待った。二人には、余計な言葉を鈴木にかけることはできない。
できることは、鈴木を待つことだけだった。
「待たせてしまったね。いや、不安にさせてしまったのかな?もしかしたら、僕がもうこのことを核心の部分を言わないで放棄するのかもしれないって。もしそう思ってたのなら謝るよ。ごめん。でも、僕にも少し考えていたことがあるんだ。
さっきも言ったように、僕自身その実験に大きく関わっていた。それはつまり、その実験の被験者…ここの入所者たちに拭うことのできない程の心の傷を負わせてしまったということに等しいからね。その罪は大きい。そのことに気付かされたよ。本当に情けないし申し訳ないよ。僕は当時それをなんとも思わず…いや、何かは思っていたのかもしれない。だけど自分が傷つくのが嫌で考えることを避けていた。たがら、今、悩んでしまっているんだ。
僕の罪は償うことはできない。だけどできることもある。罪滅ぼしという意味も含めて、僕が行ってきた恐ろしいことの一端を聞いてくれるかな。僕の懺悔をね」
鈴木はなんとも言えない表情をした。その表情からは、自分は大変なことをしてしまった。もう後には戻れないという、ある種の覚悟のようなものも感じ取ることができる。
「その実験は、再生細胞の真髄とも言える部分を実験しようとして立案されたものなんだ。
そして、そのために用いられたのが、四肢を切断すること。それを何回もする事で、より正確なデータを得ていった。だけどそれだけならば、はっきり言って麻酔で眠らせて勝手にやればいい。なのに、なぜ殺したいに近しいことをさせたか。それはね、そう言った時に起こる人間の心理状況を知るために行われた実験であることも示しているんだ。
こんなこと考えたのは本当に愚かだと思う。けれども、僕自身もその計画には了承したよ。研究主任として印鑑を押したんだ。だから僕の罪はそれを発案したもの。そして、それを実際に行ったものと同等なんだ。
その実験では、随分と苦しんだと思うよ。だって、そもそも入所者を監禁してしまうところから始めんだから。
これが一つ目の実験だ」
「一つ目の実験…これよりも悲惨なことが行われていませんよね?」
義孝の発言に鈴木は頷いた。
「君たちの関係者の中でこんな話を聞いていないかい?
特に何もしていた訳でもないけれど、寝ている時にも授業を受け続けていたような気がするって話をね。
これはね、事実だよ。この実験は再生細胞はそこまで関係ないんだ。この施設は、実験に理由をつけて、様々な実験を行なっている。世界の闇の一端は見ることができると思うけどね。
話が逸れたね。その実験というのはね、教育業界からの提案で始まったんだ。
動機は、人間はどこまで高めることができるのか…ということらしい。全く虚しい理由で入所者を危険に巻き込むものだと思うよ。それに表情も声色も何一つとして変えはことのなかった加藤所長もね。本当にあの人の異常性というか、そんなものが垣間見える瞬間でもあったね」
「でも、その実験は人体に危険はなかったんですのね?ならなぜここで実験する必要があったんですか?」
義孝の素朴な疑問に、対して鈴木はほとんど反応するそぶりを見せずその目は部屋に窓がないにもかかわらず外の海を見て感傷に浸っているようであった。
その目はひどく辛そうで感情の全てを押し殺していた。だからこそ感傷に浸るような目になっていたのだ。
「当時の最新技術だった。当時はそれを教育に使うなどどうなのか?という意見が大勢を占めていた。だけど、教育関係者はこの実験の結果を見て目を丸くしたらしい。それだけ彼らにとっては素晴らしい実験結果になったと言うことだろうね。
でも、この実験をする上での最大の問題点があった。
それは、安全性がわからないということ。そして当然ではあるけれども、誰も試した事がないこと。この二つが…特に前者の方の理由で普通には実験できなかった。そこに白羽の矢を立てられたのがこの施設の入所者たち。つまり君たちだ」
和人はここで一つの疑問を胸に抱いた。その疑問は一人の力で解決することはまず不可能であり、それを知ることで、この施設を潰す大きな鍵になるのは間違いないと確信をしていた。その疑問とは、この施設でしていた実験とは一体なんなのか。なぜ、加藤所長は、その実験にこだわっているのか。いや、こだわってはいないのかもしれない。だとしても、何故、鈴木の話のようにあっさりと実験に許可を出したのか。そこに和人は大きな鍵があると考えたのだ。
しかし、それは今すぐには知ることはできない。今、和人ができるのは鈴木の話から推察をするにとどまる。
そこから得た情報や、推察を基軸として、加藤所長の過去を考えるという事が今できる最善手であろうと結論付けて鈴木の話を聞くのに専念した。




