会議②
「それでは次に鈴木君と松岡君よろしくお願いします」
「我々が今月報告することは先月と大きくは変わりません」
そう前置きしたのは、鈴木だった。
鈴木は185cmもある長身に加えて、学生時代にやっていたという、陸上競技の中の投擲特にハンマー投げをしていたことによる筋肉が凄い強面の男だった。
「皆さんもご存知の通りこの施設では幼児化の研究も行なっております。
今月の成果はTBYT4の副作用が少なくなったことによってよりスムーズなペースで体を幼児化することが可能となりました。
ただし体への負担が大きいことからそこまで強い負担はかけられない。
つまりこれ以上体を幼児化させる期間を短くさせるのは不可能かもしれません。
そこだけご了承願いたい。
今後も研究していきますが、我々は今後彼らの体を手術なしで完璧に幼児化させるという研究に重きを置きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「それは期間を短くする研究も並行的に進めるという前提でのお話ですよね?」
「もちろんです。
重きをおくのが違うためスピードは落ちますがそちらもしっかりと研究していくつもりではります」
「それなら構いません。
これからもよろしくお願いします」
「それからもう一つ報告があります。
先日新たに研究に参加したいという企業が現れました。
名前はTKZ。
世界最大の医薬品メーカーです。
TKZに関してのデータは総務の荒川部長に調べていただきました。
我々研究する側としては断る理由はありません。
研究費ということなかなりの金額が入ってくることにもなりますから」
「そんな話があるとは…。
三年も経っているのに珍しいですね。
そんな巨大企業が今更参加するだなんて。
荒川君TKZについての説明をお願いします」
「分かりました」
荒川は見た目こそ平凡であったが回りを見る目そして気配りができる。
その上に、先々まで見通して行動することができるというまさに総務のために生まれてきたような人間であった。
「TKZですが先ほど鈴木さんからもあったように、売上では世界最大の医薬品メーカーです。
売上は昨年は8兆円一昨年は7兆九千億円過去十年を平均すると約七兆八千億円の売上があります。
ここ最近では積極的な経営をしておりここ二、三年の売上が伸びているのはそのためと考えられます。
さらに赤字にもなったことがなく、ここ五年の利益額は平均で五千億円を超えています。
企業としては文句のつけようもない企業であると言えます。
研究費としてこちらに入る金額はTKZは年間で5億払うと言っています」
「その話は本当ですか?」
「はい、本当のことです。
しかし一つ問題があります」
「その問題とは?」
一言一言ゆっくりと加藤所長は質問した。
「今参加している企業の三倍の人数の研究者を送り込むことを認めろということです。
これを認めるというとは実質向こうに研究の主導権を渡すようなものです。
正直私には彼らの利益が最優先のように思えます」
加藤所長は最後の一言で目つきが鋭くなった。
「荒川君、君は会社は何のために存在していると思いますか?
利益を生むために存在しているのです。
今研究に参加している企業しかり。
どのような企業でもそうなのです。
しかしこのTKZは強引すぎますね。
鈴木君どう思いますか?
実際に研究しているのは鈴木君ですのでこれにより不便が生じるのであれば断りましょう」
「私は反対です。
理由は荒川部長もおっしゃっておりましたが、これは我々の研究の乗っ取り以外何者でもありません。
我々の手で今のように研究したいのであれば断るべきです」
「鈴木君がそう思うのであれば私は構いません。
荒川君TKZに断りの連絡をお願いします」
「分かりました
ありがとうございます」
「さて…そろそろ決めるべきことも決めましたし時間も長くなってきました。
ここら辺でお開きにしましょうか」
そう言われて森が時計を見ると午後2時に始まったはずなのに今は午後6時になっていた。
こうして長い長い定例会議は幕を下ろした。