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幼児退行  作者: 藤原
新たなる生活
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理由

鈴木はその後も毎日来て調べた。


しかし和人には褒めて以降は話すことはなかった。


和人にとってはそれは嫌な状況だった。


なぜなら会話や動作を見ることで情報を得ようとしていたからだ。


それが鈴木は何もしないせいで情報を得ることができなかった。


和人はもうそろそろ赤ちゃんの体にも慣れてきていた。

厳密にいうとオムツになれたのだ。

身動きが取れない以上は排泄は当然オムツになる。


最初の方は、それが屈辱的で嫌だった。

しかしそれしかするところがない。

人間は生理現象は自らの意思で止めることはできない。


オムツが取れるまでは後2、3年程だった。

普通に成長していれば、の話だが。


和人はこの施設には何か裏の部分があると感じていた。


それは知ってはいけないことだということもわかっていた。

それでも知りたかった。


そんな時電話が鈴木にかかって出た時に話し声が聞こえた。


「わかりました。

はい特に問題はないと思います。

え?

そうですね…。

第二段階にはいればもう少し良い変化が望めると思いますよ。


それからメンタル面のこともお願いしますよ。

あんな姿ですが中身は高校生なのですから」


何となく物騒な会話だと感じた。

何か自分の身に危険なことが施される。

そんな気分だった。


頭はついて言っても体はついていかない。

すぐに眠くなってしまう。

それが三ヶ月位の赤ちゃんの体だ。


眠いとすぐに寝てしまう。

そんな理由で鈴木の電話は最後まで聞くことができなかった。


「寝たか…これなら気兼ねなく会話しても何かを探られる危険はない。

もとより、この子の頭で我々の計画を暴こうなど無理難題ですがね」


「貴方は悪い人ですね。

極悪人のようですよ」


「ふっ…。

それを貴女に言われたくはないな。

和人君や美香さん。

その他多くの子達を赤ちゃんとして扱っているのに」


「それはお互い様ですよ。

鈴木さんだって、あの子達を赤ちゃんとしか見ていないんじゃありませんか?」


「私はそんなことは思っていない。

むしろ彼らには敬意を表する」


「人類の進歩の為に役に立っているからですか?」


小林は笑っていた。

そして鈴木も静かに笑っていた。


何ともドス黒い妙な雰囲気を醸し出しながら。


「私の言いたかった言葉を奪わないで欲しいな。


それに、人類の進歩に役に立つかは私にも分からないのだよ。


ただ研究者としては無限の可能性があると思う」


「マッドサイエンティスト…

貴方はこの称号がふさわしいのかもしれませんね。


貴方の行なっていることは一種の人体実験なのですから。


昔なら非人道的だと言われていた。

その以前に絶対にすることができなかった。

そんなことを今貴方は行なっている」


「…返す言葉もありません。

しかし、法律には何も反していない。

第一彼等はなぜここにいると思います?」


「それを言ったらおしまいです」


鈴木は構わずに続けた。


「彼等は犯罪をした。

それもかなりの重罪だ。

この国は我々が子供の時過ごした日本ではない。


社会システムはさほど変わらないが犯罪者に対する扱いがガラッと変わってしまった。

…がそのおかげでこの国の医学そして科学は劇的に進歩した」


「そうかもしれない。

でも、私はあの子達にも人権はあってしかるべきだと思います。

犯罪をしたとしても人間なのですから」


「…人間ですか。

そんな考え方もあるでしょう。

でもね、それでも法律が今は優先されるのですよ。

無論犯罪者に対して…ではありますがね」


「そんなこと言っても!

それでもあの子達の精神面はどうなるんですか!?」


「自分のことを棚に上げておいてよくそんなことが言えますね。


そんなこと誰しもが思っていることなのですよ。


それを言葉にするかしないかそれだけです。


今そんなことを言っているということは仕事を放棄する、と言っているに等しい。

それでもよろしいんですか?」


「そんな訳ないでしょう!

でも!」


「まさかあの子達に情が移ったんじゃありませんよね?」



ハッと小林は鈴木の方を見つめた。


「そんなことはあり得ません」


「一つだけ言っておきます。

人間なので弱い部分はある。

しかしあまりにいきすぎた情を覚えてしまうと後々後悔することになりますよ。


…出過ぎたことを言ったかもしれませんね」


「いえ、大丈夫ですよ。

平気です」


そう言う小林は明らかに動揺していた。


鈴木は会話を終えると素早く所長室に移動した。


私は間違っていない。

私は全て人類のためにこれをしている。

例え私が悪人になったとしても。


鈴木は所長室に向かう途中でそう考えていた。


所長室の前のドアに立つと手汗が出てきた。

鈴木にとってこの部屋に入るのは一度や二度ではない。


にも関わらずそれだけ緊張するのはそれほどまでに加藤所長に独特のオーラを持っていたのだ。


「…失礼します」


「どうぞ」


静かな落ち着いた低い声が聞こえた。


「所長私に一体何のご用件でしょうか?」


「おや、もうそんな時間でしたか。

はい、君をここに呼んだのは和人くんと美香さんのことについてです」


「と言いますと?」


「鈴木くん君もわかっているでしょう?

聞きましたよ。

君があの二人を一番よく調べていると」


「耳が早いですね。

一体誰から聞いたんですか?」


「私も所長なんで色々と情報は入ってきますから」


「なるほど。

それで一体何が聞きたいんですか?」


「君も悪い性格をしていますね。

わかっているのでしょう?」


加藤所長は苦笑しながら言った。

それに微笑して鈴木も答えた。


「所長が私には聞きたいのは、あの二人の何がそんなにいいのか。


もっと言うとあの子達にしかないことを知りたいのでしょう?

違いますか?」


「大まかには正解です。

だが一つ足りない」


「その一つとは?」


「役に立つかどうかですよ。

私にとってももっと言えば君にとっても」


衝撃的な一言だった。


前話より文字数を少し増やしてみました。

今までよりも読み応えはあると思います。

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