過去の過去
「稲村さんはどうなんだ?
というかどんな生活をしてきたんだ?」
稲村さんは息を吐いて語り始めた。
「私は昔テロ活動をしていた。
何人殺ったかなんてもう覚えてはいない。
ただ、私が今生きているのはこの施設のおかげでもある。
私の体はテロと同時にドラッグの使用で体はボロボロだった。
17歳にして視力もかなり落ちていて飛蚊症というものを聞いたことがあるかはわからないけれどそれになっていた。
要は失明の一歩手前ね。
さらには日常的に吐血もしていた。
本当に死にかけよね。
それでも殺しをテロをするには集中力が必要でそのためにかなり強いドラッグを使用していた。
体なんてどうでもよかったのよ。
当時はね…。
でも、今は生きていることを実感できることを感謝しているのよ。
それは私に大きな変化をもたらした。
そのおかげで今まで見えなかったものが見えた。
…もう少し言わせてもらうわ。
そもそも私がテロに走ることになった理由だけど…ごめんなさい。
これはまだ話したくない。
このことはまだ誰にも話したことがない。
ただ一つ言えることがあるのだけど所長は知っている。
ほぼ確実にね。
じゃないとあんなこと言えない。
私は逮捕された後みんなと同じように小さくなった。
そのあとは長い夢を見ていた。
どんな夢かというと私自身が殺される夢。
何百回と何万回もね。
時に戦場、時に暗殺に失敗、時に自爆テロまたある時は、死刑になったり寿命で死んだり病死したり餓死したり本当に色々。
不思議なことにその記憶は全部残っているし勉強していたという記憶すらある。
実際やった問題は解ける。
だから夢の中で勉強もしていたことになる。
私がその終わることのないと思っていた夢から解放されたのは四年経ってからだった。
ただ私自身には四年と感じないほどに長い時間だった。
本当におかしくなりそうだったよ。
さらに不思議なことに筋肉がちゃんとあるんだよ。
目覚めてすぐに歩いても全く気にならないし筋肉痛にもならないんだよ。
それが一番不思議なこと。
私もう何が何だかわからなくて混乱したわ…でもそれは当然のこと。
だってさっき言ったようなことが現実に起きたら驚かざるを得ないでしょう?」
稲村さんはほんの僅か笑みを顔に浮かべて言った。
和人は必死に考えていた。
なんなんだなんなんだよここは…一人は犯罪とは無縁で一人はテロリスト一体どういうことだ?しかもボロボロの体が修復される。
俺には全くわからない。
何が目的なんだ?
なぜこんなことを?
「大丈夫か和人?」
義孝の声が聞こえてきた。
ハッとした。
「あ、うん大丈夫。
でも、二人に話を聞いてなおのこと分からなくなった。
俺たちは一体なんのためにここにいるのかも分からなくなってきた。
なんか全てがあの所長の手のひらで動かされているような気がする」
「全てが動かされているかは分からないが謎が深まったのは間違いないな。
でもわかったこともある。
少なくともこれでこの施設には国が大きく関わっていてかつ加藤翔也という人間はかなり大きな権力を持つ人間であることが推測することができる」
「そうだな」
「田中君、君はハッキングとかできる?」
唐突に稲村さんは聞いた。
「本当に少しならできる」
「それなら問題ないわ。
田中君、私にも協力をしてほしい」
「それでハッキングの技術で何をする気なんだ?
そもそも前にテロリストなんかしていたならハッキングくらいなら稲村でもできるんじゃないか?」
「できる。
できるけど私がやろうとしていることはどう考えても二人以上は必要。
できることな3人はほしい。
でも、二人でもできないことはない」
「それで何をする気なんだ?」
「メインサーバーの中を見る」
その場にいた人間が固まった。
メインサーバーを見るということはどういうことかをきちんと理解していたからだ。
最初の段階でネットに繋ぐとすぐにわかると言われていた。
ならばそんなハッキングなんかしたらどうなるかわかったものではない。
どんな目に遭わされるか分からないのにもかかわらず危険な賭けを稲村はしようとしていたのだ。
和人も加担したくないと考えるのは必至だった。
和人は数十秒考え込んだ。
そして、ようやく言葉を発することができた。
「どうなるか分からないぞ?
それでもするというのか?」
「ええそうよ。それに無謀でもないの。
ちゃんと計画だってある。
そのためには全員の協力が不可欠。
まずはマシンが欲しい。
それもかなりハイスペックな奴がね。
そんなの到底売ってなんかいない。
だから自作する必要があるんだ。
ポイントの方も足りないしそこの面でも協力して欲しいんだよ。
頼めるかな?」
切実な声だった。
しかし、それでハイそうですかと言って簡単に協力するわけにはいかない。
これには少なくないリスクが含まれている。
成功した時のことを考えれば決して悪くはない提案なのかもしれない。
だが、失敗した時のことを考えるとおそらくここにいる全員が得体も知れない薬物を打たれるかもしれないしとんでもない懲罰や人体実験が待っている恐れもある。
要はどちらを取るかだ。
リスクを恐れていては何もできない。
失敗するのが怖いのなら失敗しないようにすればいいだけだ。
俺にだってアイデアとかくらいは出せる。
だったら協力するべきなのか?
「協力しよう」
唐突に義孝は言った。
「決断が早いのね」
「俺はこの施設を知るためにここにいたい。
一つでいい。
何か大きな目的が欲しいそれだけだ」
和人は天井を見た。
目的…か2日前のことなのになぜだろう。
頭からぽっかりと抜けていた。
そうだ。
俺は決意した。
この施設を潰すと。
そのために情報を集めていたんじゃないか。
何を躊躇うことがあるんだ。
「乗ろう。
俺のできる範囲で最大限協力する」
「何かを見定めた目をしているな。
和人、お前悩みが吹っ切れたという感じだな」
義孝は言った。
「いや、思い出しただけだ」
「そうかそうでなくちゃな。
始めようか!!」
義孝はやや興奮気味に言った。
その姿はまるで少しスリルのある遊びをする時の子供の姿そのものだった。
「ちょっと!!私を忘れないでよ…」
田村が少しそう怒ったように言った。
「大丈夫だよ。ありがとう。一人一人目的は違えど過程は同じ。
ならば協力してことを進める!
それが私たちのできる最大のこと」
その場にいた田村、義孝、和人の3人は稲村の言葉に頷いた。
そして、それを確認した稲村は具体的な計画の話を始めた。
「それじゃ計画の話なんだけどーーー」




